今回の【試乗評価】は「新型 フィアット 500 Twin Air Pop(3代目)」。
2007年にフルモデルチェンジ(日本市場への導入は2008年から)した、コンパクトクラスの3ドアハッチバックです。
この他に、オープンエアが気持ち良い電動ソフトトップ仕様「500C」や、ツインエアに5MTを組み合わせた「500S」、アバルトによるチューンが施されたホットバージョン「アバルト595」があります。
1936年に登場した「初代フィアット500」は、当時のフィアット社トップ「ジョヴァンニ・アニェッリ」が、「大衆のために安価でコンパクトな車を提供する」というコンセプトもと開発させた2人乗りのコンパクトカーです。安価でありながら性能もそこそこだったんで人気が高く、当時のフィアットを大いに潤わせました。
イタリア人はとにかく車を走らせるのが好きなんで、こういう小さくてキビキビと走る車には昔から目がないんですねえ。現行型の「フィアット500」がトルコン式ATじゃなくて、ちょっと癖のある「ロボタイズドAT」をあえて採用しているのも、イタリア国内に走りの実感を重視している顧客が多いからなんです。
1957年。その後を継いで登場した「2代目フィアット500」も、そんな初代のコンセプトを受け継ぎつつ、全く新しいシャシーとエンジンが与えられた大衆向けのコンパクトカーです。戦後不況に苦しむ当時のイタリア経済をふまえ、初代よりもさらに買いやすい価格を設定。既に生産されていた「600」よりも、ひと回り小さな車として開発されました。
日本ではアニメ「ルパン三世」の愛車としても知名度が高く、未だにマニアックな人気があります。
「新型 フィアット 500 Twin Air Pop(3代目)」の概要
今回の「3代目フィアット500」は、そんな初代のコンセプト受け継ぎつつ現代的に翻訳し直したヘリテージモデル。コンパクトカー用のFFプラットフォームが使われおり、RRであった先代と比べるとメカニズム的なアプローチが全く異なります。
モデル名の「500」は、「ごひゃく」じゃなくて、イタリア語読みの「チンクチェント」が正式な呼称。日本のオーナー達からは愛情を込めて「チンク」と呼ばれることが多いです。
新グレード「ツインエア」
2011年に追加された「ツインエア」は、これまでの「1.2」と「1.4」からなる2グレード体制に対して、「1.4L」の変わりにラインナップされる上級グレードです。
900cc・直列2気筒ターボエンジンに、シングルクラッチ式のロボタイズド5速AT(デュアロジック)の組み合わせ。2気筒エンジンは重量が軽く、構造も簡単、フリクションが少ないんで燃費が良いというメリットがあるんですが、その半面、ノイズやバイブレーションが大きくなりやすいというデメリットもあります。
フィアット500の場合は、このデメリットを「ツインエア」や「可変バルブタイミング」、「バランスシャフト」、「アイドリングストップ」といった最新技術で抑えてます。といっても完全に消しているわけじゃなくて、ある程度の音を残しつつ、気持ちよく聞かせる感じで調整してるんです。ということで、車に興味のない人からすると「ちょっとうるさいなあ」となるかもしれません。
プラットフォームなど
「フィアット・パンダ(2代目)」をベースに開発。プラットフォーム(車台)には、欧州フォードと共同で開発した小型車専用FFアーキテクチャーを使ってます。「フォードKa(2代目)」や、「ランチャ・イプシロン」も同じプラットフォームです。
ライバルは
ライバルは「ルノー・トゥインゴ」や「VW・up!」 、「MINI」などの小さめコンパクトカー。その中でも、かつての名車を現代風にアレンジしたヘリテイジモデルだと考えると、「MINI」がガチンコのライバルです。
マイナーチェンジ情報
2016年にマイナーチェンジ。前後バンパーやフロントグリル、ヘッドライト、リアコンビネーションランプなどの外装デザイン変更。オーディオの操作系として5インチタッチスクリーンの導入。その他に、足回りやエンジンなど見えない部分も含め、改良された部品は1900箇所以上になります。
外観
