今回の【試乗評価】は、「新型 VW ゴルフ オールトラック TSI 4MOTION」。
2015年に登場した、ステーションワゴンベースのクロスオーバーSUV(5ドア)です。
ゴルフのステーションワゴン版「ゴルフ ヴァリアント」をベースに、最低地上高を上げたり(+25mm)、「4MOTION」と呼ばれる4WDシステムを装備したり、アウトドアっぽい外装パーツを取り付けたりしながら「クロスオーバーSUV」風に仕立て上げてます。
この手法は「アウディ A4 アバント」をベースにした「オールロードクワトロ」や、「スバル レガシィワゴン」をベースにした「アウトバック」なんかと同じです。
既存のコンポーネントがそのまま使えるのでコストが掛からないし、その割に結構ガラッとイメージを変える事もできる。加えてお客さんの受けも良いとくれば、やらない手はないんですよねえ。ビジネス戦略的にいい事ずくめの、お得な販売戦略というわけです。最近のクロスオーバーSUVブームなんかもあって、参入するメーカーが後を絶ちません。
実際に使ってみると、カッコだけじゃなくて実用性も高いです。最低地上高が165mmと乗用車よりも高いんで、「乗り降りがしやすい」とか、目線が高いので「車両感覚が掴みやすく周りの状況が確認しやすい」といったメリットが生まれてます。といっても本格的なSUVほどの「高さ」じゃ無いんで、日本の立体駐車場も十分使えちゃいます。がっつりSUVの市場を取りに行くというよりも、隙間を狙った「ニッチ商品」ってやつですね。
「新型 VW ゴルフ オールトラック TSI 4MOTION」の概要
最低地上高が高いことと、アウトドアテイストを演出する装飾パーツなんかを除けば、見た目はまんま「ゴルフヴァリアント」です。
これにオンデマンド式の4WDシステム「4MOTION」と、ゴルフヴァリアントよりも強力な「1.8リッターツインカムターボ」。デュアルクラッチ式「6速DSG」が組み合わされてます。
「4MOTION」はFFをベースにした4WDで、安定した路面なら前後「100:0」のFF状態で走りますが、滑りやすい路面など状況の変化に応じて「100:100」の4WD状態から「0:100」のFR状態までフレキシブルに可変する仕組みです。
プラットフォームは「ゴルフ7」と同じ
基本となるプラットフォーム(車台)は、「ゴルフ ヴァリアント」などと同じゴルフ系に使われる「MQBプラットフォーム」。まあ、「ゴルフ オールトラック」のコンポーネントはほとんど「ゴルフ7」ですから、同じなのはあたりまえかあ。
ライバルはCセグメントのステーションワゴン
ライバルは、Cセグメントのステーションワゴン。国産なら、「トヨタ・カローラ フィールダー」や、「スバル・レヴォーグ」、「ホンダ・フィット シャトル」などでしょう。
ただし、ステーションワゴンベースのクロスオーバーSUVと考えると、意外にライバルは思い当たりません。上手いこと市場の隙間を突いとるわけです。
マイナーチェンジ情報
2017年にマイナーチェンジ。前後バンパーのデザイン変更や、フルデジタルメーターのオプション設定。安全装備の充実なんかが行われてます。
外観
ボディサイズ、全長4585mmX全幅1800mmX全高1510mm。ホイールベース、2635mm。
フロント
ゴルフらしい真面目なフロントフェイスに、スキップガードやらシルバーガーニッシュなんがついて、ちょうどいい華やかさになってます。
ベースとなった「ゴルフ ヴァリアント」の最低地上高をちょっとだけ上げて、専用の加飾パーツを控えめに付けているだけなんで、「アウトドアテイスト」も程よい感じです。
「ゴルフ ヴァリアント」との違いは、「専用グリル」や「フロントバンパー(シルバーガーニッシュ)」、フロントバンパー下の「スキッドガード(シルバー)」など。
サイド
「ゴルフ ヴァリアント」譲りの、伸びやかで重厚感あふれるサイドビュー。専用加飾パーツや最低地上高の嵩上げによって、「逞しさ」が増してます。
