今回の【評価レビュー】は「新型 トヨタ ヴィッツ GRスポーツ GR(3代目)」を試乗レポート。
2010年にフルモデルチェンジした、コンパクトな5ドアハッチバック(海外向けモデルには3ドアハッチバックも)です。「GRスポーツ GR」は市販モデルをベースにしたスポーティグレードで、2017年のマイナーチェンジと共に追加されました。
初代ヴィッツはスターレットの実質的な後継モデルですが、欧州市場を見据えた世界戦略車として、日本車離れした凝縮感のあるスタイリングとしっかりとした走りの質感、高い安全性能や優れた環境性能などが盛り込まれています。その完成度の高さは、コストを重視した国産コンパクトカーの中で異彩を放っており、発売と同時に大ヒットとなりました。
まあ、トヨタ品質と手頃な価格、欧州コンパクトカーにも負けない質感を同時に備えているのですから、これで人気にならない方がおかしいですけど。
2代目ヴィッツはそのコンセプトをそのまま受け継ぐキープコンセプトモデル。ボディサイズは若干拡大されましたが、なんとか5ナンバーサイズギリギリにおさめています。
今回の3代目ヴィッツは、プラットフォーム(基本骨格)こそ2代目を引き継ぐものの、凝縮感の無い曖昧なスタイリングとコストを重視した質感の低下、兄弟車アクアの人気の影に隠れ今ひとつパッとしませんでした。
王者トヨタでさえ、たまにこういった失敗をしてしまうのですから、自動車ビジネスというのは難しいもんです。
しかし、失敗をそのまま放置しないところがトヨタの王者たる所以。2014年に行われたビッグマイナーチェンジでは、内外装の大幅な変更とエンジンの刷新および改良、足回りの再調整など大幅な手直しが行われています。
※じっくり読む時間の無い人は、文末の「【評価レビュー】のまとめ」をどうぞ↓
「新型 トヨタ ヴィッツ GRスポーツ GR(3代目)」の概要
「GRスポーツ GR」は、2017年に追加された新グレードで、中期モデルにおいて「G Sports(G’s)」と呼ばれていたスポーティバージョンの後継グレードです。
スポット溶接の追加やザックス社製専用スポーツサスの装備。スポーティな内外装に専用大径ホイールなどが組み合わされ、見た目と内容の両面からスポーティな雰囲気を演出しています。
トヨタのスポーツブランド「GR」とは
トヨタはこの「GR」を「公道で乗って楽しめる」身近なスポーツブランドとして、スバル「STI」のように育て上げたいと考えているようです。これは僕の私見ですが、その先には若者を含めた幅広い層が車を文化として楽しむ「欧州型の自動車ビジネス(草レースとか古い車のレストアとか)」があるような気がします。
「GR」には、市販車をベースにライトチューンを施した「GRスポーツ」と、駆動系まで手が加えられた「GR」。台数を限定したメーカー純正チューニングカー「GRMN」の3ラインに加え、アフターパーツを楽しむ「GRパーツ」を設定。今後「GR」ブランドからは、追加モデルやオプションパーツが続々と発売される予定です。
マイナーチェンジ情報
3代目ヴィッツは、2014年と2017年の二度に渡ってマイナーチェンジを実施。順当に行けば2017年はモデルチェンジの時期ですが、次世代型ヴィッツ(4代目)のプラットフォームが変更されたためモデルチェンジが間に合わず、商品力強化のためのマイナーチェンジが行われました。
同時に待望のハイブリッドモデルも追加。アクアでは荷室や後席が狭くて使いづらいというユーザーニーズに応えています。
ヴィッツのライバルは?