ボディサイズ:全長3570mmX全幅1625mmX全高1515mm。ホイールベース:2300mm。
先代フィアット500のデザインを、現代的に翻訳し直したレトロ調デザインがキュート。
こういった手法は、VWビートルやBMWミニでも使われるおなじみの手法ですが、なんといっても失敗しにくいというのがメーカーにとっては嬉しいポイントです。この「フィアット500(3代目)」も発売から10年以上が経過していますが、いまだに高い人気を維持しています。
フロント
ふんわりとした曲線で構成されたフロントノーズに、丸型ヘッドライト。上質なクロームメッキがふんだんに散りばめられ、クラシカルでかわいらしい表情をみせます。
マイナーチェンジによってヘッドライトは全車プロジェクター式に、LEDデイライトも装備され他車からの視認性が向上。「Lounge」のフロント・エアインテイクは、ドットパターン(クロムメッキ)を散りばめた新形状ですが、「Pop」はブラックアウトされたシンプルな形状です。
サイド
ルーフトップを頂点としたトライアングル形状に、ふくよかなボディパネル。前後ギリギリに切り詰められたオーバーハング(タイヤからボディ端までの長さ)。短いホイールベース(前後タイヤ間の長さ)とコンパクトなボディが組み合わされ、キビキビとした軽快感を表現しています。
リア
力強く大地を踏みしめるリアフェンダー。小さく絞り込まれたキャビン。ふくよかなヒップラインに台形型のリアコンビランプ。力強い安定感を感じさせつつも、キュートな後ろ姿を形作っていいます。
マイナーチェンジによってリアコンビランプを一新。レンズ中央がボディ同色となりました。
内装
ボディ同色パネルを活かした明るくポップな内装。外観と同じく、2代目フィアット500をイメージしたクラシックなデザインが楽しいです。
メーターナセルには、クラシックな大型一眼メーターを装備。速度と回転数を同軸で表示します。中央には丸型のインフォメーションディスプレイが装備され、距離計や時計、ガソリン残量などを表示。デザイン重視のデザインですが、使い勝手に問題はありません。
センターコンソール最上段には、5インチ・タッチスクリーンを装備。エアコンは大きなボタンを使ったプッシュ式。ATはインパネシフトですが、手前にせり出しているため操作性に問題はありません。
Bluetoothでスマホと接続すれば、ハンズフリー通話も可能。ケーブル接続なら、スマホ内の音楽も流せます。
助手席のグローブボックスは蓋付きとなり、プライバシー機能を強化。4人分のドリンクホルダーなど小物入れも充実しています。
シート
マイナーチェンジによってシートの柄が変更され、おしゃれな雰囲気を強めています。
フロントシートは丸みのある可愛らしいデザイン。パイピング処理によって、クラシックな上質感を演出しています。柔らかでコシのあるクッションに柔軟な表皮が組み合わされ、座り心地も上々。少し体が沈んだところで体圧を均等に分散してくれるため、疲れにくいです。
リアシートは背もたれの高さが足りず、形も平板。頭上空間も窮屈です。ただし、座面の前後長は十分で、表皮に柔軟性があるため、中距離(30km)程度の移動なら問題ありません。
荷室
ボディのトライアングル形状を活かして、必要最小限の荷室スペースを確保。家族4人であれば、1泊旅行くらいは余裕です。
静粛性
マイナーチェンジによって多少静かにはなったものの、依然としてエンジンノイズは大きめ。といっても「パタパタ」とした温かみのある音なので、不快ではありません。
エンジンとミッション
0.9L・直列2気筒SOHCターボエンジンに、5速AT(デュアロジック)が組み合わされます。
エンジンは、最高出力85ps/5500rpm、最大トルク14.8kgf・m/1900rpmを発揮。
JC08モード燃費、24.0km/l。車両重量、1010kg。
エンジン
875ccのツインエアエンジンで前輪を駆動(FF)。排気量は小さいですが、ダウンサイジングターボによって実際のパワー感は1.5L並。グレードの序列としても、1.2ポップの上位にあります。
