今回の【評価レビュー】は「新型 スズキ・アルト ワークス(アルトとしては8代目・ワークスとしては5代目)」。
2014年にフルモデルチェンジ(”ワークス”は2015年)した、軽自動車の5ドア・ハッチバックです。
1987年に登場した「初代 アルト ワークス」は、安価でスポーティな走りが受け、当時の若者を中心に高い人気を得ていた往年の名車。ただし、最近は背の高いハイト系ワゴンの人気が高く、この手の車はかつてのように売れません。「ワークス」もついにカタログから落とされ、いくら「買いたい!」と思っても買えない状況でした。
2014年にモデルチェンジした新しい「スズキ・アルト」には、当初から「ターボRS」という結構スポーティなグレードが追加されます。「ワークス」ほどの過激さは無いものの、その完成度の高さから「ひょっとしたら、この後にワークスが出るんじゃないの?」とファンにあらぬ期待を抱かせてしまいます。
実はこの時、ワークスの予定は本当に無かったのですが、これが呼び水となって今回のワークス復活へと繋がっちゃうんです。まあ、それだけファンの心の中に「そろそろ”ワークス”を復活させてくれよ」といった鬱憤というかフラストレーションのような物が溜まっていたんでしょうね。
「新型 スズキ・アルト ワークス(アルトとしては8代目・ワークスとしては5代目)」の概要
2015年。かつての名車「アルト ワークス」がカタロググレードとして正式に復活。先行して登場した「ターボRS」をベースに、エンジンやトランスミッション、足回りを強化。さらにスポーツ性能を高めたホットバージョンとして生まれ変わりました。ワークスの伝統的美点、”若者でも気軽に買える手頃な価格(FFモデルで150万円台)”もしっかりと継承されています。最近の車は軽自動車でも200万オーバーが普通なんで、ここはほんとに嬉しいポイントです。
アルトはこのワークスの追加で、2つのスポーティグレードを抱えることになります。ベースとなった「ターボRS」は、スポーツ性能だけでなく日常の快適性も重視したグランドツアラー。「ワークス」は純粋にスポーツドライングを楽しむためのホットバージョン。といった感じです。
その設計思想の違いはトランスミッションにも端的に現れていて、「ターボRS」は「5AGS」と呼ばれる”セミオートマチック”のみの設定ですが、「ワークス」には「5AGS」の他に、よりスポーティな走りを楽しむための「5段マニュアルギアボックス」も用意されます。
プラットフォーム
基本構造となるプラットフォームには、新開発された「HEARTECT(ハーテクト)」を採用。軽量高剛性構造によって、670kgというビックリするほど軽いボディを実現しています。
ライバルは
ライバルは、「ホンダ・S660」や「ダイハツ・コペン」など、軽自動車クラスのスポーツカー。その中で「アルト・ワークス」は、より乗用車に近い(というかボディはベースとなった”アルト”のままですが)実用性の高さが自慢です。
外観
ボディサイズ、全長3395mmX全幅1475mmX全高1500mm。ホイールベース、2460mm。
プロジェクターヘッドライトにルーフスポイラー。専用サイドスカートに添えられた専用デカールなどスポーティな装備を揃えますが、ターボRSからの変化は小さめです。
フロント
箱型のフロントノーズに、ブラックベゼルを施した精悍なヘッドライト。メカニカルな左右非対称グリル。台形型にくり抜かれたエアロバンパー。ワークスの世界観を存分に表現した、チューニング感あふれるフロントフェイス。
正直、フェラーリとかから感じる絶対的な美しさとは全く違う世界観だけど、妙にウキウキさせられちゃうんですよねえ。
サイド
アルトの小気味いいボディをベースに、15インチ・アルミホイール(ブラック塗装)や専用サイドステッカー、サイドアンダースポイラーを装備したスポーティなサイドビュー。
