今回の【試乗レポート】は「VW ポロ TSI Comfortline(5代目)」。
2009年から2018年まで製造販売されていた、コンパクトクラスの5ドア・ハッチバックです。ボディーバリエーションは、5ドア・ハッチバックのみですが、この他に車高を高めてアウトドアテイストを演出した「クロス・ポロ」とスポーティな「GTI」があります。
「初代 VW・ポロ」が登場したのは、今から40年以上前の1975年。ゴルフやパサートと同じで、設計の古くなった「VWビートル」の後継車種として開発されました。他の2車種と比較するとボディが小さく、VWグループ内では「エントリーモデル」の位置づけです。
ベースとなっていたのは、グループ内の兄弟車「アウディ・50」。兄弟車といっても違うのはエンジンくらいで、そのほかのボディやメカニズムはほとんど変わりません。駆動方式やレイアウトはゴルフと同じで、横置きにしたフロントエンジンで前輪を駆動するFFレイアウトを使ってます。
正規モデルとして日本に輸入されたのは「2代目ポロ」からなんで、当時、日本で初代の正規モデルを買うことはできませんでした。
「VW ポロ TSI Comfortline(5代目)」の概要
今回の「5代目VWポロ」は、先代ポロの設計思想とスタイルを受け継ぐキープコンセプトモデル。モデルチェンジの度にボディサイズが拡大され、今では初代ゴルフを超える車格と質感を備えるほどになりました。
クラスとしては、エントリーモデルの「up!」と「ゴルフ」の中間で、欧州で言うところの「Bセグメント」に属してます。サイズ的には「2代目ゴルフ」とほぼ同じくらい、5ナンバーサイズに収まるくらいコンパクトです。それでいて日本のコンパクトカーには無い、上質感とか重厚感が感じられるんですから堪りませんね。
ということで、日本の狭い路上でも使い勝手が良く、兄貴分の「ゴルフ」と並ぶくらいの人気があります。
基本のグレード構成は3種
グレード構成は、最小限の装備に絞り込んだ「トレンドライン」と、人気のある売れ筋装備を厳選した「コンフォートライン」、贅沢装備をふんだんに盛り込んだ「ハイライン」の3種。
「トレンドライン」にはアルミホイールもフォグランプも付いてませんし、エアコンも簡素なマニュアルになります。せっかくVWを買うんですから、ここはケチらずに「コンフォートライン」以上を買ったほうが後悔が無くていいと思います。
プラットフォームなど
基本となるプラットフォーム(車台)は、同グループ内のプレミアムカー「アウディ・A1」にも使われる「A0」です。最新型の「MQB」プラットフォームじゃありませんが、高い安全性と優れたエネルギー効率、抜群の運動性能を持ってます。
2010年の改良で「1.4リッター自然吸気エンジン」は廃止され、新世代の「1.2リッターTSIシングルカムターボ」になりました。これにマニュアルトランスミッション並のダイレクト感とエネルギー効率を持つ「7速DSG」を組み合わせてます。
さらに2014年のマイナーチェンジで、「1.2リッターTSIツインカムターボ」に載せ替え。最高出力と最大トルクを抑えながら、最大トルクの発生回転を低めて、街中での使い勝手と燃費性能を向上させてます。
ライバルは
ライバルは、欧州のコンパクト5ドアハッチバック。「Bセグメント」と呼ばれるクラスで、「ルノー・クリオ(日本名ルーテシア)」や「フォード・フィエスタ」、「オペル・コルサ」、「プジョー・208」、「シトロエン・CS3」などがあります。
この中で現在の日本市場で正規モデルが買えるのは、「ルノー・クリオ(日本名ルーテシア)」と「プジョー・208」、「シトロエン・CS3」の3車です。
マイナーチェンジ情報
2014年にマイナーチェンジ。フロントマスクを中心に外装デザインの小変更。ステアリングホイールとメータークラスターは、ゴルフと同じものになって上質な感じです。
ミリ波レーダーを使ったプリクラッシュブレーキ「フロント・アシスト・ブラス」も標準装備され、安全性能が強化されてます。
その他には、新開発された「1.2リッターTSIツインカムターボ」の採用によって、日常領域での扱いやすさと燃費性能が向上。トランスミッションや足回りなど、見えない部分へもしっかりと手が加えられてます。
外観
ボディサイズ、全長3995mmX全幅1685mmX全高1460mm。ホイールベース、2470mm。
フロント
クリーンなラインで構成されたフロントノーズに、角型ヘッドライト。端正な印象でまとめられたフロントフェイスは、より上級のゴルフに迫る完成度です。
サイド
短いフロントノーズに、傾斜の強い前後ピラー(柱)。短く切り詰められた前後オーバーハング(タイヤからボディ端までの長さ)が組み合わされ、キビキビとした軽快感を感じさせます。
VWと聞くと「実用性第一」といったイメージが強いのですが、なだらかなルーフ形状は室内の居住性よりもパーソナルなイメージを重視した設計です。
リア
引き締まったヒップラインに、コロンとした形状のリアコンビランプ。小さく絞り込まれたリアウィンドウ。ギュッと引き締まった上質感があります。
内装
サラッとした質感の樹脂に、メタルフィニッシャーを組み合わせた清潔な室内。
ボンネットはほとんど見えませんが、ノーズが短く幅も狭いため車幅は掴みやすい。ややアップライトなポジションと相まって取り回しは良好です。
ウィンドウの傾斜が強く屋根の小さなコンパクトカーは、相対的に遮熱性能が低く、真夏はいくらエアコンを付けても全然涼しくなりません。しかし、ポロのウィンドウはコンパクトカーとしては分厚く、屋根の遮熱性能も高いため結構涼しいです。このあたりの特性は、日本車のコンパクトカーには無いポロならではの魅力でしょう。