ヴァリアントとの違いは、ボディ下部をぐるりと囲む「ブラック樹脂トリム」や「専用ドアミラー(シルバー)」、「専用サイドシル(シルバー)」、「タイヤハウスエクステンション(ブラック樹脂)」など。
リア
元々、端正で凝縮感のあるリアエンドが、「クロスオーバーSUV化」によってどっしりとした「重厚感」とか「おしゃれな感じ」を加えています。コストを掛けずに、ちょこちょこっとイジるだけでこれだけ雰囲気が変わるんですから、メーカーサイドはもとより、ユーザーにとってもこの手の「手軽なクロスオーバーSUV」は「やめられまへんなあ」ってところでしょうねえ。
ヴァリアントとの違いは、ボディ下回りをグルリと囲む「ブラック樹脂トリム」やリアバンパー下の「スキッドガード(シルバー)」など。
内装
室内のデザインは、「ゴルフ」や「ゴルフ ヴァリアント」とほとんど同じ。なんですが、センターパネルは「ピアノブラック調」じゃなくて、艶のあるグレーになってます。質実剛健、シンプルで使い勝手の良いデザインで、質感もかなり高いです。
ボディが硬くてドアの取付精度も良いんで、ドアを閉める音に「ドス!」という重厚感がありますねえ。こういうのは、ちょっと前まで高級車ならではの専売特許だったんですが、今ではゴルフクラスでも味わえちゃうんです。
グラスエリアが広く目線も高いんで、ボディの見切りは申し分ありません。元々、運転のしやすい「ゴルフ ヴァリアント」の最低地上高をさらに上げているんで、狭い場所での取り回しもラクラクって感じです。
メーターナセル
メーターナセルには、シルバーリングで縁取られた二眼メーター。メーターの間には、車輌情報などを表示する「小型ファンクションディスプレイ」があります。
マイナーチェンジでフルデジタル表示の「Active Info Display」が選べるようになりました。今までアナログメーターがあった場所に、12.3インチ大型ワイドディスプレイを設置。ドライバーの好みに応じて速度計やタコメーター、ナビゲーション、車輌情報などを表示する仕組みです。今まで「アウディには、バーチャルコックピットがあって良いなあ」なんて思っていた人は是非オーダーしてみてください。
センタークラスター
センタークラスター最上段には、エアコンの吹出口が2つ。最近流行りのフローティングディスプレイじゃありませんが、この場所に吹出口があると後部座席まで風を送りやすいんです。
その直下、中段にはナビゲーションなどを表示する「9.2インチ大型タッチスクリーン」を配置してます。ナビゲーションだけじゃなくて、車輌情報を統合的に制御するシステムが入ってます。目新しい「ジャスチャーコントロール」も付いとるんで、タッチパネルに触らずに手の動きだけでシステムをコントロールできるんです。
最下段にはエアコンのコントロールユニットがあります。運転席と助手席、それぞれに風量と温度を調整できるんで、「設定温度をめぐって喧嘩になる」なんてことはありません。大きなダイヤル式なんで、手探りでの操作がしやすいのも嬉しいポイントです。
シート
フロントシートは、ガッシリとしたフレームに分厚いクッションを組み合わせた快適なシート。適度なコシと控えめなサイドサポートがあるんで、長距離ドライブをしても疲れにくいです。このクラスでこれだけのシートを持つ車は、そうそうありません。
リアシートも、フロント同様にしっかりとした構造を持ってます。やや平板なデザインですが、クッションの厚みとコシ、表皮の柔軟性ともに問題ありません。足元も広く頭上にも十分な空間があるため、大人二人で座っても快適です。
荷室
荷室には、3列目シートが付けられそうなくらい大きな空間があります(605リッター)。これなら家族4人でキャンプ遊びも余裕です。
さらにリアシートを「4:6」で折りたためば、商用バンみたいにだだっ広い空間(1620リッター)が出現します。片側だけを倒してスキーやスノボを積んでもいいし、全部フルフラットにして「組立家具や大型家電を運ぶ」なんてこともできます。