ライバルは「ホンダ・フィット」や「日産・ノート」、「マツダ・デミオ」、「スズキ・スイフト」などの国産コンパクトカーたちです。
外観
ボディサイズ、全長3975mmX全幅1695mmX全高1490mm。ホイールベース、2510mm。
フロント
水平を貴重としたソリッド感のあるフロントマスク。フロントバンパーは「GR」専用で、吸気効率の良さそうな大型エアインテクを備えます。
サイド
短いノーズに大きなキャビン(居住空間)、ロングホイールベースを組み合わせた、スポーティで力強いワンモーションフォルム。ルーフエンドに装着されたGRリアスポイラー(オプション)が軽快感を強調しています。
リア
2回のマイナーチェンジを経て大きく外観イメージを刷新したヴィッツですが、リア周りだけは初期型と大して変わりません。ただし「GR」には、専用バンパーと専用リアコンビランプ(スモークレンズ)が装備されますので、スポーツグレードにふさわしい軽快感があります。
内装
内装デザインは基本的にベースグレードのヴィッツと同じ。ただし、ブラックを基調とした室内に専用小径ステアリングやアルミ製ペダル、カーボン調加飾パネルなどが装備され、かなりスポーティに仕上がっています。
最近の若い人は「黒=スポーティ」とはならないそうですが、僕ら中年には確実に届くデザインです。
シート
フロントシートは、スウェード調素材と合皮を組み合わせたコンビシート。ガッチリとした形状でドライバーの身体をしっかりと支えます。クッションの圧力も均一に調整されており、身体が不自然に沈み込むことはありません。
家にある古いヴィッツ(2代目)は腰回りのクッションがヘタって腰痛を起こしやすいのですが、このシートなら長年使い込んでも大丈夫そうです。
リアシートもフロントと同じスウェード調。座面の長さと角度、背もたれの高さともに適切で、身体に疲れをためにくいです。足元、頭上空間ともに十分なスペースが確保されており、大人二人で座っても窮屈感はありません。
荷室
荷室は、ベースグレードのヴィッツ同様小さめ(家族4人でギリギリ1泊旅行くらい)。背もたれを7:3で分割して倒せば、さらに荷室容量を拡大することもできます。
静粛性
スポーティなツインカムサウンドがほどよく車内に響きます。「GR」はスポーティグレードですから、これに文句をいっちゃあいけません。
エンジンとトランスミッション
1496cc・直列4気筒DOHCエンジンに、CVT(無段変速機)が組み合わされます。
エンジンは、109ps/6000rpmの最高出力と、13.9kgf・m/4800rpmの最大トルクを発揮。
車両重量1080kg。
エンジン
1.5Lのツインカムエンジンで前輪を駆動(FF)。このエンジンは、以前ヴィッツRSに搭載されていたモノと同じで、GR用の特別なチューニングは施されていません。
といってもボディが1t少々と軽量なため、ライトウェイトスポーツ用としては十分。エンジン回転を高めに保って走れば、パワーを使い切って走る楽しさがあります。いわゆる、「手の中に収まる」ってやつです。
トランスミッション
無断階に変速するCVT(マニュアルモード付き)を装備。パドルシフトを使って積極的に変速してやれば、擬似的な10速シーケンシャルシフトとして機能します。
変速はスポーティモデルにふさわしいリニアなフィール。Dモードのままでも、CVTならではのかったるさはありません。
CVT独特のフィールは燃費を重視したセッティングのせいで、本来はデメリットとして語られるべきものではありません。GRのトランスミッションにその手のフィールが無いという事は、逆に燃費は悪化していると思います(カタログに燃費数値は記載されていない)。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションを装備。
スポット溶接や補強ブレースの追加によってボディ剛性を強化。
乗り心地
装着されるタイヤは、前後ともに205/45R17(ポテンザRE050A)。
硬く引き締められたボディと、ザックス社製スポーツサスの装備によって、剛性感あふれるスポーティな乗り味を実現。
スポーティといってもダンパーのアタリがまろやかなため、鋭い衝撃を車内に伝えることはありません。「しっとりとした薄い膜の中に、硬質なゴムがギュッと詰まっている感じ」とでも言いましょうか。
高速域での直維性も高く、日常生活の足としても十分使えます。「普段は通勤や通学に使って、週末は峠に走りを楽しみに行く」なんてニーズにピッタリです。なにしろ若者はお金が無いので、「ミニバンとスポーツカーの荷台持ち」なんて芸当はできませんから。
ハンドリング
キビキビとした軽快なステアリングフィール。ボディとステアリングとの一体感が高く、僅かな操舵に対しても正確に反応して狙ったラインを外しません。
リアがしっかりと路面を捉え続けるため、うねりのある路面でもフラットな姿勢を維持し続けます。「ハンドリングと安定性のバランスが取れている」っちゅうやつです。
最小回転半径はベーシックモデルの4.5mに対して5.7mと結構大きめ。大径タイヤやスポーツサスの影響でしょうから、このあたりは仕方ありませんね。
【評価レビュー】のまとめ
「新型 トヨタ ヴィッツ GRスポーツ GR(3代目)」は、ベーシックなコンパクトハッチ「ヴィッツ」をベースに、スポーティな内外装と足回りを中心にライトチューンを施したスポーツグレードです。
エンジンはノーマルのままですが、引き締まった足回りに軽量ボディが組み合わされ、結構スポーティな走りを楽しめます。しかもベースとなっているのは普通のヴィッツですから、室内スペース&荷室ともに必要十分なサイズを確保。日常生活でも使える柔軟性が嬉しいです。
「走りの楽しいホットハッチを探しているが、欧州車では信頼性やサービス体勢が心配」とか、「使い勝手の良いコンパクトカーで、人とは違ったもうひと味が欲しい」なんて人に最適な車となります。
少し前まではこういった手頃なスポーティカーが少なかったのですが、最近なぜか徐々に増えてきてちょっと嬉しいです。今、僕が20代の若者で通勤に使う車を探しているとしたら、確実に候補の一つとしてあげるでしょうね。
中古車市場では
2017年式「トヨタ ヴィッツ GRスポーツ GR(3代目)」で2010万円前後。実質的な同系統モデル、2014年式「トヨタ ヴィッツ RS G`s」で100万円代前半(2018年式8月現在)。
新車価格
2,303,640円(消費税込み)