今回の【試乗評価】は「新型 ホンダ レジェンド ハイブリッド EX(KC2・5代目)」。
2015年にフルモデルチェンジした、Lクラスの4ドアセダンです。
北米市場で「アキュラ RLX スポーツハイブリッド SH-AWD」として販売されている高級ハイブリッドカーの日本バージョン。内容もほとんど同じです。
「アキュラ RLX」にはガソリン仕様もありますが、日本へ導入されるのはハイブリッド仕様のみ。軽自動車やコンパクトカー、ミニバンがもてはやされる日本市場はもとより、セダン人気の高い北米市場でもあんまり売れてません。
1985年に登場した初代レジェンドは、当時協力関係にあった「ローバー」と共同開発されたホンダ初のラグジュアリー4ドアセダン。欧州テイストの高級感とアメリカンなカッコよさを併せ持つ車として、北米、日本市場ともに高い人気を得ています。
続く2代目は、初代のコンセプトをさらに発展させ、本格的なラグジュアリー4ドアセダンとして開発されました。FF(前輪駆動)でありながらエンジンを縦置きにしてフロントアクスル(前輪の車軸)より後方に搭載する、特殊なレイアウト「フロントミッドシップ」を採用しています。
FF特有のトルクステアが出にくく、バイブレーションやノイズも小さい。前後重量配分に優れるなどFR(後輪駆動)に近い特性を持ちますが、反面、前輪に大きな駆動力を掛けるとスリップしやすいというデメリットも。
まあ、そんなデメリットを併せ持ちながらも、高級なフィールと、とにかくカッコいいスタイリングが受け、初代以上の人気者でしたね。当時20代の若者だった僕も憧れを持って眺めていたもんです。
「新型 ホンダ レジェンド ハイブリッド EX(KC2・5代目)」の概要
10年ぶりのモデルチェンジとなる「新型 ホンダ レジェンド ハイブリッド EX(KC2・5代目)」は、ホンダの最上級フラッグシップ4ドアセダンとして力の入ったクルマづくりが行われています。
中でも搭載されるハイブリッドシステムは「現行型NSX」に搭載されるシステムに近く、その運動性能はちょっとしたスポーツカー並です。
ただし、スタイリングに2代目あたりの都会的なスマートさは無く、セダン人気の低迷もあって日本市場での売上は芳しくありません。「なるほど、こういうデザインがアメリカ人好みなのか」と納得していると、北米での人気も低いそうで「じゃあこのとっつきにくいスタイリングは誰のため?」なんて疑問も湧いてきます。
先進のハイブリッドシステム
電気モーターは、フロントのトランスミッション内に1基。リアの左右にそれぞれ1基ずつ。合計3基の電気モーターを組み合わせて走るハイブリッドシステム「SPORT HYBRID SH-AWD」を搭載。
先代レジェンドに搭載されていた4WDシステム「SH-AWD」の電動化バージョンで、左右のモーターを自在に制御して旋回性能を適切にコントロールする「トルクベクタリング」の機能を併せ持ちます。
この「SH」は「スーパーハンドリング」の略だそうで、まあ、それだけ「すごいハンドリングなんだぞ!」という事が言いたいのでしょう。実際の走りもその名に恥じない、俊敏さと安定感を併せ持つグッドハンドリングを実現しています。
ライバルは
ライバルは「レクサス・GS ハイブリッド」や「日産・シーマ ハイブリッド」など、Lクラスセダンをベースにした高級ハイブリッドカーたち。海外勢なら「メルセデスベンツ・Eクラス」や「BMW・5シリーズ」、「アウディ・A6」といったモデルとも競合しています。
2018年にマイナーチェンジ
2018年にマイナーチェンジを実施。内外装の変更と共に、ボディ剛性の強化や4WDシステムの再調整などシャシー全体にも手が加えられ、乗り心地とハンドリングを向上させています。
外観
ボディサイズ、全長5030mmX全幅1890mmX全高1480mm。ホイールベース、2850mm。
フロント
グラマラスなフロントノーズに、台形型に拡がる大型メッシュグリル。小さなLEDライトを8つも組み込んだ「ジュエルアイLEDヘッドライト」を装備。鉄仮面のような前期モデルから一転して、かなりアクの強い面構えになってます。
グリルのデザインをもうちょっと控えめにしたほうがバランス良く収まると思うんですが、それだと個性が無くなっちゃうんですかねえ。
サイド
ロングホイールベース(前輪と後輪の間隔が拾い)に、前後に長く上下に薄いキャビン(居住空間)。程よく切り詰められたフロントオーバーハング(前輪からボディ前端までの長さ)。プレミアムセダンにふさわしい、伸びやかで美しいサイドビューです。
レジェンドはFF(フロントエンジン・フロントドライブ)ベースなんですが、レクサスGSあたりにも通じるFRっぽいプロポーションの良さがあります。レイアウトの限界を超えて大きくプロポーションを変えることはできませんが、ちょっとずつバランスを微調整することでなんとか成立させてる感じです。
リア
ハイデッキ化されたリアエンドに、複雑なリフレクター形状を持つLEDリアコンビランプ。ゴージャスなメッキモールドがふんだんに散りばめられてますが、エキゾーストマフラー周りがちょったばかり煩いかなあ。
左右のリアコンビランプを連結するメッキモールドとか、リアコンビランプ内リフレクター形状が「BMW7シリーズ」みたいですが、レジェンドの方がアメリカンでかっこ良いと思います。
内装
しっとりとした質感のインパネに、シルバーフィニッシャーと木目調パネルを組み合わせたゴージャスな室内。
センタークラスター最上段にある8インチ大型ワイドディスプレイやプッシュ&ダイヤル式のコントローラーなど、基本的なレイアウトというか構造がうちの「4代目オデッセイ」とよく似てるんですよねえ。ひょっとしてデザインチームが同じなのかな?