静粛性
元々静かさに定評のある「ゴルフ ヴァリアント」をベースに、トルクフルな「1.8リッターエンジン」を組み合わせてるんで、エンジン回転が抑えられてされに静かになってます。
エンジンとトランスミッション
1798cc・直列4気筒DOHCターボエンジンに、6速AT(DSG)を搭載。
エンジンは、最高出力180ps/4500-6200rpm、最大トルク28.6kgf・m/1350-4500rpmを発揮。
車両重量1540kg。JC08モード燃費、13.5km/l。
エンジン
1.8リッターのツインカムターボで4輪を駆動(フルタイム4WD)。
4WD化によって重くなったボディ(1540kg)をそれなりに走らせるため、ゴルフシリーズで唯一の「1.8Lターボエンジン」が使われてます。こいつは、「ポロGTI」にも使われるパワフルなエンジンですが、ポロとは違って実用域を重視したセッティングになってます。
1350回転という極めて低い回転から最大トルク(28.6kgf・m)を発生、日常域でも扱いやすいです。多少の坂道なら、アクセルを軽く踏み込むだけでスルスルと加速しちゃいます。
高回転まで”ビンビン”回るような吹け上がりの良さとかスポーティさは希薄ですが、分厚いトルクを生かしてゆったりと加速して行きます。「ゴルフヴァリアントの”穏やかで力強い”キャラクターにバッチリ合っているなあ」って感じです。
悪路走破性を高める「オフロード」モード
それから、他のゴルフシリーズと同様に、エンジンからトランスミッション、ステアリング特性までを統合的に制御する「ドライビングプロファイル」機能も付いてます。ただし、ゴルフオールトラックには、他のモデルには無い「オフロード」というモードが追加されとるんです。
このモードは雪道や泥道なんかで真価を発揮するモードで、滑りやすい路面での走破性を高めてくれます。スポーティな走りを楽しむための「スポーツ」モードもありますが、GTIグレードなんかと比較すると若干穏やかなセッティングです。「システム全体が”オールロード専用”として仕立てられとる」ってところでしょう。
トランスミッション
トランスミッションは、湿式多板クラッチを使った「6速DSG」を搭載。ゴルフヴァリアントよりも大きなパワーを受け止めるため、容量がアップされてます。
変速フィールは、ゴルフ用の乾式DSGよりもスムーズで、低速域でのギクシャク感もありません。発進から中高速域まで、滑らかかつ上質なフィールに終始します。
トルクフルな1,8リッターターボとの相性も抜群で、低い回転を保ったままポンポンとリズミカルに変速。無闇に回転を上げないセッティングになっとるんで静粛性が高いんです。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪には4リンク式サスペンションを装備。前後ともにスタビライザーで強化。
乗り心地
装着タイヤは、205/55R17。
レーザー溶接でガッチリと固められた「MQB」ボディに、4WD化によって重くなったボディ、トロークの伸ばされたサスペンションが組み合わされて、穏やかで柔軟性のある乗り味になってます。といっても乗り味の芯にしっかりとした「コシ」があるんで、フワフワとした落ち着きの無さはありません。どっしりとした重厚感を伴うのは、「流石にドイツ車」って感じです。
出来の良すぎる「ゴルフ」をベースにしたステーションワゴンが下地になっているんで、直進安定性も抜群。少々の轍や横風くらいじゃあ、進路を乱されませんねえ。フラットな姿勢を維持したまま、どこまでも直進していっちゃうんです。
電子制御される4WDシステム
搭載される4WDシステムは、ハルデックスカップリングを使った電子制御クラッチ式。普段は前輪駆動で走りながら、滑りやすい路面では後輪にも最適なトルクを配分する仕組みです。
