今回の【試乗評価】は、「新型 日産 シルフィ G(3代目・B17)」。
2012年にフルモデルチェンジした、中小型クラスの4ドアセダンです。
2000年に登場した、「初代 日産・ブルーバード シルフィ」は、サニーをベースに開発されたサニー系の上級車種。なんですが、開発している途中にブルーバードの生産中止が決まり、「ブルーバードの名前が無くなるのは寂しいね」と急遽「ブルーバード」の冠が付けられた行き当たりばったりな出自(あくまでもネーミング上のはなしですが)の車です。少々室内は狭めですが、保守的で上品な外観が中高年層に受け、当時街でも見かけることが多かったです。
今回の3代目シルフィは、大きくボディサイズを拡大してシルフィとしては初めて3ナンバーサイズ(全幅1760mm)を超えました。拡大した全幅に対して全高がやや低い(1495mm)、いわゆるロー&ワイドなプロポーションで地味な初代と比べると見違えるほどカッコいいです。
世界戦略車として、主に中国やタイ、ASEAN諸国などの新興国向けに開発されています。まあ、日本市場は「おまけ」って感じでしょうか。ターゲットは、60代の男性。中高年向けの車としては少々カッコ良すぎる気もしますが、昔と違って最近の60代は若々しいので、これくらいスタイリッシュな方がピッタリとハマるのかもしれません。
今回のモデルチェンジで車名から伝統ある「ブルーバード」の文字が外れてます。つまり、「初代 日産・ブルーバード シルフィ」から数えると3代目。「日産・シルフィ」としては初代というややこしい事になってるんですね。
「新型 日産 シルフィ G(3代目・B17)」の概要
「ブルーバード」の名前が外れたといっても、元々「シルフィ」はブルーバードとは全く関係無い車なんで「本来のカタチに戻った」というのが正確かもしれません。形式番号もサニー系の「B17」ですし。
モデルチェンジによってボディサイズをひと回り拡大しつつ、日本の狭い道路で便利に使える手頃なサイズを維持してます。逆に室内はそれなりの質感を備えてますから、「ティアナ」なんかのより上級な車種からの乗り換えも捗りそうです。これに小排気量ターボやデュアルクラッチ式トランスミッションなんかを組み合わせると、さらに扱いやすくなるんですが(税金も下がるし)、設計の古い車なんでそのあたりは次期モデルに期待したいと思います。
プラットフォームは「マーチ」と同じ
基本となるプラットフォーム(基本骨格)には、マーチやティーダなどにも使われている「Bプラットフォーム」を採用。シルフィはマーチなんかと比較すればひとクラス上ですが、車格にふさわしい補強がしっかりと入ってるんで心配いりません。ボディ剛性および質感はマーチよりも明らかに高いです。
パワートレーンは「1.8Lのツインカムエンジン+副変速機付きCVT(無段変速機)」の一本のみ。最近流行りの「ダウンサイジングターボ」はありません。
ライバルは「トヨタ・プレミオ&アリオン」
ライバルは、「トヨタ・プレミオ&アリオン」や「スバル・インプレッサ G4」、「ホンダ・シビック セダン」、「マツダ・アクセラ セダン」など中小型セダンたち。
ターゲットを中高年層に絞っていると考えれば、ガチンコ勝負でぶつかるのは「トヨタ・プレミオ&アリオン」あたりでしょうか。
マイナーチェンジ情報
2012年に登場してからすでに6年以上が過ぎてますが、今までマイナーチェンジは行われていません(2018年10月現在)。
外観
ボディサイズ、全長4615mmX全幅1760mmX全高1495mm。ホイールベース、2700mm。
ガッシリとした塊感のある先代に対して、新型シルフィはおおらかなラインで構成されたアメリカンなスタイリング。「落ち着きのある高齢者をターゲットにしている」という割に、結構アグレッシブな感じがします。
フロント
グラマラスなフロントノーズに、楔形のLEDヘッドライト。有機的なラインとキリッとしたヘッドライトが対比されることで、アグレッシブな感じを強調してます。それでいてそこはかとなく「落ち着き」を感じさせるのは端正なグリルのせいでしょうか。これなら「年がえもなく若作りして」なんて陰口を叩かれる心配はありません。
サイド
有機的なラインで構成された分厚いボディに、巨大なキャビン(居住空間)。傾斜の強い前後ピラー(柱)が組み合わされ、ワンモーションに近い近未来的フォルムになってます。フェンダー周りのダイナミックな”うねり”とか、全体を包むアメリカンな雰囲気なんかは上級車種「日産・ティアナ」の弟分って感じです。
リア
ハイデッキ化された(トランク上端が高い)リアエンドに、強く傾斜したリアウィンドウ。がっしりとした力強さを感じさせるヒップライン。実際はうすい鉄板一枚で作られているんですが、中に硬い金属がギッシリと詰まっているような感じがあります。簡単に言ってしまえば「重厚感がある」ってことです。
内装
輝度の低いシルバーパネルがちょっとだけおもちゃっぽいですが、ソフトバッドや木目調パネル、ファインビジョンメーターなんかが装備され「全体の質感はまずまず」って感じです。
室内が広いんで大人4人で座っても窮屈感は全然ありません。軽自動車やミニバンなんかと比べると小物入れ関係が少なく、そういった意味での使い勝手はいまひとつです。
スタイリッシュなボディ形状の割りに視界が広く、ボディの見切りも上々。運転しやすい車です。さすがに高齢者層をターゲットにしているだけのことはあります。
シート
