車の運転というのは、一見ドライバーズシートにゆったりと腰を下ろしてステアリングやペダル類、シフトなんかをちょこちょこ操作しているだけのように見えます。なもんで運転経験の無い人からすれば、すご~く楽ちんな仕事に見えるかもしれません。
もちろんこれは勘違いで、実際の運転は結構しんどいです。僕自身も長時間車に乗っていると身体中が痛くなるし、強烈な眠気にも襲われます。そんなわけで高速道路を使ったロングドライブともなれば、1時間に1回程度の休憩は必須です。
疲れの原因には、内的なものや外的なものなど様々なものがあります。これが四六時中ドライバーに向かってくるんですから、長距離ドライブになればなるほど疲れるのも当然でしょう。まあ、高齢者や初心者は疲れやすく、若い人やベテランドライバーは比較的に疲れにくいといった多少の違いはありますけど、基本的に「運転をしていると疲れる」といった事実は誰であってもそう変わりません。
この「運転の疲れ」が厄介なのは、何もドライバーを不快な気分にさせるだけじゃありません。疲れが原因となって、集中力や判断力を失うほうがもっと怖いんです。
ということで今回は、「運転しているだけで、どうして疲れてしまうのか?」、その原因と対策について解説していきます。さらに「おまけ」として、「疲れにくい車」を秋ろーの独断と偏見でランキング形式を取りながら紹介してます。
「最近、運転していると疲れやすいんだよな」とか、「疲れにくい車に買い替えたい」なんて人は参考にしてみてください。
「疲れ」の原因は大きく分けて2つある
まず、「運転による疲れ」の原因を分析する前に、「そもそも、なぜ人間は疲れてしまうのか」について考えてみたいと思います。
「疲れ」には大きく分けて二つのパターンがあって、一つは自分の身体を動かしたり、考えたりすることで蓄積される「能動的な疲れ」。もう一つは、人間の感覚を刺激されることで蓄積される「受動的な疲れ」です。
「能動的な疲れ」について
まず始めの「能動的な疲れ」については、分かりやすいです。ドライバーはステアリングやペダル類、シフトなんかを直接操作するために、自分の手や足を直接動かしてます。同時に周りの状況に併せて最適な判断をするため、脳みそも活発に使っているんです。「能動的な疲れ」とは、こういった人間の自発的な作業によって蓄積されていく「疲れ」の事を言います。
この手の疲れは、自動車を運転するにあたって避けられない類のものです。ということで、劇的に低減することは難しいんですが、「無駄な操作を減らしてスムーズな運転を心がける」とか、「運転のしやすいグローブやドライビングシューズ、衣服を身につける」、「自分の身体にあった適切なドライビングポジションを取る」といった工夫である程度は楽になります。
疲れを劇的に低減する「運転支援システム」
ということだったんですが、最近は「運転支援システム」という新しい技術が急速に進化して、運転中の「能動的な疲れ」を劇的に減らしつつあります。
例えば、前車との間に一定の距離を保って、設定された速度以下で追従する「アダプティブ・クルーズ・コントロール」です。こいつは、従来からある「クルーズコントロール」から発展した技術で、高性能なものになると低速で走っている時も働きます。ノロノロと動いては止まるを繰り返す渋滞の時に使えば、前車の動きにあわせて自動的にストップ&ゴーを繰り返すんで、頻繁なブレーキやアクセル操作をする必要がありません。
まあ、大渋滞を一度でも経験したことのある人なら分かると思いますが、この疲労低減効果には相当なもんがあります。
その他には、車線の中央を維持、もしくは車線からのはみ出しを抑制してくれる「レーン・キープ・システム」も便利です。「アダプティブ・クルーズ・コントロール」と組み合わせて使えば、「半自動運転」のような運用も可能です。現状では「完全な自動運転」じゃありませんので、ステアリングに手を添えておく必要はありますが、それでも疲労を低減する効果はかなりのもんだと思います。
長距離運転で疲労の原因となる「人間の五感」
これに対して「受動的な疲れ」とは、「味覚」を除いた人間の五感。「視覚」や「聴覚」、「臭覚」、「触覚」などの知覚を外から刺激されることによって蓄積されていく「疲れ」のことです。
「視覚」を刺激されることで発生する疲れ
まず始めの「視覚」を原因とする疲れについてですが、これには、「運転席からの見晴らしの良し悪し」や「メーターやディスプレイなどの見やすさ」、「ヘッドライトの適切な明るさ」なんかが入ります。
運転席からの見晴らしの良し悪し
