2016年8月、アメリカ・ユタ州で開催されるスピードレース「ボンネビル・スピードウェイ」において、ホンダが開発した高速マシン「S-DREAM」が421.595km/hという世界最高記録を樹立しました。
これは、2006年にBARホンダのF1マシンが樹立した、397.360km/hの最高速度を大きく上回るものです。
「ボンネビル・スピードウェイ」とは
このレースはグレートソルト湖にある、塩湖のあとにできた平原(260平方キロ)「ソルトフラッツ」で行われます。広大なこの平原を利用して、決められた区間を真っ直ぐに走り抜けるだけというシンプルなレース構成です。
具体的には往復14マイルを使って行われますが、加速と制動に2マイルづつ(2マイル×往復×2)必要になるので、実際のレースは残りの6マイルの平均速度で競われます。
このレースではあまりに速度が速くなるため、制動にはなんとパラシュートが使われます。
1912年から開催される由緒あるレースですが、空気の薄い高地で行われるため、出場するマシンには普段と違った特殊なチューンが施されています。また、出場するマシンによって数十種類のクラスに分けられており、バイクからロケットカーまで幅広いジャンルのマシンが参加します。
メンバーは本田技術研究所の若手有志から選抜
今回「S-DREAM」を開発したこのチームには、ベテランのエンジニアはおらず、本田技術研究所の若手有志だけで編成されています。また、実際にこのマシンをドライブしたのは、元ホンダのワークスライダー宮城光氏です。
若い内からこんなチャンスが与えられるなんて、ホンダという会社には夢がありますね。
開発期間には僅か1年という期間しか与えられませんでしたが、限られた人材と機材をやりくりしつつ、なんとか世界記録樹立という堂々たる偉業を成し遂げています。
ホンダの高速マシン「S-DREAM」
この「ボンネビル・スピードウェイ」に出場したホンダのマシンは、極限まで空力を考慮した「ストリームライナー」と呼ばれる美しいフォルムが与えられています。
ただし、このマシンの驚くべきところはそのフォルムだけではなく、421.595km/hを達成したエンジンにあります。
この高速マシンの心臓部には市販車のエンジンが流用されているのですが、それはNSXやレジェンドといった大きな車のものではなく、なんと軽自動車「S660」用の直列3気筒DOHCターボエンジンが使われているというから驚きです。
しかもこのエンジンには細部に渡ってフリクション低減や効率アップが図られ、660ccでありながら200馬力の大パワーを発揮するチューンが施されています。
この「ボンネビル・スピードウェイ」というレースでは、いかに空力を極限まで低減させ、同時に大パワーを絞り出しながら、ギリギリまで車両重量を減らすという事が重要です。
つまり、この小さな軽自動車用エンジンはそんなわがままな要求を見事に両立させる、優れたレーシングユニットだったというわけです。
このエンジンを市販車に搭載したら?
この小さなエンジンをS2000クラスの車に搭載したら、素晴らしいスポーツカーができそうです。ただ、耐久性やエネルギー効率を考えると、ちょっと無理かもしれません。車両価格もとんでもない事になりそうです。