メーターナセルには、大型の二眼式メーターを装備。緻密なグラフィックで視認性は良好。センタークラスター上部に2つも大型ディスプレイがあるんだから、ここにも思い切って近未来感あふれるバーチャルディスプレイを装備して欲しいです(クラリティPHEVのメーターなんてどうでしょう)。
シート
フロントシートは、本革と「プライムスムーズ」と呼ばれる合皮のコンビシート。クッションの芯にしっかりとしたコシがあり、「体圧が一箇所に集中して疲れる」なんてこともありません。
家の「4代目オデッセイ」は、腰回りのクッションが妙に硬く少し盛り上がってるんでしばらく座っていると身体が痛くなっちゃいます。メーカーでもその事を認識しているらしく、ディーラーオプションでこの盛り上がりを緩和するランバーサポートを用意しているほど。初めてレジェンドのシートを見た時、そのオデッセイのシートと形状が似てるんでちょっと心配になりましたが、実際に座ってみるとレジェンドは腰回りのシート形状が緩やかで結構座り心地が良いです。
リアシートは、足元、頭上空間ともに広々としたスペースを確保。大人二人で座っても十分な余裕があります。クッションはちょっとだけフカフカした感じで(もちろん芯には適度なコシがありますが)、快適です。シートが身体にそって僅かに窪んでいるので、「コーナリング中に身体が滑る」なんてこともありません。
荷室
リアシートと荷室の間に設置されたバッテリーユニットが小型化され、その分だけ荷室容量(414L)が拡大されています。
ハイブリッドカーとは思えない広々とした容量で、家族4人であれば2泊3日旅行も余裕です。
静粛性
ロードノイズを低減する専用アルミホイールや、騒音に対して逆位相の音をぶつける事で打ち消す「アクティブサウンドコントロール」を搭載。
風切り音、ロードノイズともに小さく、静かなハイブリッドシステムと相まって、プレミアムカーにふさわしい静かさを実現しています。といってもレジェンドはそんじょそこらのプレミアムカーじゃありません。アクセルを踏み込むことでスポーティなVTECサウンドを響かせちゃうんです。
パワーユニットとトランスミッション
3471cc・V型6気筒DOHCエンジン+電気モーターに、7速AT。
エンジン:最高出力314ps/6500rpm、最大トルク37.8kgf・m/4700rpm。
電気モーター:最高出力122ps、最大トルク30.0kgf・m。
車両重量1990kg。JC08モード燃費、16.4km/l。
パワーユニット
3.5リッターV6エンジンに3つの電気モーター(前、右後、左後)を組み合わせたハイブリッドシステムで、4輪を駆動(フルタイム4WD)。
この凝ったハイブリッドシステムのせいで総重量は1980kgと結構重め。といってもシステム総合出力が382馬力もあるんで、どんなシーンでも力不足を感じさせることはありません。
出だしは後輪に装備された2つの電気モーターを使って、スルスルと滑るように。強くアクセルを踏み込めば、全てのモーターとエンジンのパワーを開放して爆発的な加速性能を見せつけます。
何よりも圧巻なのは、この加速中に放たれるVTECサウンド。マイナーチェンジで音質が調整されたこともあって、最高に気持ちいいです。
トランスミッション
電気モーターを内蔵するデュアルクラッチ式7速ATを装備。
ATは一般的な「シフトノブ・タイプ」では無く、ボダンだけで操作する「エレクトリック・ギア・セレクター」です。初めはちょっと戸惑うかもしれませんが、電動式パーキングブレーキと同じですぐに慣れるんで心配はいりません。
こういった無意識に操作するデバイスを変えられると戸惑いが大きいんですけど、その分、「何か新しいモノを操作しているんだ」っていうワクワク感があります。
シフトフィール自体は、歯切れの良いダイレクト感と段差の無いスムーズさを併せ持っており、レジェンドのスポーティで上質なキャラクターにピッタリです。
乗り心地とハンドリング
前輪にダブルウィッシュボーン式サスペンション、後輪にウィッシュボーン式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、245/40R19。
しなやかでスポーティな乗り味。マイナーチェンジによって、さらに滑らかさや安定感が増しています。
この乗り味の秘密は、50mm延長されたホイールベース(前輪から後輪までの距離)や凝った造りの足回りもありますが、マイナーチェンジで強化されたボディ剛性とか、減衰力の見直されたダンパーなんかも効いてますね。マイナーチェンジでプレミアムカーとして一皮むけた感じです。
硬いボディで路面からの衝撃を遮断して、車内に余計な振動を伝えません。
高速域での姿勢も安定してるんで、ステアリングに軽く手を添えておくだけで勝手に直進していきます。フラットライドってこういう事?