この中で「運転席からの見晴らしの良し悪し」には、「斜め前方や斜め後方などにある死角の大きさ」とか「車両感覚の掴みやすさ」なんかも含まれます。死角が大きいと、安全を確認するための視線移動が多くなって疲れやすいんです。それに伴う緊張の増大なんかも無視できません。
逆に視界が良すぎてもいけません。ノーズ先端、ボディのすぐ前の路面が見えすぎると、スピード感が増してしまうからです。特に高速走行の時は、適度にダッシュボードやショルダーライン(サイドウィンドウ下端)が高く、囲まれ感があった方が安心して運転できます。
メーターやディスプレイなどの見やすさ
「メーターやディスプレイなどの見やすさ」については、適度に表示が大きく見やすいデザイン。自発光式や液晶ディスプレイの場合は、適度な明るさとか色味なんかも重要です。最近は擬似的にメーターの奥に表示を投影するモノや、コンパクトカーに装備されることの多い「センターメーター」、透明な樹脂パネルに光を反射させて表示する「ヘッドアップディスプレイ」など、視線の移動を抑えて疲労を権限している車も多いです。最近流行りの「フローティングディスプレイ(ダッシュボード中央、最上段に浮き上がるように設置されたディスプレイのこと)」にも、同じような狙いがあります。
ヘッドライトの適切な明るさ
「ヘッドライトの適切な明るさ」には、夜間でもしっかりと路上を照らし出す適切な明るさと、なるべく遠くまで照らす照射範囲の広さが求められます。HIDやLEDなど光の強いライトが増えているのは、こういった理由が大きいんです。ただし、なるべく遠くまで照らした方が良いといっても、常時ハイビームにしておくわけにはいきません。対向車のドライバーの目にハイビームの光が入って眩惑してしまうからです。
ということもあって、最近巷でもてはやされているのが、「オートマチックハイビーム」とか「オートハイビーム」と呼ばれるデバイス。対向車を検知してハイビームとロービームを自動的に切り替えるスグレモノです。
これなら、対向車のいない時はハイビームにして遠くまで照らし、対向車が来た時は自動的にロービームに切り替えてくれます。自分はもとより対向車にとっても、安全性を高めながら疲労を軽減してくれる便利なやつなんです。
聴覚
次は「聴覚」。「音」を原因とする「疲れ」についてです。具体的には、ロードノイズや風切り音、エンジンサウンドなんかがあります。
こういった類の音が大きすぎると、不快に感じやすく疲れやすいんですが、かといって「無音ならそれで良い」というほど単純でもありません。
あまりに静かすぎると、運転している実感が乏しく、かえって不安になる事もあります。逆に、人間にとって不快に感じやすい「高周波」や「低周波」の音がしっかりとカットされていれば、多少の音があっても意外と人間は疲労を感じません。それより、適度な音(もしくは気持ちの良い音)を聞かせたほうが、運転している実感があって楽しいし疲れにくってこともあるんです。
ヨーロッパの小型車なんかはこのあたりの匙加減が実に巧みで、コストの掛かる遮音材や吸音材を減らしながら、エンジン音を調整して人間にとって気持ちの良い音作りをやってます。ヨーロッパの小型車にマニア受けする楽しい車が多いのは、こういった事情も大きいんですよねえ。もちろん、欧州の人たちが、「静かさよりも運転する楽しさを求めている」ってのもありますけど。
それから、ナビゲーション(音声ガイド)とかラジオの音が聞き取りやすいとか、オーディオの音質が良くて聞き疲れしないってのも大切です。
臭覚
3番目は「臭覚」。鼻から感じる「臭い」を原因とする「疲れ」について考えてみます。
これには、外から入ってくる「排気ガス」や、車内の「タバコ臭」、人間由来の「体臭」、「カビや雑菌臭」、新車特有の「化学的な臭気」なんかが含まれます。
「排気ガス」や「タバコ」については、これらの臭いをどれだけ効率的に排出できるかという「エアコン」の能力が問われます。エアコン自身についても、長く使っているうちに「カビ」や「雑菌」が発生して臭い出すってこともあります。こういったのを発生させないようにするには、メーカー側の工夫も大事ですが、冬もエアコン(冷房じゃなくて)を「オン」にしておくとか、フィルターの定期交換などユーザーの使い方やメンテナンスも大切です。
新車特有の「化学的な臭気」も、苦手な人にとっては疲れの原因となります。これは新しいプラスチック自身が放つ臭いとか、プラスチックを金型から剥がしやすくするための「離型剤」の臭いなどが原因なんで、製造工程でなるべくこういった臭いの発生を抑える工夫が必要です。「そんなこと言われても、もう買っちゃった車の臭いはどうするの?」という人にはちょっとした裏技があります。といってもそんなに難しいことじゃなくて、「キツく絞った濡れ雑巾でプラスチック部分を拭き取る」だけです。これを何回か繰り返せば、化学物質の自然な気化も伴って次第に臭わなくなっていきます。
