今回の試乗レポートは「三菱 i(アイ)T」。
2006年から2013年に渡って製造販売されていた、軽自動車の5ドアハッチバックです。この他にこの「i」をベースに設計された電気自動車の「iMiEV」があります。「i」の生産は2013年で終了していますが、「iMiEV」は現在も継続して販売されています。
ミッドシップ・エンジン&リア・ドライブによる特殊なレイアウトと、斬新なボディスタイルが与えられた、プレミアム・スモールカーです。
三菱自動車には、この他にに「ek」や「ミニカ」といった既存の軽自動車がありますが、この「i」には一から設計された全く新しいシャシーが与えられています。シャシーを新しく起こすには膨大な予算が必要となりますが、当時、経営危機にあった三菱自動車がそれだけこの車に強い期待をかけていたという事ですね。
外観
全長3395mmX全幅1475mmX全高1600mmのボディサイズを持ち、ホイールベースは2550mmとなります。
唯一無二、世界中を探してもこの「i」に似た車はありません。しかも、全体のバランスが絶妙で、登場から10年以上が経過しているのにも関わらず全く古さを感じさせません。
フロント
緩やかにラウンドした巨大なフロントウィンドウがノーズ先端まで突き出した、宇宙船とかカプセルをイメージさせる近未来的スタイリング。水滴型のヘッドライトがフロントフェイスにやさしい雰囲気を与えています。
サイド
軽自動車としては最長を誇るホイールベースに、前後ギリギリまで切り詰められたオーバーハング(タイヤからボディ端までの距離)。大きなキャビン(居住空間)が相まって伸びやかで個性的なサイドビューを構成しています。サイドウィンドウ下端の緩やかなラインが、この伸びやかな印象をさらに強調していますね。
この個性的なスタイリングは、ただ単に奇抜さを狙ったものではなく、リア・ミッドシップ・エンジン&リア・ドライブによる合理的な裏付けがあります。そのあたりの事情も、この「i」のスタイリングが陳腐化しない理由のひとつです。
リア
リアビューにちょっと腰高感があるのは、リアアクスル(後輪車軸)上にエンジンが搭載されるためです。しっかりと大地を踏みしめるワイドフェンダーに、丸みのあるリアウィンドウ、縦型のリアコンビランプが組み合わされ、力強くもユーモラスなスタイリングです。
内装
プラスチッキーなインパネに、メタリック調のセンタークラスターを組み合わせたシンプルで好感の持てる内装デザイン。ちょっと三菱マークの入ったステアリングが野暮ったい印象ですが、このあたりは共用部品なので仕方ありません。アイポイントが適正でノーズが極端に短いため、取り回しも楽々です。
超ロングホイールベースにより、車内には広々とした空間が拡がります。大きなフロントウィンドウにより前方の視界も良好です。
シート
前席には、しっかりとしたサイドサポートのある座りやすいシートが装備されます。軽自動車にしてはしっかりとしたコシがあり、長時間座っていても疲れにくいです。
後席は、頭周りに窮屈感があるものの、足元には広々とした空間が確保されており、成人男性でも十分座ることができます。ただし、座面が低いためシートから膝が浮き上がり、長時間ドライブでは疲れてしまいます。
荷室
床下にエンジンが収まるため、同クラスの軽自動車と比較すると若干荷室容量は小さめです。それでも、家族4人で1泊2日旅行くらいは余裕です。シートバックを折りたたむことで、5:5で分割して荷室を拡大することができます。
静粛性
リア・ミッドシップにエンジンが搭載されるため、エンジンノイズが車内に侵入しやすいです。ただし、前席に座るとエンジンからある程度の距離があるため、それほど気になりません。
エンジンとミッション
659ccの直列3気筒DOHCターボエンジンに、4速ATが組み合わされます。
エンジンは、64ps/6000rpmの最高出力と、9.6kgf・m/3000rpmの最大トルクを発揮します。
車両重量910kg。10モード/10・15モード燃費は、–km/lとなります。
エンジン
リア・ミッドシップに搭載された659ccのツインカムエンジンで後輪を駆動。低速からフラットなトルクが立ち上がり、街中など日常領域では力強い加速感が得られます。
トランスミッション
トルコン式の4速ATを装備。ショックの少ない、スムーズかつダイレクトな変速フィールが気持ち良いです。
足回りとハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪には3リンク・ド・ディオン式サスペンションが装備されます。
足回り
ちょっと硬めの乗り心地。目地段差ではゴツゴツと不快な衝撃を拾いますが、速度が乗ってくるに従い、フラットライドで快適な乗り味に変化します。
軽自動車随一のロングホイールベースが与えられ、高速域でも抜群の安定性を誇ります。
ハンドリング
ミッドシップらしいキビキビとした軽快なハンドリング。ステアリングフィールも軽く、ドライバーの操舵に対して素直に反応して気持ちよく曲がります。
フロントノーズにエンジンが無いためハンドルの切れ角が大きく、狭い路地でも簡単に切り返すことができます。
評価のまとめ
リア・ミッドシップ&リア・ドライブの特殊なレイアウト裏打ちされた、軽快なハンドリングと近未来感溢れるスタイリング。ロングホイールベースによる高い安定性と広々とした室内空間。どれもこれも似たような軽自動車ばかりの日本市場にあって、この「i」は唯一無二の個性的な魅力を発しています。
運転の好きな若者が、通勤や通学のための足として購入したり、家族用の買い物グルマとして購入するのにピッタリな一台です。
「個性的な車が欲しいが、外国車はどうも信頼性やサービス面で不安がある」といった人にもオススメしたい車です。
軽自動車は必要経費が安く中古車市場でも人気が高いため、古いモデルであっても値下がり幅が少ないです。しかし、この「i」は既に廃止されたモデルということもあって、比較的安い価格で購入することができます。程度の良い最終モデル(ターボ)の場合で80万円前後(NAの場合は60万円前後)から見つけることができます(2017年10月現在)。
価格
新車当時の価格 | 1,476,000円(消費税込み)