今回の【試乗評価】は「新型 シトロエン C4 ピカソ エクスクルーシブ」。
2013年にフルモデルチェンジした、コンパクトクラスのミニバン(5ドア)です。今回、7年ぶりのモデルチェンジで2代目へと進化しとります。
初代「C4ピカソ」は、シトロエンらしい柔らかな乗り味や柔軟なシート、ルーフ先端まで拡がる大型フロントウィンドウとかセンターメーターなんかも付いてて、とにかく楽しくてワクワクさせられる車でした。
シトロエンといえば、「シトロエン・エグザンティア」のようなルーフの低いサルーンをイメージしちゃいますが、実は、当時シトロエンで一番売れていたモデルは何を隠そうこの「C4ピカソ」です。日本市場はもとより、欧州市場でも売れに売れておりました。まあ、つまり世界中で大ヒットとなっとったんですねえ。
世界中で大ヒットとなると、次のモデルに投入される予算も莫大な額になりがちです。2代目「C4ピカソ」の場合も結構な大金が投入されていると見えて、内外装の仕立てや走りの質感にクラス標準レベルを超えるもんが感じられますねえ。
「新型 シトロエン C4 ピカソ エクスクルーシブ」の概要
この車のモチーフは、2013年にジュネーブモーターショーで発表された「TECHNOSPACE Concept(テクノスペースコンセプト)」。個性的な内外装やスポーティでしなやかな走り、室内空間の広さなんかの美点は初代「C4ピカソ」と変わりません。
先代は、ロングボディの7人乗り(欧州仕様はショートとロングの二種)だけでしたが、今回の「C4ピカソ」は5人乗り二列シートの「C4ピカソ」と、7人乗り三列シートの「グランドC4ピカソ」。二種類のボディバリエーションが用意されとります(その後、5人乗りは整理されて、再び7人乗りだけになっちゃいましたが。。。)。
二種類のボディバリエーションといっても、それぞれ微妙にデザインの違う専用ボディなんです。このへんにも、潤沢な予算の片鱗が見え隠れしてますねえ。しかも、それぞれで別のデザイナーが違った視点から設計しているっていうんですから恐れ入ります。
「ピカソ」の由来は当然ながら「あの人」
ネーミングの由来は、芸術家で知られる巨匠「パブロ・ピカソ」。ピカソの権利者からわざわざ使用権を購入して使っているんですって。エンブレムも、ピカソ直筆のサインをベースにした優雅な書体になってます。日本市場での販売日も、ピカソの誕生日に合わせて10月25日としてました。このあたりにも「遊び心」があって面白いですねえ。
「ピカソ」のネーミングは、「C4」だけじゃなくて「C3」にも使われ、シトロエンのミニバンというかMPVを表すサブネームになってました。しかし、ここに来て、2017年の改良でネーミングのみ廃止され、「スペースツアラー」という新しい名前になっとります。ピカソの権利者となんかあったんですかねえ。モデル途中で急に名前が変わるというのは、あるっちゃあるんですが、まあ、ちょっと気になります。
プラットフォームは「EMP2」
基本となるプラットフォーム(車台)は、プジョー・シトロエン・グルーブ(PSA)が総力をあげて開発した「EMP2」。「シトロエン・C4ピカソ」は、このプラットフォームを使う最初の車で、二番目には「プジョー308」が続きます。つまり、このふたつの車はブランドは違うけど「兄弟車」ってことになるんです。
「EMP2」は最近流行りの「モジュラープラットフォーム」ってやつで、モデルに合わせて柔軟に伸び縮みさせて使います。リアサスも現状のトーションビームから、高性能なマルチリンクに換装することもできるんです。高級車にトーションビームじゃ、ちょっと役不足ですもんねえ。
ライバルはコンパクトクラスのミニバン
ライバルは、国産で「トヨタ・シエンタ」や「ホンダ・ジェイド」。外国勢なら「BMW・2シリーズ アクティブツアラー」とか「ゴルフ・トゥーラン」あたりでしょう。個性的な内外装とか質感の高さを考えれば、国産勢はちょっとばかしジャンルが違うかもしれません。
