今回の【評価レビュー】は「新型 スバル インプレッサ スポーツ 1.6i-L EyeSight(5代目・FF)」。
2016年にフルモデルチェンジした、中小型の5ドアハッチバックです。この他に4ドアセダンの「G4」もあります。
初代「インプレッサ・スポーツワゴン」が登場したのは、今から20年以上前の1992年。当時、大ヒットしていた「レガシィ・ツーリングワゴン」にあやかって、「スポーツワゴン」というサブネームが付けられていましたが、実際にはやや荷室の大きな「5ドアハッチバック」といった方が近いと思います。
真面目なイメージのスバルも、たまにはこんな軟派な手法を使うんですね。世界ラリー選手権で好成績を上げる「スバル・インプレッサ・WRX」なんかのスポーティなイメージもあって、レガシィ共々大ヒットを記録しています。
今回試乗した5代目「インプレッサ・スポーツ」は、名前から「ワゴン」が外れ、スポーティな「WRX」グレードも完全に独立した別モデルとなっちゃいましたが、「スポーティで使い勝手の良い5ドアハッチバック」という基本スタイルは未だに失われていません。
WRXのスポーティなイメージは若干薄れてますが、「歩行者保護エアバッグ」や「EyeSight(ver.3)」の全車標準装備、先代よりも大幅に向上した衝突安全性能など、「これからのスバルは、スポーティなイメージより、安全性能に軸足を置いていくんだな」と感じました。
「新型 スバル インプレッサ スポーツ 1.6i-L EyeSight(5代目・FF)」の概要
今回のインプレッサは、ややパワーが物足りないものの、安全性能や質感を総合的に考えるとコストパフォーマンスが高いです。自動車評論家の受けも良く、スバルとしては13年ぶりに「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞してます。
一般ユーザーにも好評で、2018年上半期はスバルで一番の量販車種(販売台数30,554台)となってます。全メーカー全車種を統合しても16位という好成績で、今やスバルの屋台骨を支える重要な車種です。
ただ、スバル最大のマーケット、北米ではフォレスターやアウトバックの人気が高く、コンパクトなインプレッサの人気は今ひとつ。このあたりが、今後のスバルにとって多少心配な感じもあるんですよねえ。
試乗車は1.6リッター
今回試乗した「1.6リッター」は、「2.0リッター」の発売からわずかに遅れて、2016年の12月末に登場。「インプレッサ・スポーツ」としては、唯一、200万円を切る廉価グレードです。
2.0リッターは、グレードによって17インチや18インチタイヤを履きますが、1.6リッターはそれよりも小さな16インチを装着してます。見た目の迫力は2.0に負けますが、その分、乗り心地の良さなら断然1.6です。
プラットフォーム
基本となるプラットフォーム(車台)には、スバル初となる新世代アーキテクチャー「SUBARU GLOBAL PLATFORM」、通称「SPG」を採用してます。軽量高剛性ボディによって、優れた安全性能と高い走行性能を両立。将来導入される新しい衝突安全基準にも対応してます。
ライバルは中小型の5ドアハッチバック
ライバル車種は、「ホンダ・シビック・ハッチバック」や「マツダ・アクセラスポーツ」、「トヨタ・カローラスポーツ」といった、中小型の5ドアハッチバックです。
外観
ボディサイズ、全長4460mmX全幅1775mmX全高1480mm。ホイールベース、2670mm。
一部、フォグランプ周りの加飾パーツ(メッキ)や、17インチの大径アルミホイール(切削光輝)が付きませんけど、大まかなスタイリングは上級グレードの「2.0i-L EyeSight」とほとんど同じです。
フロント
大型のヘキサゴングリルに、滑らかなラインで構成されたヘッドライト。ダイナミックに拡がるフロントバンパー。スポーティで若々しい感じがします。
完成度は高いし上質感も申し分無いんですけど、もうちょっとひと目で「インプレッサだ!」と分かる個性が欲しいところです。
サイド
長めのフロントオーバーハング(前後ホイールからボディ端までの長さ)に、短く切り詰められたリアオーオーバーハング。クーペのようになだらかなルーフライン。
通常、アウディのようにフロントオーバーハングが短い場合は、リアオーバーハングを長くしてバランスを取るんですが、インプレッサの場合は逆。リアオーバーハングを短くすることによって、スポーティな小気味よさを表現してます。
こういったサイドビューにはより大径の17インチとか18インチが似合うんですが、「1.6i-L」の場合は16インチタイヤなんで、ちょっとだけ見た目が貧相です。まあ、その分、乗り心地は16インチの方が上ですけど。
リア
八角形型のダイナミックなリアウィンドウに、ワイド感を強調するリアコンビランプ。大胆に切り上げられたリアディフューザー(リアバンパー下部の黒い樹脂)。
実際は実用的なサイズでルーフもそれなりに高いんですけど、上に書いた要素の相乗効果とか視覚的な錯覚のせいで、ちょっとだけロー&ワイドな安定感があります。特にシルバー系の塗装は、メカニカルな重厚感が強調されて、なおさらカッコいい感じです。
