今回の【旧型レポート】は、「初代 アウディA4 1.8(B5)」。
1994年から2001年まで製造販売されていた、Mクラスの4ドアセダン。この他に「アバント」と呼ばれるステーションワゴンもあります。
「アウディ・A4」登場以前のアウディは、メルセデス・ベンツやBMWの影に隠れてイメージのハッキリしない二流メーカーというポジションでした。
メルセデス・ベンツやBMWと比較すると、多少価格は安いものの故障しやすく造りもそれなり、高級車を買えない人が我慢して乗るという感じです。
日本で販売を担当していたインポーター「ヤナセ」も、「メルセデス・ベンツのオーナーが奥様のために購入するセカンドカー」という売り方をしていました。こういった事が積み重なってブランド価値をドンドン下げていったのですが、まあ、「車の出来がイマイチ」という事が一番の原因でしょう。
これに危機感を抱いた当時のアウディ首脳部は、「アウディ・80(A4の前身)」のモデルチェンジに伴い巨額の資金を投入。エンジンからトランスミッション、シャシー、足回りからボディまで、全てのメカニズムを一から新設計する戦略をとります。こうして生まれたのが今回の「初代 アウディ・A4」です。
この戦略は見事に当たり、現在のアウディは三大ドイツ高級メーカーにまで成長。完全にメルセデス・ベンツやBMWと肩を並べています。
「初代 アウディ・A4」自体の出来も素晴らしく、ドライブフィールは当時の「メルセデスベンツ・Cクラス」と比較しても遜色ありません。ドイツ本国でも爆発的な人気となり、一時は製造が追いつかないほど。利益率、販売台数ともに大きく改善し、その後のアウディ躍進の礎となっています。
ただし、値段も一流高級車メーカー並となり、以前のように気軽に買うことはできなくなってしまいました。「そんな人には、質感の高まったフォルクスワーゲン・パサートをどうぞ」といったところでしょうか。
※じっくりと読む時間の無い人は、文末の「【旧型レポート】のまとめ」をどうぞ↓
「初代 アウディA4 1.8(B5)」の概要
初代 アウディ・A4は、アウディ・80の実質的な後継車。5バルブエンジンやマニュアルモード付きAT「マニュマチック」など、当時としては革新的な技術が惜しみなく投入されています。
全長はわずかに短縮されるものの、全高及び全幅、ホイールベースが拡大され、伸びやかなスタイリングと広々とした室内を同時に実現していました。
プラットフォームはパサートと共通
基本となるプラットフォーム(基本骨格)には、フォルクスワーゲン・パサート(5代目)と同じ「B5プラットフォーム」を使用。
これに直列4気筒DOHCエンジンおよび、トルコン式4速ATが組み合わされます。
一般的なFF車がエンジンを横置きにしているのに対して、アウディA4はエンジンを縦置きに搭載。びっしりとメカニズムの詰まったFF車のエンジンルームに、エンジンを縦置きにすると隙間が少なくなって整備性が犠牲になります。反面、バイブレーションが少なく前輪にしっかりとトルクを乗せられるといったメリットも。こういったフィーリングの良し悪しはプレミアムカーにとって重要な要素です。「アウディA4の想定するユーザー層は、多少整備にお金が掛かっても文句を言わない富裕層だから問題ないよ」という事なんでしょう。
その他に、2.0リッターツインカムターボに4輪駆動システム「クワトロ」を組み合わせた「アウディ・A4 1.8T クワトロ」もラインナップされていました。このあたりのグレード構成は最新モデルとそう変わりませんね。
1997年にマイナーチェンジを実施
1997年にマイナーチェンジを実施。内外装のアップデートと共に、グレードおよびエンジン構成の見直しが行われています。
ライバルはMクラスのドイツ高級車たち
ライバルは、「メルセデスベンツ・Cクラス」や「BMW・3シリーズ」などのドイツ高級ミディアムセダン。
外観
ボディサイズ、全長4495mmX全幅1735mmX全高1410mm。ホイールベース、2625mm。
シャープでダイナミック、高品質感あふれる「最新型アウディ・A4」もカッコいいですが、初代A4の清楚な佇まいも中々。
「ネオクラシックな雰囲気がいいねえ」なんてものではなく、今でも第一線で活躍できそうな位美しいスタイリングです。
フロント
張りのある面で構成されたフロントノーズに、シンプルな薄型グリル。涼し気な目元が印象的な角型ヘッドライト。硬い金属から削り出したような硬質感が、品質の高さを存分に表現しています。
個人的にはこの見た目の「良いもの感」こそ、「アウディ・A4」のイメージをグッと持ち上げた最大のポイントだったと思います。もちろん、それは内容が伴ってこそなんですけど。
サイド
先代の「アウディ・80」と比較すると、全長が短くなり全高と全幅、ホイールベース(前後タイヤ間の距離)が拡大。端正なスリーボックススタイルを構成しています。
80と並べてみるとよく分かりますが、短いフロントオーバーハングと、長いホイールベース。張りのあるサイドパネルあたりが一体となって、A4をより近代的な工業製品として見せているんですよねえ。
リア
錯覚で小さく絞り込まれたように見えるキャビン(居住空間)に、ハイデッキ化されたヒップライン。大地を力強く踏みしめるように拡がるリアフェンダー。