試乗車に付いていたタイヤは「ミシュラン・プライマシー3」でした。僕のレガシィに付いているのと銘柄は同じですが、こっちの方がずいぶんとしなやかな印象です。まあ、このへんは車との相性やセッティング(メーカーに直で下ろすタイヤは、モデルに合わせてセティングが変えてある)の違いもあるんで、一概に比較はできませんけど。。。
ハンドリング
ステアリングにはしっとりとした重みがあります。SUV化に伴って車高が高くなっているんで、その分、ハンドリングは穏やかな印象です。といっても、ルーズな感じじゃなくて、操舵に対する反応は基本的に素直。スムーズな身のこなしでコーナーを抜けていきます。
「ゴルフヴァリアント」よりも車高が若干高くなってますが、コーナリング中に「ボディを唐突に傾ける」なんてことはありません。ある程度のロールを許しながら、グリップを高めて穏やかにコーナリングする感じです。ゴルフヴァリアントよりもスローな味付けですが、「オールロードの穏やかなキャラクターに合っているなあ」と感じました。快適性や乗り心地、ハンドリングのバランスが絶妙なんですよねえ。
最小回転半径は、5.2m。ボディサイズの割に小回りがききます。
先進安全技術
「予防安全技術」として、車両や歩行者との衝突を検知して被害軽減・衝突回避を行う「フロントアシスト(歩行者検知対応シティエマージェンシーブレーキ機能付き)」を装備。いわゆる「自動ブレーキ」とか「プリクラッシュブレーキ」と呼ばれる機能です。
「運転支援技術」としては、渋滞時、設定された車間で前車に追従する「トラフィックアシスタント」や、それと似た機能ですけど、適切な距離を保って設定された速度で追従する「アダプティブクルーズコントロール(全車速追従機能付き)」、カメラで車線逸脱を検知すると警告およびステアリング補正を行う「レーンアシスト」、「ダイナミックライトアシスト」なんかがあります。
【試乗評価】のまとめ
「新型 VW ゴルフ オールトラック TSI 4MOTION」は、中小型のステーションワゴンをベースにした「クロスオーバーSUV(5ドア)」です。
使い勝手の良いステーションワゴン「ゴルフ ヴァリアント」の車高をちょっとだけあげて、アウトドアテイストあふれる外装パーツで飾り立てられてます。
ベースとなるホワイトボディは「ゴルフ ヴァリアント」そのものなんで、居住空間や荷室も広々。たくさんの荷物を積み込んで家族でキャンプに行ったり、友達とスキーやスノボを楽しんだりと色々な使い道があります。
これに、トルクフルな1.8リッターターボや、スムーズな6速DSG。悪路走破性を高める4WDシステム「4MOTION」なんかも組み合わされとるんです。
さらに、重くなったボディとストロークの増した足回りによって、乗り心地も向上。しっとりとした重厚感としなやかさがあります。ハンドリングもゴルフ系の美点を受け継ぐ、素直は特性。「オールトラック」の場合は、ゆったりした穏やかさも伴っとります。
どんな人にオススメ?
「質実剛健で使い勝手に優れるゴルフヴァリアントも良いけど、もうちょっとだけ面白みとか華やかさも欲しい」とか、「流行りのクロスオーバーSUVに乗ってみたいけど、大げさなのはちょっと」なんて人にピッタリな車です。
ただし、「ゴルフ オールロード」は、悪路走破性とか日常域での力強さを重視したセッティングのため、「ゴルフ ヴァリアント」に比べるとカタログ燃費が悪い(ヴァリアントの燃費が19.5km/lのところ、オールトラックは14.7km/l)です。「実際の使い勝手とか実用燃費、ランニングコストなんかを重視する」という人の場合は、普通の「ゴルフ ヴァリアント」で十分だと思います。
中古車市場では
2018年式「VW ゴルフ オールトラック TSI 4MOTION」で330万円前後。2015年式で270万円前後(2019年2月現在)。
新車価格
3,659,000円(消費税込み)