今回の【試乗評価】は「新型 アバルト 595 コンペティツィオーネ」。
2008年に登場した、コンパクトクラスのホットハッチ(3ドア)です。
「アバルト595」は見た目が「フィアット500」に近いんで、車のあんまり興味の無い人からすると「なんで名前が違うの?」なんて疑問を持つかもしれません。
まあ、その疑問は当然です。なにしろ「アバルト595」のベースは、「フィアット500」そのものですから。といっても中身は全然別もので。フィアット500のボディを活かしながらも、スポーティなエンジンや専用の足回り、アバルトが独自にしつらえたスポーティな内外装パーツなんかで武装されてます。いわゆるホットバージョンってやつです。
その中でも「コンペティツィオーネ」は、「595」の中でも最もスポーティなグレードで、グレード随一の高性能エンジンとハードな足回りが与えられてます(ベーシックな「595」のエンジンが145馬力を発生するのに対して、「595 コンペティツィオーネ」の最高出力は180馬力)。
マイナー前の前期モデルについては下の記事をご覧ください↓
新型 アバルト 500(MT)【試乗評価】活発でキビキビとした走りが楽しいちょいワル車 [ABA-312141]
「新型 アバルト 595 コンペティツィオーネ」の概要
ブランド名に使われている「アバルト」は、かつてイタリア・トリノに存在していた伝説のコンストラクター(1949年設立)が源です。ブランドシンボルのさそりは、設立者である「カルロ・アバルト」が「さそり座」生まれであったことに由来してます。「おっさんにしてはロマンチック~」と思いましたが、日本での「干支」みたいなもんかもしれません。
その後「アバルト」は、フィアットをベースにしたレース車両で大活躍。レース車両やチューニングパーツの製造を中心に行ってました。1971年になると、フィアット社に吸収されるものの活動自体はそのまま継続。ところが、90年代後半になってフィアット社の経営戦略が変更されると、事実上の活動部門としては消滅してしまいます。
この戦略が大きく変更されるきっかけとなったのは「フィアット500」の復活です。2007年に「フィアット500」が発売されると、アバルトも「ABARTH&C.」として正式に復活。往年のファンの中には喜んだ人も多かったんじゃないでしょうか。最初の市販車こそ「グランド・プント」をベースにした「グランド・プント・アバルト」でしたが、2008年になると「フィアット500」をベースにした「500アバルト」が発売されてます。
現在は「フィアット500」をベースにした「アバルト595」系と、「マツダ・ロードスター」をベースにした「アバルト124スパイダー」二つのモデルラインがあります。FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)グループ内では、最もスポーティなブランドという位置付けです。
プラットフォームなど
プラットフォーム(車台)は「フィアット500」と同じ。FCAグループ内で使われるコンパクトカー用アーキテクチャーを使ってます。これに180馬力を発生する1.4リッターツインカムターボと、5速マニュアルトランスミッションを搭載。
ライバルは
ラバルは、コンパクトクラスのホットハッチですが、「アウディ・S3スポーツバック」じゃプレミアムすぎるし「VW・ゴルフGTI」だとちょっとサイズが大きいです。ということで、目ぼしい「VW・ポロGTI」とか「ルノー・ルーテシアR.S.」くらいしかありません。
マイナーチェンジ情報
2017年マイナーチェンジ。前後バンパーのデザイン変更や、ヘッドライトのLED化。リアコンビランプのデザイン変更。前後バンパーの形状にも手が加えられてます。
同時に、グレードによって名前が「アバルト500」と「アバルト595」に分かれていたのを、「アバルト595」に一本化。ベース車両となる「フィアット500」との差別化を図ってます。フィアット500をベースにした車が、それぞれ性能によって「500」と「595」に分かれてたんじゃ、ちょっとばかし分かりづらいですからね。
外観
ボディサイズ、全長3660mmX全幅1625mmX全高1505mm。ホイールベース、2300mm。
可愛らしいフィアット500をベースとしながらも、アバルトならではのスポーティな意匠がこらされた大人のスポーツハッチです。
フロント
コロンとしたフロントフェイスに、丸型LEDヘッドライト。ダイナミックなアバルト専用フロントバンパーを装備。
大型化されたエアインテイクは、インタークーラーの冷却効果を高めると共にダイナミックな印象も強調。マイナーチェンジによってフロントバンパーの形状が変更され、エアインテイクには「ABARTH」の透かし文字が入ります。
サイド
ルーフトップを頂点とした独特の「トライアングルシルエット」に、短く切り詰められた前後オーバーハング(タイヤからボディ端までの長さ)。特徴的なアイコンは、フィアット500と共通です。
アバルト専用大径17インチアルミホイールに専用サイドスカート。スポーツサスによって若干低められた車高が相まって、キビキビとした軽快感を生んでいます。
リア
力強く大地を踏みしめるワイドフェンダー。小さく絞り込まれたキャビン。4本出しエキゾースト・パイプ・フィニッシャー。アバルトの世界観を存分に表現した、力強い後ろ姿です。
マイナーチェンジによってリアバンパー、およびリアコンビランプの形状を変更。リアコンビランプは中心にボディ同色パネルを配した面白いデザイン。
「コンペティツィオーネ」には専用装備として、「4本出しエキゾースト・パイプ・フィニッシャー」と「専用エンブレム」が装備されます。
内装
しっとりとしたブラック樹脂にシルバーフィニッシャー、ピアノブラック調パネル。スポーツ・プレミアムにふさわしい、大人っぽいインテリア。