最近街でよく見かけるハイト系ワゴンに対して、低いルーフと塊感の強いボディのコンビネーションは、強い個性というか一種独特のオーラを放ってます。ブラック塗装されたアルミホイールの効果もあって、なんだか「只者じゃない感」がすごいです。
リア
小さく絞り込まれたキャビンにルーフエンドスポイラー。上質なバックドアガーニッシュ(メタル)と、リアバンパーロアガーニッシュ(ガンメタ)。ワークス専用バッジを装備。リアエンドを中心にキビキビとした軽快感でまとめてます。
もともと個性の強いアルトがベースになってるんで、周りの車に埋没するなんて心配は無いです。ただ、ワークスとしての演出は控えめなんで、ターボRSとの見分けはちょっと難しいかも。
内装
プラスチッキーな樹脂をベースに、シンプルな面とラインで構成された室内。といっても貧乏くさいなんてことはありません。かえってやる気にさせるスポーティな雰囲気があります。
ステアリングはレッドステッチの施された本革巻き。メーターナセルには三眼式ホワイトメーターを装備。メーターにもレッドの差し色が添えられてます。
センタークラスター最上段には、ナビ情報などを表示するワイド液晶モニター。その直下にはプッシュボタン式のエアコンを配置。僕がいつもオススメしてるダイヤル式じゃありませんが、ボタンが大きく手触りも割りとはっきりしてるんで操作性は良いです。
通常、ATギアが装備されるインパネには小物入れを装備。5速MTシフトは、左右のシート間に移動してフロアシフトタイプになってます。専用RECAROシートのおかげで、ヒップポイントは結構高め。というか頭がルーフに付きそうです。その変わり目線が高く視認性は良好。車両感覚がつかみやすく運転しやすいです。
シート
フロントには専用レカロシートを標準で装備。コシのあるクッションに柔軟な表皮、適度なサイドサポートを装備したスポーティなシート。肩まわりから腰、大腿部の裏に掛けて余すこと無くガッチリと支えます。僕は右半身に麻痺と硬直があるんで、もうちょっとゆったりとしたシートの方が良いんだけど、この手の車が好きな人には最高のシートです。
リアシートは普通のアルトと変わらない簡素なシート。クッションが薄く形も平板ですが、大人二人が座れるだけの十分なスペースは確保されます。買い物や子どもの送り迎えなど、短距離(10km)程度の使用なら大丈夫でしょう。こうやってコストの削れる部分は思い切って削ってるんで、ワークスはスポーティな車の割りに安いんですよねえ。
荷室
荷室スペースは狭く、手荷物程度しか置けません。背もたれを倒すことで大きくスペースを拡大することもできますが、当然ながらその場合は二人乗りになっちゃいます。
静粛性
遮音材なんかは最小限ですから、車内にスポーティなエンジンサウンドがガンガン響きます。といっても、音質がきっちりと調整してあるんで嫌な感じはしません。ワークスを指名買いする位の人なら、嬉しくなっても苦情を言う人はいないでしょう。
エンジンとトランスミッション
658cc・直列3気筒DOHCターボエンジンに、5速MTを搭載。
最高出力、64ps/6000rpm。最大トルク、10.2kgf・m/3000rpm。
車両重量、670kg。JC08モード燃費、23.0km/l。
エンジン
0.7Lのツインカムターボで前輪を駆動(FF)。使ってるエンジンはターボRSと同じなんですが、チューンナップによってちょっとだけ最大トルク(+0.2kgf・m)が向上。アクセル・レスポンスやダイレクト感の向上もあって、出足からキビキビとした鋭い加速が楽しめます。アルト由来の超軽量ボディと相まって、軽快感あふれる走行フィール。ホットバージョンにふさわしいわパーユニットです。
旧来の「ワークス」が持っていたアンバランスな”やんちゃ”さは薄れ、バランスの良いまっとうなスポーツカーに仕上がっています。といっても、「ターボRS」よりは過激なんですけどね。
トランスミッション