フロントシートは、がっちりとした厚みのあるクッションに適度なサイドサポート。サイズもちょうど良いゆったり加減で座りやすいです。腰回りが落ち込みすぎず、かといって出しゃばることもなく”緩やかなR”で腰を包み込むように支えます。長時間ドライブでも疲れにくいです。
リアシートでびっくりしたのは、思った以上に足元空間が広いことです。普通体系の人なら脚を組んでもつっかえることはありません。ややルーフエンドが下降しているものの、実際の頭上空間にも適切なサイズが確保されてます。コシのあるクッションに手触りの良い表皮が組み合わされるので、長時間ドライブも楽ちん。成人男性二人が座っても狭苦しさはありません。
荷室
リアサスは比較的簡素なトーションビーム式なんですが、意外と荷室への出っ張りが大きいです。そうはいっても容量自体が大きいので結構沢山の荷物が積めそうです。リアシート背もたれ中央にはトランクスルー用の小窓が付きますので、スキーや釣り竿など長尺物を積む時に便利です。大人二人+子供二人なら、2泊3日旅行も余裕でしょう。
静粛性
高剛性ボディに十分な遮音材。トルクフルなエンジンとスムーズなCVTが組み合わされるんで、室内の静粛性はクラス標準以上です。サニー系上級車種として企画されただけのことはあります。
エンジンとトランスミッション
1798ccの直列4気筒DOHCエンジンに、CVT(無段変速機)を装備。
エンジンは、最大出力131ps/6000rpm、最大トルク17.7kgf・m/3600rpmを発揮。
車両重量、1240kg。JC08モード燃費、15.6km/l。
エンジン
1.8Lのツインカムエンジンで前輪を駆動(FF)。面白さとかスポーティな感じはあまり無いんですが、車重に見合った十分なパワーがあります。よく出来た普通の実用型エンジンって感じです。
トルクの出方が穏やかなんで、平坦な街中ならスムーズに加速します。ただし、「先代 ブルーバード シルフィ」のエンジンを大幅にリファインして使っているとはいえ、設計が古いので「アイドリングストップ」などの最新デバイスは付きません。そのせいで燃費性能はちょっと平凡な数値です。
トランスミッション
ジャトコ製の副変速機付きCVTを搭載。エンジン回転をなるべく低めに保って燃費を稼ぐセッティングですが、エコカーやコンパクトカーにありがちな「ラバーバンドフィール(※)」は控えめ。アクセルの踏み込み量に対して自然にスピードが高まる感じです。
※アクセルを踏み込んでもエンジン回転が高まるばかりで、なかなか車速が上がらない状態。CVT特有のクセ。ただし、このフィールが出るという事はそれだけ燃費を重視しているという事でもあるので、一概に悪いとは言えない。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、195/60R16。
ストロークのあるダンパーと高剛性ボディを組み合わせた厚みのある乗り味。やや硬めの印象ですが、あたりが穏やかなので不快には感じません。静粛性の高さも手伝って、ひとクラス上の上質感があります。一言で言うと「乗り心地が良い」って感じです。
高速域での安定性も高く、多少乱暴にレーンチェンジをしたくらいでは安定感を失いません。落ち着きのある挙動でフラットな姿勢を維持。ビシッと矢のように直進しちゃいます。
ハンドリング
高剛性ボディに高精度な足回りがガッチリと組み付けられた、スポーティで安定感のあるハンドリング。ドライバーの操舵に素直に反応して、正確なターンを描きます。
といってもスポーツカーのような過激さは無く、そこはかとなく上質感というか穏やかさみたいなものが伴うんですが。なんというか、乗用車にふさわしい疲れにくいセッティングです。
最小回転半径、5.2m。先代と比較すると-10cmも小さくなってます。大きなボディの割りに小回りが効くんで、狭い路地でも簡単に切り返すことができます。
評価のまとめ
「新型 日産 シルフィ G(3代目・B17)」は、60代の夫婦をターゲットに開発されたごく普通の中小型セダン(4ドア)。
先代よりも全高がやや低くなり、逆に車幅や全長は拡大。いわゆるロー&ワイドなプロポーションで、バランスの良いスタイリングになりました。そのおかげで室内やラゲッジスペースにも余裕が生まれてます。
エンジンから足回りまで特に目立ったところはありませんが、この手のセダンにはそういった普通さが大事です。言葉で表すなら「癒やし」とか「穏やかさ」といった感じでしょうか。その分、乗用車的な資質をしっかりと磨き込んだバランスの良さが光ります。車格の割りに価格もお手頃で、コストパフォーマンスも結構高いです。
ただし、先進安全技術などの最新デバイスは搭載されてません。まあ、このあたりは発売から5年以上が経っているため、仕方の無い部分もありますが。ビッグマイナーチェンジか、もしくは次のモデルチェンジに期待したいです。
ターゲットとなっている60代から中年層まで、日常の足として便利に使い倒すのにピッタリな車です。ボディが拡大されたおかげで室内やラゲッジも広くなっており、ファミリカーとしても十分使えます。
中古車市場では
2017年式「日産 シルフィ G(3代目・B17)」で170万円前後。2014年式なら110万円前後(2018年10月現在)。「G」は上級グレードなんですけど、初年度から結構値落ちが激しいです。それだけ「セダンの人気が無い」ってことなんですが、逆に言うとこういうタイプの車が好きな人にとっては良い時代になりました。
新車価格
2,458,080円(消費税込み)