厳密には「臭覚」とは違いますが、エアコンのフィルターによって「花粉をしっかりと除去する」ということも大切です。花粉症がひどいと疲れやすいだけじゃなくて、集中しにくいなんて安全上の問題なんかもありますから。
エアコンの次に臭いの原因となりやすいのは、シートに使われている布地。いわゆるファブリック素材と呼ばれるものです。これに人間の体臭やカビ、雑菌の臭いがしみつくと、ちょっとやそっとじゃ取れません。メーカー側でこういった臭いを防ぐには、「通気性の良いファブリックを使う」とか、「シートに雑菌を繁殖させにくい処理をする」、それから「車内に湿気を溜めないようなつくりにする」なんてことがあります。ドライバーとして出来る工夫は、「掃除の時にドアや窓を開け放って、空気を循環させる」とか、「汗ばんだ服装のままシートに座らない」、「車内で喫煙や食事をしない」くらいでしょう。
触覚
最後は「触覚」についてです。これには、「乗り心地」や「操作感」、エンジンの「パワーフィール」なんかが含まれます。
乗り心地
乗り心地は、ふわふわしすぎていてもダメですし、逆にガチガチに固められていても疲れてしまいます。適度な柔軟性とかしなやかさ、しっかりとした足回りの剛性感がバランスしているのがベストなんです。このあたりのバランスについてはドライバーの好みもありますし、運転している場所の状況にもよるんで、一概に「これが正解」というものはありません。
一番いいのは、ディーラーで試乗車を借りて、普段よく使う道へ乗り入れてみることです。それでも、初めての車で「これがベスト」といった相性のいい車を探し出すのは難しいと思います。何台か乗り継いでいくにしたがって、徐々に自分の好みに合った車が見つけられるようになるもんなんです。
乗り心地については、「その国で作られた車が一番合っている」という傾向も強いんで、迷ったら国産車の中から選んでください。
お国柄によって乗り心地も変わる
例えば、石畳の多いフランスでは「ストロークのたっぷりとしたしなやかな足回りが好まれる」とか、アウトバーンを高速で連続走行する機会の多いドイツでは「しっかりとした硬めの足回りが多い」といった具合です。近距離移動の多い日本では「シートや足回りのコストを抑えて柔らかな乗り味」にしていることが多いんで、価格が安く壊れにくいといったメリットがあります。反面、長距離ドライブには向かないです(あくまで全体の傾向として)。
操作感
操作感についても、神経質すぎず、かといって緩すぎない、適度な反応の良さとかバランスが必要です。
車の操作系、特にステアリングとかブレーキ、アクセルといった車の動きに直接関わる部分には、操作の初動に「遊び」と呼ばれる「反応の遅れ」が設けてあります。ステアリングが過敏に反応しすぎるとドライバーはたちまち疲れてしまいますから、こういった「遊び」によって疲れを抑制しているわけです。
ところがこの「遊び」とか「反応の遅れ」が行き過ぎると、ドライバーは「思うように曲がらない」とか、「ブレーキを踏んでもすぐに止まれない」といったストレスを感じてしまいます。こういったのが積み重なっても結局疲れちゃいますから、このへんのバランスもうまく取る必要があるんです。
パワーフィール
エンジンのパワーフィールについては、先程書いた操作系の反応の良さとも関係してきます。
ドライバーが「これくらいの速度で走りたいなあ」とイメージしながらアクセルを踏めば、それに応じて適切なパワーを出力してやることが大切です。逆に、少しアクセルを踏んだだけなのに「ガッ」と急に走り出したり、いくらアクセルを踏んでも「ノロノロ」としか走らないようでは疲れてしまいます。
疲れない車のランキング
ここまでの考察をふまえ、「まとめ」として現在日本市場で買える車の中から、「長距離運転をしても疲れない車」を「日本車」と「欧州車」に分けてランキング形式(秋ろーの独断と偏見、好みによって)で発表します。
日本車
(1)レクサス LS
(2)日産 シーマ
(3)ホンダ レジェンド
欧州車
(1)メルセデスベンツ Sクラス
(2)BMW 7シリーズ
(3)アウディ A8
と、Lクラスセダンばかりになってしまいました。疲れを感じさせない快適な車を作るには、どうしてもそれなりのコストが掛かりますので、まあ、これは仕方ない結果です。などと言ってまとめても面白くないんで、最後に「コンパクトカークラス」のランキングも加えておきましょう。
コンパクトカー
(1)アウディ A3
(2)VW ゴルフ
(3)VW ポロ
(3)マツダ デミオ