内装
多角形をモチーフにしたメカニカルな内装デザイン。ダッシュボード周りには、フェイクですがステッチまで入るんです。遠目から見ると、それなりの上質感もあります。クラスを考えれば十分な質感でしょう。
ダッシュボード中央、センターコンソール最上段には、EyeSightの作動状況や車輌情報などを表示する「マルチファンクションディスプレイ(6.3インチ)」。その直下にはナビゲーションなどを表示する「大型液晶ディスプレイ(8インチ)」を設置。こいつには「マルチファンクションディスプレイ」をサブディスプレイとして連携させることもできます。
一番下のスペースには、フルオートエアコンのコントロールユニットが装備されてます。大きなダイヤル2つと小さなダイヤル一つが付いた操作体系なんで、手探りでの操作もやりやすいです。使うことの多い温度調整ダイヤルは大きく、あまり使わない風量調整ダイヤルは小さくと、機能によって大小をつけてるところも流石だと思いました。
見切りの良いボディにアップライト(目線が高い)なポジション、全方位で「死角」が少なくなるように設計されているんで、運転がしやすいです。
シート
フロントシートは、小さなブロックに別れた立体的な形状で、いかにも「座りやすいよー」って感じです。実際に座った印象も良くて、クッションには適度なコシがあります。
ただ、表皮に若干つっぱったような感じがあるんで、中高年の中には「疲れやすい」と感じる人がいるかもしれません。このあたりの印象はそれぞれの体型にも左右されますから、気になる人はショールームで座ってみてください。
リアシートはゆったりとしたサイズで、足元も広々。頭上空間にも十分な余裕があります。シート自体は平板な形状でクッションもフロントより薄いですが、座り心地は良好。中距離程度(50kmくらい)なら問題ないです。
荷室
元々、「スポーツワゴン」と呼ばれていただけのことはあって、5ドアハッチバックとしてはちょっとだけ広め(385L)です。開口部の横幅が1039mmと広く、高さも777mmとそこそこあるんで、大きく嵩張る荷物もズボッとそのまま突っ込めちゃいます。家族4人程度なら、2泊3日旅行はいけそうです。
さらにリアシートの背もたれを倒せば、前後長は1631mmまで拡大。ステーションワゴンのような使い方もできます。
静粛性
急な坂道や合流ポイントでは、エンジンノイズやバイブレーションも増大しますが、街中など平坦路ではそれなりに静かです。1.6Lクラスの中小型車と考えれば、十分に満足できるレベルだと思います。
エンジンとトランスミッション
1599cc・水平対向4気筒DOHCエンジンに、CVTを搭載。
エンジンは、最高出力115ps/6200rpm、最大トルク15.1kgf・m/3600rpmを発揮。
車両重量1300kg。JC08モード燃費、18.2km/l。
エンジン
1.6リッターのボクサー4で前輪を駆動(FF)。先代と同じ型式の1.6リッターエンジンで、カタログスペックも変わりませんが、多くの部品が新設計されレスポンスや扱いやすさは向上してます。
まあ、VWゴルフの「ダウンサイジングターボ」なんかと比較すれば、低速トルクも薄く非力ですが、低速から必要なトルクがしっかりと立ち上がるため実用上の問題はありません。
フィールだけなら上級の2.0にも負けないくらいで、高回転まで軽快かつ滑らかに吹け上がっちゃいます。出足に多少の飛び出し感はあるものの、2.0にくらべればトルクの出方が穏やかなんでコントロールしやすいんですよねえ。
といっても、急な上り坂や追い越し、合流ポイントでは流石にエンジンが苦しそうな唸り声を上げます。
同じ自然吸気エンジンとはいえ、1.6リッターはポート噴射のままで2.0は直噴です。排気量も違いますから、もうちょっとパワーが欲しいという人には2.0がいいでしょう。ただ、パワーと価格のバランスを考えるなら、1.6という選択肢も十分「アリ」だと思います。
トランスミッション
金属製ベルトとプーリーによって無断階に変速するCVTを搭載。緻密な変速制御で非力な1.6リッターエンジンを補うので、実用上の問題は無いです。トルコン式やデュアルクラッチ式と比較すれば、多少間延びしたフィールですが、先代よりは車速とアクセル開度がリンクして運転しやすくなりました。
2.0リッターに装備されるドライブモード「SI-DRIVE」は付いてませんが、強くアクセルを踏み込むことで自動的にスポーティな「ステップ制御」になります。低いギアでエンジンを高回転まで引っ張るんで、結構力強いですねえ。
といっても擬似的なステップ制御ですから、トルコン式ATのようなダイナミックさはありませんけど。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはダブルウィッシュボーン式サスペンションを装備。フロントのみスタビライザーで強化。
乗り心地
装着タイヤは、205/55R16。
適度に引き締まったしなやかさと重厚感をを併せ持つ「2.0リッター」モデルに対して、こっちの「1.6リッター」モデルはあたりがソフトでストロークもたっぷり、柔軟性のある快適な乗り心地です。といってもフワフワとした頼りない感じじゃありません。柔らかさの奥にしっかりとした「芯」があるんで、乗り心地とハンドリングのバランスもバッチリです。
