今回の【評価レビュー】は「新型 トヨタ プリウス PHV S GR SPORT(2代目)」。
2017年にフルモデルチェンジした、小型5ドア・ハッチバックです。
トヨタは、自動車の駆動システムを将来的に「MIRAI」のようなFCV(燃料電池車)にしていこうと考えています(最近は電気自動車も)。ただし、「水素ステーション」の設置状況を考えると一足飛びにガソリンからFCVってわけにはいきません。
そんなこともあってトヨタでは、まず現状のインフラを活かせるHV(ハイブリッド)を開発し、電動車のノウハウを蓄積しながら徐々に「PHV(プラグインハイブリッド)」を経て「FCV」、もしくは「EV(電気自動車)」へとシフトチェンジする戦略をとってます。
そんな経緯の中で生まれて来たのが、今回紹介する「プリウス PHV」です。
「新型 トヨタ プリウス PHV S GR SPORT(2代目)」の概要
2012年に登場した「初代 プリウス PHV」は、ハイブリッドカーである「3代目 プリウス」をベースに外部充電システムを装備した「プラグイン・ハイブリッドカー(PHV)」です。「ハイブリッドカー」はガソリンを使って発電するわけですが、これに加えて「プラグイン・ハイブリッドカー」は電気自動車みたいに外部からの充電もできます。
ハイブリッドカーと燃料電池車、もしくは電気自動車への流れをつなぐ重要なモデルなんで、トヨタとしてもかなり力を入れて開発してましたが、販売的には今ひとつに終わってます。
主な敗因は、プリウスより複雑な「プラグイン・ハイブリッド・システム」と大容量バッテリーを搭載していたため、プリウスより高価だったこと。そのわりに見た目はプリウスとほとんど同じで、所有欲をくすぐられなかったという2点です。わざわざ高いお金を出して購入するのに、ほとんどの人に「普通のプリウスだね」なんて思われたんじゃつまりませんからね。
今回試乗した「新型 トヨタ プリウス PHV S GR SPORT(2代目)」は、そんな初代の失敗を反面教師に精悍でカッコいい外観が与えられてます。かっこ悪いと不評の「4代目 プリウス(初期型)」は、「2代目 プリウス PHV」をカッコよくみせるためにわざとやったんじゃないの?というくらい印象が違います。
「新型 トヨタ プリウス PHV S GR SPORT」は「プリウス PHV」ベースのコンプリートカー
「プリウス PHV(2代目)」をベースにボディ剛性の強化や専用スポーツサス、スポーティな内外装パーツなんかを装着したコンプリートカーが、今回紹介する「トヨタ プリウス PHV S GR SPORT」です。
「GR」は、モータースポーツを手がけるトヨタ直系のセクション「GAZOO Racing」が展開するスポーツブランドで、ミニバンやコンパクトカー、セダンやSUVなど幅広い車種に用意されてます。
「GR」には、スポーツ度というか、カスタム度合いによって3つの商品ラインがあって、まず上から数量限定でトップスポーツモデルとなる「GRMN」。次に、モータースポーツのノウハウや知見を量産車に落とし込んだ量産スポーツ「GR」。そして、一番下のベーシックなラインが今回の「GRスポーツ」です。その他に、アフターマーケット用として「GRパーツ」の販売なんかもやってます。
わざわざ新しいスポーツブランドを打ち出す理由
トヨタは、「GR」の前に「G’s」というスポーツブランドをやってたんですが、これが周知が悪いのか、そもそも商品としての魅力がなかったのか、いまひとつパッとしないマイナーなブランドでした。わざわざ「GR」という新しいブランドを打ち出したのは、「トヨタにもBMWの”M”やメルセデスベンツの”AMG”のように魅力的なスポーツブランドを作りたい」というトヨタの戦略があるんだと思います。
プラットフォームなど
プラットフォームは、「C-HR」や「プリウス」にも使われてる中小型車用アーキテクチャー「TNGA-Cプラットフォーム」。
基本的には、プリウスと同じパワートレーンを使っていますが、プラグインハイブリッド化するために大容量リチウムイオンバッテリーを搭載。カタログ値で、68.2kmの連続EV走行ができます。また、電気残量が0の時は、1リッターのガソリンで37.2km(JC08モード・ベースグレード)の走行が可能です。
外部電源を効率よく使うことで、プリウスよりも圧倒的に燃料費は安くなりますが、車両価格の差を燃費で取り返すほどじゃありません。普通の使い方なら、15万キロ近く走る必要があるからです。
ライバルは
専用ボディを持つプラグインハイブリッドカーと考えると、実質的なライバルはほとんどいません。しかも、「GR」はスポーツバージョンですから。ただ、「VW ゴルフ GTE」なら、「GT」というサブネームからもわかる通り一応スポーティなグレードです。専用ボディじゃありませんが、プラグインハイブリッドカーだし、クラスも近いです。