マイナーチェンジ情報
2017年にマイナーチェンジ。内外装の小変更や装備の充実。安全装備のアップデートなんかが行われました。加えて、新しいクリーンディーゼルエンジン「Blue HDi」がラインナップされてます。
2018年の一部改良で、「ピカソ」のネーミングは廃止され、「スペースツアラー」となりました。5人乗り二列シートの「C4 ピカソ」は「C4 スペースツアラー」に、7人乗り三列シート「グランド C4 ピカソ」は「グランド C4 スペースツアラー」と変わります。
これに合わせて、欧州仕様は6速ATから8速ATになりましたが、日本仕様は6速のままです。
外観
ボディサイズ、全長4430mmX全幅1825mmX全高1630mm。ホイールベース、2780mm。
フロント
フワンとした「癒し系」のフロントノーズに、LEDデイライトを左右で連結する薄型グリル。LEDデイライトの真下にあるのが「ヘッドライト」です。なんだか、LEDデイライトの方がヘッドライトっぽいんで、キリッと引き締まった鋭い目付きに見えちゃいますね。
それから、グリルの中央にあるのがシトロエン伝統のエンブレム「ダブルシェブロン」です。グリルの真ん中を折り曲げることで「ダブルシェブロン」を表現しております。これは、最近のシトロエンが好んで使う手法です。シンプルでカッコいいですもんね。
サイド
新世代プラットフォーム「EMP2」の採用で、前後のオーバーハングがぐっと短くなりました。Aピラー(一番前の柱)やDピラー(一番後ろの柱)の傾きも強いんで、スポーティな印象です。
ルーフからCピラーを回り込んでサイドウィンドウ下端へと、シルバーに輝くクロムメッキがハメ込まれてとります。こいつのおかげで、ミニバンの間延びしたサイドビューが少しだけ引き締まった感じになりますし、上質な感じもあるんです。
リア
ミニバンにしてはリアウィンドウの傾斜が強く面積も小さいんで、ちょっと背の高い5ドアハッチバックのように見えます。ブラックアウト(黒く塗装)されたDピラーや、力強く張り出したリアフェンダーもスポーティでカッコいい感じです。
「シトロエン」の「C」をモチーフにしたリアコンビランプ(レンズ)や、段差の無いリアウィンドウとリアハッチのつなぎ目など、小技もバッチリ効いとります。
内装
「シンプルな内装」とはよく言われる言葉ですが、縦と横の直線を基調にして「シンプル」にまとめ上げるのは割合簡単な仕事です。これに対して、複雑な要素や曲線なんかを織り交ぜながら、シンプルな印象にまとめ上げるのはかなりの造形センスと技量がいります。
「シトロエン・C4 ピカソ」の内装は、そんな難しい方の「シンプルな内装」なんです。
センタークラスター
センタークラスター最上段には、センターメーターの役割をはたす「12インチ・パノラミックスクリーン」が鎮座しております。フルデジタル式のメーターとして、速度やエンジン回転、燃料の残量なんかを表示します。表示する内容は、ステアリング上にあるスイッチで好きに変えられます。
その直下には「7インチ・タッチスクリーン」があって、エアコンやオーディオ、車輌情報なんかを表示。タッチパネルによって、統合的に操作できちゃいます。
開放感たっぷりの「スーパー・パノラミック・フロントウィンドウ」
アップライトなポジションと、細い2つの柱に別れたAピラー(フロントウィンドウ左右の柱)によって前方の視界は広々。運転がしやすいです。
さらにフロントウィンドウがドライバーの頭上付近まで大きく伸びているんで、異次元レベルの不思議な開放感があります。ルーフの巨大な「パノラミックガラスルーフ」と連結されて、なんだか大きなカプセルの中にいるような感じです。
シート