ハンドリング
適度な重厚感を伴う自然なハンドリング。ドライバーの狙ったラインを正確にトレースして、オンザレール感覚の優れたコーナリング性能を実現してます。
レジェンドのリアには2つの電気モーターが内蔵されているのは前の方でも書いた通りなんですが、コーナリング中はこの電気モーターが内側で回生ブレーキを効かせ、外側で駆動力を多めに配分。いわゆる「トルクベクタリング」として働き、自然な旋回性能と安定性を両立してるんですね。
マイナーチェンジでボディ剛性と足回りが見直され、これが乗り心地だけでなくハンドリングにも好影響を与えてます。前期モデルのグイグイと曲がるフィーリングから、ボディとステアリングの一体感が増して自然なフィーリングへと熟成された感じです。
最小回転半径、6.0m。ボディも大きいんで、狭い路地では取り回しに苦労しそうです。まあ、レジェンドはアメリカ向けの車なんで多少大回りなのはしょうがないですね。
先進安全技術
先進安全技術は、最新の「Honda SENSING」を搭載。
車や歩行者の衝突を回避する「衝突軽減ブレーキ(CMBS)」や、新開発された「トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)」などを搭載しています。
「トラフィック・ジャムアシスト」は、渋滞時に前車と適切な距離を保って追従する機能で、車線の中央を維持する機能とセットで働きます。ようするに、アクセルとブレーキ、ステアリングを自動で支援(制御)しているわけです。
【試乗評価】のまとめ
「新型 ホンダ レジェンド ハイブリッド EX(KC2・5代目)」は、ホンダが誇るフラッグシップ4ドアセダン。
アクの強いフロントフェイスには賛否両論ありますが、サイドビューとかリアエンドはかなりエレガントでカッコいいです。刺々しいメッキモールドをボディ同色で塗りつぶして、グリルをなんとか自力でカスタマイズできれば世界に一台だけの美しいプレミアムカーに出来るかも。
3モーターと3.5リッターV6エンジンを組み合わせたハイブリッドシステムは、低速では滑り出すような繊細なフィールを見せつつも、アクセルを踏み込むと爆発的なパワーを生み出すスポーティなユニットです。
この電気モーターはハンドリングにも活かされ、コーナーの内側では回生ブレーキを、外側では駆動力を多めに配分して旋回性能を巧みに制御。自然で安定感のあるハンドリングを生み出してます。
ボディ剛性の強化によって、ぐっと乗り味が上質になったのも忘れちゃいけません。プレミアムカーとして大幅に熟成された感じです。
「レクサス・LS」と比べるのはちょっと厳しいですが、「クラウン・ハイブリッド」や「レクサス・GS」ならいい勝負でしょう。値段的にも十分張り合える価格帯です。
その中でレジェンドは、ちょっとアメリカンな内外装と「新しい”ホンダNSX“に近い先進的なハイブリッドシステムおよび4WDシステム」がアドバンテージになります。
「クラウンじゃあちょっとオジサンすぎるなあ、もうちょっと若々しくて都会的なイメージで乗れる国産プレミアムカーは無いの?」と考えている人に最適な車です。
中古車市場では
2018年式「ホンダ レジェンド ハイブリッド EX(KC2・5代目)」で550万円前後。2015年式なら350万円前後(2018年10月現在)。
新車価格
7,074,000円(消費税込み)