「インサイト」にスポーツバージョンがあれば面白いんですが、あちらは今回のモデルからちょっと上級に移動したんで、ライバルというには無理があると思います。
外観
ボディサイズ、全長4685mmX全幅1760mmX全高1470mm。ホイールベース、2700mm。
フロント
スラント(傾斜)した薄いノーズに、精悍なLEDヘッドライト(ブラックベゼル付き)。直線を基調にしたメカニカルな専用フロントバンパーが付いて、超カッコいいお顔に仕上がってます。
「プリウス PHV」は、「前期型 プリウス(4代目)」よりも男前だと言われることが多いですが、「GR SPORT」のカッコよさはそれ以上でしょう。なんだか、ずっと眺めていても飽きませんもの。
サイド
低重心化された薄いボディに、特徴的な三角形のキャビン。これにロングホイールベースの伸びやかさと、ダイナミックな「GR専用18インチ大径アルミホイール」が組み合わされてます。薄いボディに大径ホイールというのは分かりやすくて良いんですが、本来プリウスの持っていた「実用性と近未来感を両立させたバランスの良さ」というのは薄まっちゃいましたね。
Dピラー(一番後の柱)にはボディ同色の「リアピラーガーニッシュ」がハメ込まれ、リア周りの一体感を増してます。ただし、オリジナルの「艶ありブラック」に戻すこともできるんで、「ベースとなった”プリウスPHV”のDピラーの方が軽やかで好き」という人は、お好みで変更してください。
リア
ハイデッキ化されたリアエンドに、クリアレンズとブラックベゼル、薄型のサブ・リアウィンドウで一体化されたリアコンビランプ。ワイド感を強調するサイドアウトレット付き専用リアバンパーが付きます。塊感のある力強いリアエンドだと思います。
リアウィンドウは大きな曲面ガラスで、2つの膨らみを表現。プリウスのスポーティな近未来感を強調してますが、実用面としては空力にも効果があるそうです。もちろん、その分、コストは高くなっちゃいますけど。
内装
ブラックを基調にしたスポーティな室内。。。というと、最近は「なんでブラックだとスポーティなの?」と感じる若者も多いそうですが、「昔の車は全部内装が黒かったんだよ!」という説得力の無い理由のほかに、「視界に無駄な情報が入りづらいので、運転に集中できる」なんて合理的な理由もあるんです。
それから「GRスポーツ」の場合は、専用装備として「専用メーターフード(スウェード調&シルバーステッチ)」や「ダークメッキ調センタークラスターモール」、「ダークアルマイト調センタークラスターパネル」といった上質感のある素材もふんだんに使われているんで、大人っぽいシックな感じもありますね。
その他には、「専用小径本革巻きステアリング(GRロゴ入り)」や「専用スポーツシート(GRロゴ入り)」、「専用タコメーター(GRロゴ入り)」および「専用シフトノブ&シフトパネル(スモークブラック加飾)」、「専用スタートスイッチ(GRロゴ入り)」、「アルミペダル(アクセル&ブレーキ)」といった専用装備も贅沢に盛り込まれています。
こういった装備の数々はメーカー製の純正カスタマイズパーツですから、バランスやマッチングはバッチリです。気軽にカスタマイズを楽しみたいという人なら、「ここからさらにイジる」なんて必要はありません。
シート
フロントシートはGR専用のスポーツシート(シルバーステッチ&GRロゴ入り)です。スウェード調ファブリックと合皮のコンビで、座り心地とか肌触りは抜群。ファブリックの表面に適度な抵抗というかグリップ感があるんで、身体がズレにくく身体をホールドしやすいです。疲れにくいのはもちろん、運転もしやすい良いシートだと思います。
今回のプリウスは、PHVも含めてルーフの低いスポーティなスタリングをしてますが、ルーフが低くなった分、リアシートのヒップポイントも低められているので、頭上空間は十分。長いホイールベースと足先をフロントシートの下に入れる設計によって、足元のスペースは結構広いです。「大人二人を乗せてロングドライブ」なんて時でも、窮屈感はありません。
シート自体の形状も立体的で、クッションも厚い。スウェード調ファブリックにも十分な柔軟性があります。
荷室
床下に大容量リチウムイオンバッテリーを搭載してるんで、荷室の上下方向は若干制限(プリウスと比較すれば-7cm)されてます。それでも、幅と奥行きがあるんで家族4人程度であれば2泊3日旅行はいけるでしょう(360リッター)。さらにリアシートの背もたれを6:4で分割して倒せば、座れる乗員は減りますが、その分荷室容量を増やして(1200リッター)ステーションワゴンのように使えます。