それもそのはずで、「1.6リッター」モデルはアルミホイールやタイヤのサイズだけじゃなくて、ダンパーの構造から足回りのセッティングまで変えています。いわゆる、”専用セッティング”になってるんですねえ。
路面の段差を盛り超えても、車内にむき出しの衝撃を伝えることはありません。衝撃とボディの間に柔らかなゴムを挟み込んだような感じで、ス〜ッと滑らかに通り過ぎちゃいます。
コーナリング中の限界性能を含めて、重厚感やスポーティなしなやかさを求めるなら17インチタイヤを装着する「2.0リッターモデル」。とにかくあたりが柔らかで快適な乗り心地の方が好きという人には、16インチタイヤを装着するこの「1.6リッター」モデルが良いと思います。あと、「タイヤホイールがデカイ分、2.0リッターの方が幾分カッコいい」ってのもありますね。
ハンドリング
鼻先に軽い1.6リッターエンジンを搭載しているため、ハンドリングは軽快。ドライバーの操作に素直に反応して、ヒラヒラと軽やかにノーズの向きを変えます。それに合わせて、パワステの効きも「軽め」にセッティングされてます。
剛性の高い新世代プラットフォームに、出力の小さい1.6リッターエンジンを積んでいますから、圧倒的にシャシーがエンジンに勝っている状態です。マニアックな人の中には、この状態を「シャシーが速い」と表現する人もいます。限界が高いんで、ちょっとやそっとで「走り」が破綻することはありません。「自分の手の中に車を収めながら、限界を使い切って走りたい」っていう人にはピッタリだけど、「有り余るパワーで豪快に走りたい」なんて人には物足りないと思います。
最小回転半径は、5.3m。ボディサイズを考えれば、まずまずのレベル。これなら狭い路地でも、比較的カンタンに切り返せます。
先進安全技術
先進安全技術は、最新の「EyeSight(ver.3)」に「アイサイト・セイフティプラス」を追加してます。さらに、国産車で初となる「歩行者保護エアバッグ」も装備されました。
先進安全技術の基本「EyeSight(ver.3)」
「EyeSight」といえば、衝突を予知して回避、もしくは被害軽減をはかる「プリクラッシュブレーキ」が有名です。2017年の年次改良では、これに夜間歩行者の視認性向上や後退時に作動する「後退時ブレーキアシスト」の追加が行われてます。
その他には「AT誤発進抑制&制御(前後)」や、運転支援技術として「全車速追従付きクルーズコントロール」や「アクティブレーンキープ」、「車線逸脱警報」なんかもあるんです。
特に「全車速追従付きクルーズコントロール」は、疲労を大きく軽減するとともに「半自動運転」的な面白さもあるんで、個人的にうらやましいというか、ぜひ次の愛車には装備したいと思っています。
先進安全技術を拡張する「アイサイト・セイフティプラス」
「アイサイト・セイフティプラス」は、ベースとなる「EyeSight(ver.3)」に追加される”機能拡張パック”みたいなもんです。
内容としては、対向車を検知してハイビームを切り替える「ハイビームアシスト」とか、斜め後ろ側方から接近する車を検知して注意喚起を促す「スバルリアビークルディテクション」などがあります。
歩行者を守る「歩行者保護エアバッグ」
「歩行者保護エアバッグ」は、歩行者との衝突をセンサーが検知して、フロントウィンドウ下部からAピラー(フロントウィンドウ左右の柱)の根本にかけてU字型のエアバッグが展開、歩行者の頭部を保護する仕組みです。
最近の車はボンネットの下にある程度空洞があって(フロントノーズが分厚いのはそのため)、ボンネットが凹むことで歩行者を保護するようになってるんですが、この「歩行者保護エアバッグ」と組み合わされればさらに安心だと思いました。
【評価レビュー】のまとめ
「新型 スバル インプレッサ スポーツ 1.6i-L EyeSight(5代目・FF)」は、中小型サイズの5ドアハッチバックです。
1.6リッターモデルは、上級の2.0リッターと比較すれば若干非力ですが、日常領域での不足はありません。逆に鼻先の軽さを活かした素直で軽快なハンドリングや、柔軟な16インチタイヤによる快適な乗り心地が好印象です。
リニアトロニックと呼ばれるCVTには、擬似的なステップ制御が組み込まれてます。トルコン式ほどじゃありませんけど、そこそこのスポーティな感じを表現してますし、CVTならではのスムーズさもあります。
スタイリングは上質でスポーティ。近未来感あふれる室内は、広々としていて使い勝手も良いです。このクラスをリードする先進的な安全技術が付いてますが、その内容は上級グレードの2.0と変わりません。
「手頃な価格で使い勝手の良い5ドアハッチバックを探している」とか、「荷物と人がしっかりと積めて、安全性能が高い。しかも、走りもそれなりに楽しめる車が欲しい」なんて人にピッタリだと思います。
中古車市場では
2018年式「スバル インプレッサ スポーツ 1.6i-L EyeSight(5代目・FF)」で、200万円前後。2016年式で100万円台後半(2019年1月現在)。
新車価格
1,944,000円(消費税込み)