フロントシートは、手触りの良いファブリックで、ライトグレーとダークグレーのツートン。左右非対称のユニークなデザインです。こういったデザインだと左右で別々の表皮がいるんで、普通のシートよりもコストが高いんじゃないのかな。
先代よりもクッションがちょっとだけ薄く、サイズ自体も一回り小さくなりました。といっても、シトロエンらしい「柔らかな座り心地」はまだまだ健在です。先代と比較しなければ十分快適な部類だと思います。「長距離ドライブでもどんと来い!」て感じです。
リアシートは3人掛けですが、真ん中のシートを小さく設計した「2+1」じゃありません。それぞれのシートが同じ大きさで独立した、「完全独立式」です。スライドからリクライニング、シートの折りたたみまで全部の機能が独立してます。メリットとしては、「3人がそれなりにくつろいで座れる」ってことですが、逆にデメリットとしては「左右のシートが若干小さくなる」ってことでしょうねえ。「俺の車には、普段から常に5人乗っけてるよ」なんて人にはピカソの「完全独立型リアシート」が使いやすそうです。
新世代プラットフォーム「EMP2」を使ったことで、全長を変えずにホイールベース(前後タイヤの間・2780mm)だけを延長できました。そのおかげで室内長も長くなって、大きな室内空間を確保してます。リアシートの足元にも余裕ができたんで、ゆったりと座れますよ。小さなテーブルや足元収納なんかもあって、「至れり尽くせり」って感じです。
荷室
この手のコンパクトミニバンとしては、十分な荷室スペース(537リッター)を確保してます。高さもあるし、開口部もスクエア(四角い)で広いんで、大きな荷物の積み下ろしも苦じゃありません。これなら、家族4人で荷物のかさばるキャンプ遊びも余裕です。
さらにリアシートを三分割して折りたためば、広大な荷室スペースが出現します。リアシートの操作性は日本車のような軽快な感じじゃなくて、がっしりとした重量感を伴います。このへんは好みの問題ですが、非力な人は日本製ミニバンの方が使いやすいかもしれません。
静粛性
スムーズで静かなエンジンだし、遮音対策もしっかりとしとるんで、室内はわりと静かな部類です。高速道路など定速巡航中はエンジン回転が低めに抑えられるんで、さらに静かになります。
エンジンとトランスミッション
1598cc・直列4気筒DOHCターボエンジンに、6速ATを搭載。
エンジンは、最高出力165ps/6000rpm、最大トルク24.5kgf・m/1400-3500rpmを発揮。
車両重量1480kg。JC08モード燃費、15.1km/l。
エンジン
1.6リッターのツインカムターボで前輪を駆動(FF)。出足から分厚いトルクを発生して、グイグイと力強く加速します。トルクに対する車重が軽い(1480kg)こともあって、街中から山坂道まで力不足を感じさせる事はありません。
どの速度域からでも必要なトルクが即座に得られるんで、アクセルを軽く踏み込むだけでイメージ通りの加速ができちゃいます。いわゆる、「レスポンスが良い」って状態です。ギクシャクとした走りとは無縁で、「個性的な見かけと違って運転しやすい車だなあ」と感じました。
トランスミッション
トルコン式の6速AT(アイシン製)を装備。
トルクフルな「ダウンサイジングターボ」とのマッチングは抜群で、状況に合わせて適切なギアが瞬時に選択されます。トランスミッション自体に頭脳があるって感じかな。
力強く加速したい時は、アクセルを踏み込むだけで瞬時にシフトダウン。エンジン回転を高めて力強い加速感を生み出すんです。高速道路など、一定の速度で巡航する場合は、高いギアが選択されてエンジン回転を低めにキープ。「静粛性も高まるし、エネルギー効率も良くなる」って具合です。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、205/60R16。
足回りは、シトロエン伝統の「ハイドロニューマチック」とか、先代ピカソに付いてた「エアサス(後輪)」じゃなくて、普通のメカニカルサス(コイルスプリング&油圧ダンパー)です。
