今回の【試乗評価】は「新型 フィアット パンダ Easy(3代目)」。
2011年にフルモデルチェンジ(日本市場への導入は2013年)した、コンパクトな5ドアハッチバックです。
今を去ること20年前。1979年に登場した「初代フィアット・パンダ」は、当時、経営の苦しかったフィアットが起死回生を狙って開発した渾身の一作です。スタイリングは、イタルデザインに在籍していたカーデザイン界の巨匠ジョルジエット・ジウジアーロが担当しています。
フィアットがジウジアーロに依頼した内容は、「生活に使える実用車で、そしてコストが安いこと」。かつてシトロエンが製造していた「2CV」と同じコンセプトです。
コストを極限まで抑えるため、鉄板やガラスは単純な平面で構成されてます。平面だと複雑な加工技術がいらないし、工数も少なくてすむからです。にもかかわらず、とにかくカッコいいのはジウジアーロの凄さってとこでしょう。昭和50年代の日本車も同じように平面的な車ばかりでしたが、かっこいい車は少なかったです。制限された条件の中でカッコいい車を作れるのは、選ばれた天才だけですから。
「2代目フィアット・パンダ」は、「生活に使えるシンプルな実用車」というコンセプトは変わらないものの、若干ミニバンよりのハイト系ワゴンに寄せてます。
今回の「3代目フィアット・パンダ」は、そんな2代目のコンセプトをそのまま引き継ぐキープコンセプトモデルです。若干ボディサイズが拡大されたんで、「初代フィアット・パンダ」と比べると随分立派に見えます。
「新型 フィアット パンダ Easy(3代目)」の概要
フィアット・パンダと聞くと、日本ではちょっとおしゃれにこだわりのある人が、多少割高なお金を払ってのる趣味性の高い車って印象があります。
といっても、イタリア本国ではそんな感じは全然ありません。日本でいうところのコンパクトカーやハイト系ワゴン的な立ち位置で、足車としてガンガン使い倒される実用車なんです。ということで、コンパクトな外観に対して室内は結構広々。そこそこの荷物や人を積んで、便利に使い倒すことができます。
今回のモデルチェンジで若干ボディサイズが拡大され、その分、さらに室内が広くなりました。。他のコンパクトカーに比べると背が高いんで、そういった意味でも室内の広さにアドバンテージがあります。
グレード構成
日本仕様は、0.9Lツインエアーエンジンに、デュアロジック・トランスミッションを組み合わせる「Easy」のみのモノグレード構成。ただし、時々4WDモデル「4X4」が特別限定車としてラインナップされますので、雪道を走る機会が多い人はディーラーに問い合わせてみてください。
プラットフォームなど
プラットフォーム(車台)は、「2代目フィアット・パンダ」から受け継ぐ「コンパクトカー専用FFアーキテクチャー」。「フィアット・500」とか、「ランチャ・イプシロン」も同じプラットフォームを使ってます。
ライバルは
ライバルは、「シトロエン・C3」とか「VW・ポロ」といった欧州製コンパクトハッチバック。
ミニバンと5ドアハッチバックの中間的フォルムを持つコンパクトカーと捉えるなら、「トヨタ・ポルテ」とか「日産・キューブ」の方が近いです。
マイナーチェンジ情報
2017年マイナーチェンジ。内装の一部変更と合わせて、アルミホイールのデザインも変更されました。
外観
ボディサイズ、全長3655mmX全幅1645mmX全高1550mm。ホイールベース、2300mm。
ボディサイズがわずかに拡大され、その分、室内の余裕も向上しています。逆に全高は1550mmに抑えられ、日本の機械式立体駐車場にも入庫できるようになりました。
フロント
先代よりやや丸みを増したフロントノーズに、角丸ヘッドライト。ぽっかりと開けた口のようなエアインテイク。シンプルな中にもユーモラスな表情をたたえるフロントフェイスです。
サイド
ガッチリとした形状のフェンダーアーチと、初代パンダを彷彿とさせる樹脂製ドアガード。斜め後方の視界を確保しつつ、個性的なデザインを実現したDピラー(一番後ろの柱)。緩やかなルーフラインによって広々とした室内を確保するキャビン(居住空間)。重厚感とユーモラスな雰囲気を調和させた楽しいデザインです。
今回のマイナーチェンジによって、アルミホイールのデザインが変更されています。
リア
台形型に絞り込まれたキャビンに、力強く大地を踏みしめるリアフェンダー。ふくよかなヒップライン。Dピラーにスッキリとはめ込まれた縦型リアコンビランプ。上品なシンプルさが心地いいです。
内装
角丸をモチーフにしたポップで楽しい室内。先代よりも質感が向上していますが、シンプルなパンダらしさも健在です。
助手席側ダッシュボードには、初代パンダを彷彿とさせる物入れ(トレー)を装備。センターコンソール最上段には、視線移動を軽減するフローティング・ディスプレイ。中段にはピアノブラック調パネルで覆われたオーディオユニット。エアコンはツマミが大きく、手探りでの操作もやりやすいです。ATセレクターとフロアの間には大きな隙間があるため、足元には広々とした余裕があります。
メーターナセルには、角丸をモチーフにした二眼式。マイナーチェンジによってグラフィックが変更され、見やすさとカッコよさが向上しています。左右メーターの間にはインフォメーションディスプレイを設置。鮮やかなオレンジ表示によって、各種車輌情報を表示します。