アクセルに対する反応も良く、高回転までしっかりと吹け上がります。低速ではパタパタと独特のエンジン音を発生しますが、古き良き時代を感じさせる音色でフィアット500のキャラクターにはピッタリです。
欧州を中心に流行しているダウンサイジングターボですが、このサイズのエンジンに2気筒エンジンが採用される例はほとんどありません。ただし、エンジンの排気量と気筒数の理想的な関係は、1気筒あたり500ccといわれます。そういった意味ではごく真っ当なエンジンです。
トランスミッション
マニュアル・トランスミッション機構をベースに、コンピュータによる自動変速装置を組み合わせた5速AT(デュアロジック)を装備。
シングルクラッチによる2ペダルシフトで、発進時には若干のギクシャク感を生じますが一旦走り出せば比較的スムーズ。今回のマイナーチェンジによって変速スピードと滑らかさが向上しており、さらに扱いやすくなりました。
マニュアル・トランスミッションをベースにしているため、CVTやトルコン式では味わえない小気味いいダイレクト感があります。しかも、構造が簡単で軽量コンパクト。多少のギクシャク感を我慢すれば、理想的なトランスミッションです。
スポーティな走りを楽しみたい時は、マニュアルモードがオススメ。快活なエンジンと相まって、キビキビとした走りが楽しめます。
足回りとハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にトーションビーム式サスペンションを装備。前後ともにスタビライザーで強化。
足回り
装着タイヤは、175/65R14。
乗り心地はマルドかつしなやか。マイナーチェンジによって若干引き締まった印象です
大きな段差や路面のうねりでは、ピョコピョコと跳ねるような動きをみせますが、鋭い衝撃を車内に伝えることはありません。終始穏やかな乗り味を維持しています。
短いホイールベースの割に高速域での安定性は高く、フラットな姿勢でまっすぐに直進。わだちや横風でステアリングを取られることもありません。
ハンドリング
すべらかな手応えを伴った自然なステアリングフィール。マイナーチェンジによって軽快感が向上。ドライバーの操舵に応じて、機敏にノーズの向きを変えます。
リアの接地性も高く、フロントの動きに追従して粘りのある操舵感を演出。コーナリング中も姿勢を乱しません。
最小回転半径、4.7mと小さめ。コンパクトなボディと相まって、狭い路地でも簡単に切り返すことができます。
【試乗評価】のまとめ
「フィアット 500 Twin Air Pop」は、名車「フィアット500(2代目)」を現代的に翻訳し直したコンパクトな3ドア・ハッチバック。内外装には2代目のエッセンスがふんだんに散りばめられていますが、基本的な構造は2代目のRR(リアエンジン・リアドライブ)と異なり、一般的なFF(フロントエンジン・フロントドライブ)を採用しています。
キュートなボディスタイルを実現するため、室内空間は若干制限されますが、大人二人と子供二人なら問題はありません。もっと広い車が欲しいという人には、同じプラットフォームを使った実用車「フィアット・パンダ」がオススメです。
「Twin Air 」には快活なツインエアエンジンと、ダイレクト感あふれる「デュアロジック」トランスミッションを装備。必要十分以上のパワーで、この小さなボディを軽快に走らせます。ただし、ツインエアエンジンは、現代の車としては少々ノイズが大きめ(といっても「パタパタ」とした温かみのある音色で、好きな人には堪らないものがあります)。シングルクラッチ「デュアロジック」にも独特のクセがありますので、気になる人は試乗してからの購入がオススメです。
フィアット500のスタイリングは好きだけど、エンジンやトランスミッションが気に入らないという場合は、ベーシックな1.2Lモデルを選んだ方が無難でしょう。
「おしゃれな欧州車を探しているが、ゴルフやポロでは面白くない」とか、「コンパクトカーでもスポーティな走りを楽しみたい」なんて人にピッタリな車です。
中古車市場では
2017年式「フィアット 500 Twin Air Pop」で200万円前後。2014年式で100万円台前半(2018年6月現在)。
新車価格
2,322,000円(税込み)