静粛性
プリウスよりも遮音材や吸音材が増やされているし、大容量リチウムイオンバッテリーのおかげでエンジンの出番が少ないので、プリウスよりも静粛性が高くなってます。静かさだけなら、高級サルーン並といっても言い過ぎじゃないでしょう。
パワーユニットとトランスミッション
パワーユニットは、1797cc・直列4気筒DOHCエンジンに、電気モーターを組み合わせたプラグイン・ハイブリッド・システムを搭載。
エンジンは、最高出力98ps/5200rpm、最大トルク14.5kgf・m/3600rpmを発揮。
電気モーターは、最高出力72ps、最大トルク16.1kgf・mを発揮。
車両重量1550kg。
パワーユニット
1.8Lツインカムエンジン+電気モーター(2個)によるハイブリッドシステムで前輪を駆動(FF)。これに、外部からの電源供給システムが搭載されます。
プリウスPHVの「GRバージョン」といっても、パワーユニット自体はベースグレードと変わりません。カタログ上の数値も同じです。
それでも元々のベースグレードが力強いんで、力不足はありません。電気モーターの特性を存分に活かした分厚い低速トルクで、スムーズかつ軽快に走ります。アクセルに対するレスポンスも素晴らしくて、ドライバーがイメージする出力を瞬時に発生。ダイレクトな反応が気持ち良いです。中速域から高速域へのつながりもなめらかで、連続的に一定の加速感が持続します。
プリウスPHVは、エンジンの他に2つの電気モーターでも駆動しています。といっても、駆動用の電気モーターはひとつで、もうひとつは、発電用ジェネレーターを駆動用に転用して使ってるんです。「限られたデバイスを使って、効率よく運用している」ってとこでしょうねえ。
システムの動作モードは3つ
プラグインハイブリッドシステムの動作モードには、「EVモード」と「ハイブリッドモード」、「バッテリーチャージモード」の3つがあります。
「EVモード」は電気モーターだけで走るモードで、出足から通常走行までをシングルモーターで対応。アクセルを強く踏み込んだり急な坂道に差し掛かれば、2つ目の電気モーターが駆動して「デュアルモータードライブ」で力強く走ります。
「ハイブリッドモード」は、無印のプリウスと同じハイブリッドカーとして走るモードです。状況に合わせて、エンジンと電気モーターを効率よく組み合わせます。バッテリーが満充電で、しかもパワーユニットに対する負荷が小さければ、一時的にEVモードとしても走ります。
「バッテリーチャージモード」は、バッテリー充電を優先したい時に使うモードです。駆動用モーターひとつとガソリンエンジンを使って走り、ジェネレーターは発電だけに専念するわけです。ただし、発電を優先してるんで、3つのモードの中では一番走りがモッサリとしちゃいます。
プリウスとの価格差を燃費で取り返すのは難しい
無印のプリウスと比較すれば、「プリウスPHVの方が男前だ」と言う人は多いです。そのせいで、自宅に充電設備を持たない人がわざわざそのデザインだけのために購入することもあります。
ただ、こういう買い方はやっぱり勿体無いですねえ。プリウスPHVを一番効率よく使うには、電気料金の安い深夜に自宅でフル充電しておき、次の日はなるべくそのバッテリーの電気だけで走るのが理想です。それでも、プリウスとの価格差を燃費効率(電気の場合は”電費”かな)だけで取り返すには、15万キロ以上かかりますけど。
EV機能の強化
モデルチェンジに伴ってEV機能も強化されました。先代の場合、バッテリーがフル充電された状態なら”26km”までガソリンを使わずに走れたんですが、「2代目プリウスPHV」はこれが”68.2km”まで増えてます。正直言って日本で通勤通学に使うくらいなら往復で20kmもあれば十分です。ただ、このへんは技術力で差別化できる部分でもあるので、多少オーバースペックになるのは仕方ありませんね。さらに、EV走行時の最高速度も100km/hから135km/hへと結構速くなってますよ。
当然ながら、ハイブリッドシステム自体も進化していて、JC08モード燃費が”31.6km/l”から”37.2km/l”へとアップデートされてます。ルーフにソーラーパネルを積んだ「ソーラーパネル装着車」なら、一日で最大”6.1km”。平均値で”2.9km”分の電気を蓄えることもできます。「超短距離の移動にちょこちょことしか車を使わない」という人の場合、「太陽の力だけで自動車を動かす」といった近未来的な運用も可能というわけです。まあ、といってもこの程度の距離なら、徒歩や自転車で行った方が断然身体に良いとは思いますが。
トランスミッション