いわゆる「魔法の絨毯」と呼ばれていた頃の不思議なライド感は薄まりましたが、それでも他の車に比べればそれなりの「シトロエン風味」は残されとります。
たっぷりとしたサスストロークを活かした重厚感のある乗り味で、あたりにはシトロエンらしい柔軟さもあるんです。といっても従来のフワフワ系じゃなくて、乗り味の芯にはカチッとした「硬質感」のようなものがあります。高速域での安定性も高く、ビシッとした姿勢を維持したまま真っ直ぐに進むんです。
背の高いミニバンにしては、ロールの出方も自然で控えめ。うねりのあるワインディングに持ち込んでも、それなりのペース(制限速度内で)を維持してテンポよくに走り抜けちゃいます。
目地段差や橋脚ジョイントでは、小さな衝撃を柔軟に受け流して涼しい顔で走り抜けます。大きな段差ではやや後席に突き上げ感を伝えますが、不快なレベルじゃありません。
ハンドリング
新世代プラットフォームの採用と、低められたエンジン搭載位置(-50mm)。適度に引き締められた足回りなんかの影響で、ハンドリングにはキビキビとした軽快感がありますねえ。ドライバーの操舵に対する反応も素直で、ステアリングを切った分だけ自然にノーズの向きを変えていく印象です。「7人乗り」はもう少し落ち着いた印象ですが、基本的なフィールは「5人乗り」と変わりません。
電動パワーステアリング自体のセッティングも軽めで、車庫入れなんかのステアリング操作もやりやすくなってます。
最小回転半径は、5.4m。ボディサイズを考えれば、平均的なレベルです。
先進安全技術
「予防安全技術」としては、車線からのはみ出しを検知して警告、ステアリングサポートも行う「レーンキープアシスト」や、斜め後方の死角にいる車を検知して知らせる「アクティブブラインドスポットモニター(ステアリングサポート付き)」、前車との異常接近を警告する「ディスタンスアラート」なんかが付いてます。衝突の危険を感知して、自動ブレーキを作動させる「アクティブセーフティブレーキ」は最近の改良でやっとこさ装備されました。
「運転支援技術」としては、設定された速度で前車に追従する「アクティブクルーズコントロール」や、センタークラスター最上段の「パノラミックモニター」に制限速度を表示する「スピードリミットインフォメーション」があります。
【試乗評価】のまとめ
「新型 シトロエン C4 ピカソ エクスクルーシブ」は、中小型の5人乗りミニバン(5ドア)です。
シトロエンならではの個性的な内外装と、頭上付近まで大きく伸びるフロントウィンドウ。そこからルーフ全体を覆い尽くすように拡がるガラス製サンルーフ。なんかが一体となって不思議な開放感を演出しております。
新世代プラットフォームのおかげで拡大した室内と、先代から受け継ぐ座り心地の良い柔軟なシート。リアシートは、3つのシートがそれぞれ完全に独立しているんで、3人フル乗車の時も座りやすいです。
ハイドロ・サスの廃止で、昔ながらの濃い〜乗り味は薄れちゃいましたが、それでも、他の車に比べれば不思議なシトロエン風味が残されとります。「柔軟なあたりの良さに、硬質なストローク感をミックスした」って感じでしょうか。ハンドリングは素直で軽快、トルクフルなターボエンジンとの相乗効果もあって運転しやすいです。なにより、普通に街中を流しているだけで楽しくなります。
「家族のために使い勝手の良いミニバンに乗り換えたいが、所帯じみたのは嫌だし、今流行りのマイルドヤンキー系も苦手」とか、「おしゃれで個性的なミニバンが欲しい」なんて人にピッタリな車です。
中古車市場では
2018年式「シトロエン C4 ピカソ シャイン」で200万円台後半。2015年式「シトロエン C4 ピカソ エクスクルーシブ」なら100万円台後半(2019年2月現在)。
新車価格
3,641,000円(消費税込み)