絞り込まれた空力ボディのせいで、若干後方視界が制限されますが、室内スペースの広さと端正な美しさを両立した傑作デザインです。
内装
きめの細かい樹脂に、深みのあるウォールナットパネル。華やかなシルバーパーツを組み合わせたモダンな室内。パネルの合わせ目(チリ)が狭く幅も均一なため、実際以上に精密な感じがします。
センタークラスター(インパネ中央)最上段には、エアコン吹出口。中段にはオーディオユニット。一番下にはフルオートエアコンを装備。スイッチ式なので手探りでの操作がやりにくいです。「最新式の”フルオートエアコン”はスイッチ式で、枯れた技術の”マニュアルエアコン”はダイヤル式」なんて時代だったんです。
シート
やや硬めのクッションに柔軟な表皮を組み合わせた快適なシート。均一な圧力で身体を包み込むように支えます。15年以上経った今でも、新車時の座り心地をかなりの部分維持しています。経年劣化でヘタりにくいのは、流石ドイツ車といったところでしょう。まあ、古い車なので多少の汗ジミなんかはありますが。
リアシートには十分な頭上および足元空間が確保され、成人男性二人で座っても狭苦しさはありません。
荷室
幅、奥行きともに広く、Mクラスセダンとしては標準的なスペースを確保。形もスクウェア(四角い)で、これなら家族4人で2泊3日旅行も余裕です。
静粛性
多少、5バルブエンジンのノイズが高まりやすいもの、車内にはたっぷりと遮音材がおごられ、ロードノイズ、風切り音ともによく抑えられています。
エンジンとトランスミッション
1780cc・直列4気筒DOHCエンジンに、4速ATの組み合わせ。
エンジンは、最高出力125ps/5800rpm、最大トルク17.1kgf・m/3500rpmを発揮。
車両重量1280kg。JC08モード燃費、11.2km/l。
エンジン
1.8リッターのツインカムターボで前輪を駆動(FF)。燃焼効率を高めるため、当時としては珍しい5バルブを搭載。そのおかげでトルクフルで燃費の良いエンジンとなりましたが、設計が新しく未成熟な部分も多かったため、ノイズ、バイブレーションともに少々大きめです。
トランスミッション
トルコン式の4速ATを装備。多段化の進む現代では珍しい”4段ステップ”ですが、スムーズでダイレクト、フィーリングの良さは申し分ありません。
乗心地とハンドリング
前輪に4リンク式サスペンション、後輪にはTB式トレーリングアーム・サスペンションを装備。前後ともにスタビライザーで強化。
乗心地
装着タイヤは、205/55R16。
経編劣化で多少ガタついていますが、芯のあるしなやかな乗り味を維持。ボディがシッカリとしているため、ショックやブッシュ類を一新してやれば、新車時のフィールが戻ってくるはずです。
荒れた路面ではバタバタと衝撃を広いやすいものの、不快になるほどではありません。
高速域での安定性も高く、フラットな姿勢を保ちます。速度を上げれば上げるほど安定感を増す印象です。
ハンドリング
しっとりとした重さを伴う自然なハンドリング。FFならではのしっかりとした直進性を残しつつ、トルクステアなど嫌なフィールはしっかりと消されています。
このスッキリとしたステアリングフィールの秘密は、新開発されたフロント「4リンクサス」。アウディは従来の古臭いFFフィールを嫌い、コストの掛かる高性能サスを与えたんですね。
メルセデス・ベンツがCクラスに「3リンクサス」を与えたのが、2007年に登場した3代目からですから、当時のアウディがどれだけこの車に強い期待を寄せていたかが伺えます。
最小回転半径は、5.2m。ボディサイズの割に結構小回りが効きます。
安全性能
古い車ですが、「横滑り防止装置」や「運転席・助手席エアバッグ」、「サイドエアバッグ」などベーシックな安全装備は一通り揃っています。
加えてピラー(柱)やサイドシル(ドア下の太い部分)、ルーフを中心に剛性が強化され、当時としては最高水準の安全性能を持っていました。派手な安全装置がたくさん付いていても、基本となるボディ剛性が低いと意味ないんですよねえ。
【旧型レポート】のまとめ
「初代 アウディA4 1.8(B5)」は、当時のアウディが渾身の力を込めて開発したMクラスの4ドアセダンです。
現在は、メルセデスベンツやBMWなど同一高級車ブランドと肩を並べるアウディですが、当時は高級車未満、大衆車以上の中途半端なブランドでした。いわゆる二流ブランドってやつです。
その状況を打破すべく開発された「アウディ・A4」には、エネルギー効率の高い5バルブエンジンにスムーズな4速AT、FF車のクセを感じさせない素直なハンドリングが与えられ、先代「アウディ・80」とは比較にならない位のプレミアムカーに仕上げられています。
ここから現在に繋がる、高級ブランド「アウディ」躍進の大きな転換点というか、礎になった重要なモデルなんですが。初代A4を見ていると、最新技術をバンバン市販車に投入するアウディの原点を垣間見たような気がして感慨深いです。
中古車市場では
2001年式「初代 アウディ・A4 アバント 1.8(B5)」で30万円前後(2018年9月現在)。
新車価格
3,550,000円(消費税込み)