ハイブリッドシステム全体でCVTのような働きを担う、電気式無段変速機を採用。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはダブルウィッシュボーン式サスペンションを装備。前後ともにスタビライザーで強化。
乗り心地
装着タイヤは、225/40R18。
新世代プラットフォーム「TNGA」の下側に、ボディを補強するためのブレースを装着。ベースグレードよりもボディ剛性を上げてます。これに「GRスポーツ」専用サスと18インチ大径ダイヤホイールを組み合わせるので、乗り味は程よくスポーティ。どちらかといえばカジュアルな感じで、ガチガチってわけじゃありません。
目地段差や橋脚ジョイントでは、路面からの衝撃をそれなりに伝えますが、薄くしなやかな膜で包まれた感じがあって不快じゃ無いです。ただ、後ろからの突き上げ感の方が強いんで、後席に人を乗せている場合はそっちから苦情が出るかもしれません。
ハンドリング
軽量高剛性、低重心の新世代プラットフォーム「TNGA」に、専用スポーツサスを装備して”13mm”のローダウンをやってます。18インチの大径タイヤホイールを履いていることもあって、ハンドリングフィールはちょっとだけ重めです。
適度なたわみを持つ18インチタイヤとスポーツサスのマッチングは良好で、ジワッとした感触でしっかりと路面を掴みながら旋回します。素直なハンドリング特性で、動きも正確。自然な体重移動でキレイにコーナーを抜ける感じは、さしずめトップアスリートみたいです。ひとことで言い表すなら「スッキリとしたハンドリング」ってところでしょう。
ロールの量も少なめで、スポーティなハンドリングと快適な乗り心地のバランスが良いです。
最小回転半径は”5.4m”とごく普通。ですが、スポーツサスや大径18インチタイヤホイールの装備なんかを考えると結構優秀だと思います。
先進安全技術
先進安全技術は、最新の「Toyota Safety Sense」を装備。
このパッケージには、「プリクラッシュセーフティシステム(自動ブレーキ)」や、「レーンディパーチャーアラート(車線はみ出しアラート・ステアリング制御機能付き)」、「レーダークルーズコントロール(自動追従ドライブ・全車速追従機能付き)」、「アダプティブハイビーム(自動ハイビーム)」なんかが付いてます。
この中でも「プリクラッシュセーフティシステム(自動ブレーキ)」は、高性能な「歩行者の飛び出しにも対応したタイプ」です。ただし、カタログに「歩行者[昼]」っていう但し書きがあるんで、基本的に昼間のみの機能と思ったほうがよさそうです(単眼カメラ+ミリ波レーダーじゃ、夜間の歩行者飛び出しに対応できないんでしょう)。
※ベース車両(”GR SPORT”じゃない)の「S」グレードに限って、メーカーオプションとして「Toyota Safety Sense」を取り去ったモデル(税込みで-124,200円)も注文できますが、レースで使うなど特別な事情がない限りこれを選ぶ必要は無いです。というか危ないんで選んじゃいけません。
【評価レビュー】のまとめ
「新型 トヨタ プリウス PHV S GR SPORT(2代目)」は、プラグインハイブリッドカー「プリウス PHV」をベースに、GR専用スポーツサスやスポーティな専用内外装パーツを装備したコンプリートカーです。
デュアルモーターとエンジンを組み合わせたパワフルな走りに、スムーズな加速。電動車ならではのレスポンスの良さもあります。乗り心地には程よい重厚感があって、しなやか。スポーツモデルといってもガチガチに固められているわけじゃないんです。この程よいスポーツ感はハンドリングも同じで、素直な身のこなしで正確なラインを描きます。
元々カッコいい「プリウス PHV」に、スポーティな「GR SPORT」専用パーツがふんだんに盛り付けられてるんで、見た目はかなり男前です。このルックスだけで「GR SPORT」を選ぶ人がいても、全然おかしくないと思います。
「トヨタ プリウス PHV S GR SPORT」は、「プリウスに興味はあるが、あの奇抜なスタイリングが苦手」とか、「燃費を考えてプラグインハイブリッドカーを買いたいが、スポーティな走りも捨てがたい」なんて人にピッタリとはまる一台だと思います。
ただ、「プリウス」と「プリウスPHV」の価格差を、燃料コストの安さで取り戻そうとするのは現実的じゃ無いです。深夜料金をフルに使って毎日充電したとしても、普通の使い方なら15万キロ以上掛かるはずですから。
中古車市場では
2018年式「トヨタ プリウス PHV S ナビパッケージ GR SPORT(2代目)」で370万円前後(2019年1月現在)。
新車価格
3,711,960円(消費税込み)