センターコンソール最上段にはナビ情報などを表示する大型液晶ディスプレイ。中段にはエアコンユニット。ダイヤル式ではありませんがスイッチが大きく段差もあるため、使い勝手は上々です。慣れれば手探りでの操作も可能でしょう。
ステアリングはアルカンターラと本革、カーボンが組み合わされたスポーティなデザインです。ステアリングパッドに配されたサソリのエンブレムがやる気をそそります。
メーターナセルには、丸型液晶モニターを装備。速度計はデジタル式。エンジン回転やガソリン残量などは、棒グラフで表示されます。ブースト計は、純正品でありながらあえて後付感を演出した出目金タイプ。スポーティな演出になんだか楽しくなります。
シート
フロントシートは、強固なカーボンシェルに薄いクッションを組み合わせたセミバケットシート(サベルト社製)。表皮は上質な本革とアルカンターラのコンビですが、座り心地は結構硬め。大きなサイドサポートによって体をガッチリと支えます。
リアシートは、絞り込まれたキャビン形状によって頭上空間が結構きつい。大柄な成人男性であれば頭がルーフにつかえそうです。背もたれの長さも足りず、座面の前後長も短め。子供用、もしくは緊急用シートとして割り切った使い方が必要になります。
荷室
キャビン(居住空間)のトライアングル形状を上手く使って、そこそこのトランクスペースを確保しています。家族4人であれば、1泊旅行くらいは可能でしょう。
さらに背もたれを5:5で分割して倒せば、大きく荷室スペースを拡大できます。
静粛性
乾いたエンジンサウンドを車内に響かせますが、不快な印象はありません。
エンジンとミッション
1368cc・直列4気筒DOHCターボエンジンに、5速MTが組み合わされます。
エンジンは最高出力180ps/5500rpm、最大トルク23.5kgf・m/2200rpmを発揮。
車両重量1120kg。JC08モード燃費13.1km/l。
エンジン
1.4Lのツインカムターボで前輪を駆動(FF)。低速からフラットなトルクを発生しつつも、高回転域まで伸びやかに吹け上がる気持ちの良いパワーユニット。2016年の改良で20馬力のパワーアップが実施され、3000rpmからの鋭さが増しています。現代的なダウンサイジングターボと異なり、高回転域まで回しても頭打ち感はありません。
エンジンサウンドもプレミアムスポーツにふさわしいモノで、低回転域では乾いた重低音を、高回転域まで回せば抜けるような快音を響かせます。
トランスミッション
マニュアル式5速トランスミッションを装備。
剛性感を伴うダイレクトなフィール。短いシフトストロークと相まって、手首の返しだけでコクコクと気持ちよく決まります。
ただし、マニュアル・トランスミッションを選ぶなら、ペダル周りに余裕のある左ハンドル仕様がオススメです。コンパクトなFFモデルはエンジンルームに機械をぎっしりと詰め込んでいるため、レイアウトに余裕がありません。本来、左ハンドルで設計されたモデルを右ハンドル仕様に変更すると、ペダル配置に無理が生じ不自然な配置となります。
アバルト595の場合はペダル類が左側に偏り、各ペダルの間隔も窮屈。自然なドライビングポジションが取りにくい上、足が大きいと隣のペダルを間違って踏みやすいです。
足回りとハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にトーションビーム式サスペンションを装備。前後ともにスタビライザーで強化。
足回り
装着タイヤは、205/40R17。
硬く引き締まったボディにKONIのスポーツダンパーを装備。乗り心地は硬く、まるでカートの様です。といっても、高剛性ボディにガッチリとサスが組み付けられているため、意外なほど不快感はありません。目地段差ではゴツゴツの衝撃を拾いますが、衝撃の角はまろやかです。
短いホイールベースの割に、直進安定性は高い。ただし、連続するある周期の「うねり」によって、ピョコピョコと跳ね上がるような不快な動きをみせます。まあこのあたりは、短いホイールベースにストロークの短いスポーツサスを取り付けているので仕方ありませんが。
ハンドリング
軽快感あふれるスポーティなハンドリング。俊敏な身のこなしはまるでカートの様です。ワイディングではロールを最小限に抑え、キビキビとミズスマシのように走り抜けます。
新たに採用されたブレンボ製ブレーキ・キャリパーは、強力な制動力と正確なコントロール性を発揮。「ブレーキングによって前輪に荷重を移しグイグイと曲がる」なんて事も容易です。
コーナリング中にアクセルを不用意に入れると豪快なトルクステアを発生しますが、その辺りもふくめてアバルト595の味わいとなっています。
【試乗評価】のまとめ
「アバルト 595 コンペティツィオーネ」は、小粋なイタリアンコンパクト「フィアット500」ベースに、スポーティなエンジンと足回りが施されたホットバージョンです。
ハンドリングは、ダイレクトで俊敏。ドライバーの操舵に合わせてキビキビとノーズの向きを変えます。KONI社製スポーツダンパーの乗り味もハードそのもの。タイトなセミバケットシートと相まって、レーシーなフィールです。
外観は「フィアット500」を基本にしていますが、アバルト専用の外装パーツと低められた車高によってかなりスポーティ。ブラック基調で仕上げられた内装には、大人の色気を感じさせます。
「小さなスポーツカーを探しているが、ある程度の実用性も必要だ」とか、「小粋なヨーロピアンコンパクトで、スポーティな走りを味わいたい」といった人に最適な一台です。
中古車市場では
2017年式「アバルト 595 コンペティツィオーネ」で、300万円台前半。2014年式なら200万円台前半(2018年6月現在)。
新車価格
3,726,000円(消費税込み)