メーターナセルには大型二眼メーター。中央には「マルチ・インフォメーション・インジケーター」が装備され、車輌情報から「アダプティブ・クルーズ・コントロール」の作動状況まで端的に表示します。
センタークラスター最上段には、エアコン吹出口。中段にはナビゲーションなどを表示する大型ワイドディスプレイ。エアコンは手探り操作もやりやすいダイヤル式です。
シート
フロントシートは、柔軟な表皮にコシのあるクッションを組み合わせた上質なシート。サイズはやや小ぶりですが、適切なサイドサポートによって身体をしっかりと支えます。
リアシートは、ルーフが小さくサイドウィンドウも近いため、少々窮屈感があります。それでも、大人二人が座るだけのスペースは確保されており、座り心地にも問題はありません。
荷室
コンパクトなボディの割に、荷室には十分なスペースが確保されています。これなら家族4人で2泊3日旅行も可能です。さらにリアシートの背もたれを4:6で倒せば、荷室容量を拡大できます。
静粛性
コンパクトカーとしては標準的なレベル。ロードノイズや風切り音も適正に抑えられており、不快な印象はありません。
エンジンとトランスミッション
1197cc・直列4気筒DOHCターボエンジンに、7速AT(DSG)が組み合わされます。
エンジン:最高出力90ps/4400-5400rpm、最大トルク16.3kgf・m/1400-3500rpm。
車両重量1130kg。JC08モード燃費、22.2km/l。
エンジン
1.2リッターのツインカムターボで前輪を駆動(FF)。マイナーチェンジに伴って若干出力は低下したものの、回転フィールの向上やトランスミッションとの連携によって力強さを向上。低速からフラットなトルクを発生して、キビキビと力強く加速します。街中など日常領域内であれば、力不足を感じません。
急な坂道や合流ポイントでも、軽くアクセルを踏み込むだけでモリモリと力強いトルクを発生。流れをリードして俊敏に駆け上がります。
アクセルを踏み込めば鋭く吹け上がり、結構スポーティなサウンドを響かせます。
トランスミッション
デュアルクラッチ式7速DSGを装備。平行軸ギアとデュアルクラッチによるスリップ感の無いダイレクトな変速フィールが気持ちいいです。加えて優れたエネルギー効率も実現しています。
ステアリングに用意されたパドルシフトを指ではじけば、電光石火の早業で瞬時に変速。このDSGの変速フィールはMTに近いというよりも、DSGならではの魅力があります。
変速感もスムーズでシフトショックをほとんど感じさせません。初期モデルにあった、低速域でのギクシャク感もよく抑えられています。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトレーリングアーム式サスペンションを装備。前輪のみスタビライザーで強化。
乗り心地
装着タイヤは、185/60R15。
スポーティな運動性能と快適性能をバランスさせた上質な乗り味。低速ではコツコツと路面の衝撃を拾いがちですが、衝撃の角が適度に丸められているため不快な印象はありません。
このポロの足回りで一番驚いたのは段差を超えた時の「いなし方」です。段差の振動をしっかりと感じさせつつも、不快な振動はキレイに遮断されるため、段差を超える事自体を気持ちよく感じさせます。
高速域での直進性も高く、4つのタイヤが巧みに上下してボディをフラットに保ち続けます。ただし、ホイールベースが短いため、ピョコピョコと跳ねるような挙動を示すこともåあります。
ハンドリング
しっとりとした剛性感と、キビキビとした軽快感のバランスした気持ちの良いハンドリング。僅かな操舵に対しても正確に反応して、素直な動きでノーズの向きを変えます。リアの接地性が高く、コーナリング中も高い安定感を維持。日本のコンパクトカーと比較すると、スッキリとした操舵感が魅力です。
燃費性能を向上するため、エネルギー損失の大きい電動油圧パワーステアリングから電動パワーステアリングに変更。軽めのフィールで、路面からの情報を確実にドライバーへと伝えます。
最小回転半径は4.9mと小さく、狭い場所でも簡単に切り返すことができます。ボディも5ナンバー枠に収まるコンパクトなサイズで、日本の狭い道路にはピッタリです。
先進安全技術
ミリ波レーダーを使って衝突を検知、衝突の回避や被害軽減をはかる「フロントアシストプラス」や、衝突の際に自動ブレーキを作動させ二次被害を予防する「マルチコリジョンブレーキ」、ドライバーの疲労を検知して警告する「ドライバー疲労検知システム」を標準装備。
【試乗レポート】のまとめ
「VW ポロ TSI Comfortline(5代目)」は、コンパクトカークラスの5ドアハッチバック。
高剛性ボディにしなやかなサスを組み合わせ、適度に引き締まったしなやかな乗り味を実現。ステアリングフィールは程よい軽快感を維持する素直なセッティングです。
1.2リッター・ダウンサイジングターボによって、低速からフラットで力強いパワーを発揮。市街地など日常モードであれば、パワー不足を感じることもありません。
ポロは、ゴルフの下に位置するエントリーモデルですが、ゴルフには無い軽快感と取り回しの良さ、ゴルフに迫る質感を備えています。「ゴルフでは得られない魅力がある」といっても過言ではないでしょう。
「日常の足として使えるコンパクトカーを探しているが、上質な乗り味や格好いいスタイリングも大切だ」とか、「車の大きさは5ナンバーサイズ以下に抑えたいが、普通のコンパクトカーや軽自動車では面白く無い」なんて考えている人に最適な車です。
中古車市場では
2017年式「VW ポロ TSI Comfortline(5代目)」で160万円前後。2014年式で130万円前後(2018年7月現在)。
新車価格
2,269,000円(消費税込み)