クロスレシオ化された5速マニュアル・トランスミッションを装備。
先行して発売された「ターボRS」には、「5AGS」と呼ばれるロボタイズドミッションが使われてます。まあ、簡単に言ってしまえば「マニュアルトランスミッションの仕組みを使って自動的にシフトするAT」ということです。
この手のスポーティなクルマを好むユーザーには根強いマニュアル信仰があって、ロボタイズドATよりもマニュアルトランスミッションを求める声が多かったそうです。その待望のMTが「ワークス」でついに登場したっちゅうわけですね。
2速には「ダブルコーンシンクロ」と呼ばれる節度感を高める部品が組み込まれ、硬質感を伴う気持ちの良いシフトフィールになってます。シフトストロークも短めで、手首の返しだけでコクコクと小気味いいシフトチェンジが可能です。
この他に「ターボRS」と同じ「5AGS」も用意。基本的な構造は「ターボRS」用と同じですが、シフトスピードが若干向上してるんでこれはこれで十分楽しめます。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、165/55R15。ブリジストン製「ポテンザ RE050A」です。「ポテンザ」と聞くだけでオジサンもテンションが上がっちゃう。
硬い殻をイメージさせる超高剛性軽量ボディに、KYB製スポーツサスを装備。ワークス専用に減衰力が高めてあるので、結構乗り味は硬いです。荒れた路面ではゴツゴツと衝撃を拾いやすいんですけど、なしにろボディ剛性が半端なく高いんで(サスの取り付け剛性も含めて)不快な感じはありません。
そのおかげでロール量も最小限。フラットな姿勢を維持したまま、平行移動よろしくコーナーをクリアしていきます。
「俺はもうちょっとゆったりとした走りを楽しみたいんだ」という人には、快適性とスポーティさのバランスがちょうど良い「ターボRS」がオススメです。
ハンドリング
ワークス用に電動パワステを再調整してあるんで、「ターボRS」のハンドリングとは一味違います。ダイレクトでスポーティ、レスポンスの良さはまさにスポーツカー。ドライバーのイメージを正確にトレースして、自然なラインを描きます。
「ターボRS」と比較すればロール量も抑制され、コーナリング中もビシッとした安定感を維持。外側のサスを僅かに縮めつつ、ミズスマシのようにスイスイと走り抜けます。
最小回転半径は4.6m。コンパクトなボディもあって、小回り性能は高いです。
先進安全技術
「5AGS」搭載車のみに先進安全技術「SUZUKI Safety Support」を設定。ワークスは9割以上が「5MT」なんで、MTにも対応して欲しいとこです。
このパッケージには予防安全技術として「レーダーブレーキサポート」や「誤発進抑制機能」といった機能が含まれます。
【評価レビュー】のまとめ
「新型 スズキ・アルト ワークス(アルトとしては8代目・ワークスとしては5代目)」は、「ターボRS」をベースにエンジンやトランスミッション、パワステ、足回りなど走りに関わる部分を強化したアルトの最上級ホットバージョンです。
基本構造やエンジンはそれほど「ターボRS」と変わらないんですが、アルトの勘所を知り尽くしたエンジニアの調整によって、過激で楽しいクルマに仕上がってます。
まんま「スポーツカー」といっても良いくらいの本格的なスポーツ性能を持つにも関わらず、高い実用性と手頃な価格を両立しているのもこの車の魅力です。なにしろ基本ボディは軽自動車「アルト」のままですから。
「スポーツ入門車として、手頃なスポーツカーを探している」とか、「久しぶりに若い頃を思い出して、もう一度ワークスに乗ってみたい」なんて人に最適な車です。
中古車市場では
2017年式「スズキ・アルト ワークス」で130万円前後。2015年式で130万円前後(2018年10月現在)。年式による差はほとんどありません。
新車価格
1,509,840円(消費税込み)