アップライトなポジションと、大きなグラスエリアによって見晴らしは良好。Aピラー(一番前の柱)が太く傾斜もきついため、斜め前方に死角を作りやすいです。Aピラーの根本に大きなドアミラーも付くため、右左折の際は頭を多少動かす必要があります。
シート
フロントシートは、もっちりとしたクッションに柔軟性のある表皮が組み合わされた快適な構造。わずかに沈み込んだところで反発力が高まり、体をしっかりと支えます。適度なサイドサポートが備わり、体を支える機能も十分です。
リアシートは少々背もたれの高さが足りないものの、座面の前後長は十分。体の形にくり抜かれたシート形状と相まって、快適な座り心地です。足元、頭上空間ともに十分なスペースがあるので、大人二人で座っても窮屈感はありません。
荷室
見た目のコンパクトな印象とは裏腹に、荷室には結構な余裕があります。室内高もあるため、積み方を工夫すればかなりの荷物を積めそうです。家族4人であれば2泊3日旅行も余裕でしょう。
さらに背もたれを7:3で折りたためば、広大なラゲッジスペースとして使うことができます。背もたれの裏には頑丈な樹脂プレートが貼り付けられていますので、荷物をガンガン積み込んでも安心です。
静粛性
急な坂道や合流ポイントではノイズやバイブレーションを高めやすい。といっても、イタリア本国では廉価なエントリーカーですから、ある程度のノイズは仕方ありません。
エンジンとミッション
875cc直列2気筒SOHCターボエンジンに、5速AT(デュアロジック)が組み合わされます。
エンジンは、最高出力85ps/5500rpm、最大トルク14.8kgf・m/1900rpmを発揮。
JC08モード燃費、18.4km/l。車両重量、1070kg。
エンジン
フィアット500にも搭載される0.9Lツインエアで前輪を駆動(FF)。低速からフラットなトルクを発生する実用的なエンジンです。やや高回転気味に引っ張るトランスミッションと相まって、必要十分以上の力強さを発揮。高速域へのつながりもスムーズで、イタリアンコンパクトらしく軽快に加速します。
素朴で快活なエンジン音を放ちますが、音質はフィアット500よりも控えめ。停車時はアイドリングストップが働くためさらに静かです。
このアイドリングストップは反応が緩慢で、慌ててアクセルを踏み込むと始動が間に合わずギクシャクとすることも。スムーズに走るには、ある程度余裕を持ってアクセルを踏み込んでください。
トランスミッション
マニュアル・トランスミッション機構をベースに、コンピュータ制御による自動変速を行う5速AT(デュアロジック)を装備。いわゆる「ロボタイズドミッション」というやつです。
トルクフルなツインエア・エンジンを高回転まで引張り気味に変速するため、鋭い加速感を生み出します。
変速フィールはダイレクトで、ロボタイズドミッションとしては十分スムーズ。といっても変速時に僅かなトルクの谷間があるため、乱暴にアクセルを踏み込むとギクシャクとします。スムーズに変速するコツは、ロボタイズド・ミッションの変速に合わせて一旦アクセルを緩めてやる事です。それでも違和感のある人は、マニュアルモードを使ってみてください。シフト変速とアクセルを合わせやすくなります。
足回りとハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にトーションビーム式サスペンションを装備。
足回り
装着タイヤは、185/55R15。
適度に引き締まったしなやかな乗り味。初代パンダのようなふんわり感はありませんが、柔らかさと硬さのバランスが絶妙です。
低速域では若干路面の凸凹を拾いやすく、ドタドタとした印象。といってもサスストロークがたっぷりとしているため、不快な印象はありません。
ハンドリング
安定感のある素直なハンドリング。ドライバーの操舵に応じて、自然にノーズの向きを変えます。
全高が高いわりにロールはよく抑えられており、不自然さはありません。じわっとしたロール変化とともに、いつまでも路面を捉え続ける粘り腰のハンドリングです。
その他
先進安全技術は、レーザーセンサーによる「シティブレーキコントロール」を搭載。30km/h未満で走行中に前走車との衝突を検知して回避、もしくは被害軽減を図ります。
設定速度、機能ともにちょっと物足りませんが、設計の古い車なので仕方ありません。
【試乗評価】のまとめ
「フィアット パンダ Easy」は、シンプルで魅力的な外観とユニークな内装。コンパクトなボディに広々とした室内を実現した、コンパクト・ハッチバック(5ドア)です。
適度に引き締まった乗り味と、素直で安定感のあるハンドリング。トルクフルなエンジンに、ダイレクトなデュアロジック・トランスミッションが組み合わされます。ふつうの実用車でありながら日常域でも楽しく運転できるのは、この車の大きな魅力です。
「荷物や人をしっかりと積めるコンパクトカーを探しているが、走りの楽しさも捨てられない」とか、「車で見栄を張る必要は無いが、自分の個性はしっかりとアピールしたい」といった人にピッタリな車です。
中古車市場では
2017年式「フィアット パンダ Easy」で100万円台後半。2014年式で100万円台前半(2018年6月現在)。
新車価格
2,138,400円(税込み)