今回の【試乗評価】は「新型 プジョー・RCZ GT Line LHD(MT)」。
2010年から2015年にかけて製造販売されていた、小型2ドア・スポーツ・クーペです。
2007年のフランクフルト・モーターショーでお披露目されたコンセプトカー「308 RCZ」が元ネタ。
その後モデル名から「308」だけが外され「プジョー・RCZ」として販売されました。最近のプジョーとしては珍しい、アルファベット表記によるモデル名です。
「初代 プジョー・308」のコンポーネントをベースに、スタイリッシュなクーペボディをコーディネイトしたデザインコンシャスなモデル。
基本レイアウトは「FF(フロントエンジン・フロントドライブ)」ですが、キャビン(居住空間)が前よりにレイアウトされ、リアデッキ(トランク上部パネル)も長いため、ミッドシップ・スーパースポーツに近いプロポーションを持ちます。
ぱっと見は「アウディTT」に似ているかなあ」とも思ったんですが、TTはこんなにキャビンが前傾してませんし、リアデッキも長くありません。あくまでもFFのスポーティカーといった趣です。
搭載されるパワートレーンも、「プジョー・308」と同じ。チューニングされた1.6リッターターボエンジンに、6速マニュアル・トランスミッションが組み合わされます。
この他に「右ハンドル仕様」もありますが、あちらは出力を156馬力に抑えたラグジュアリーなグレード。対するこの「左ハンドル仕様」は、同形式のエンジンを使いながらも200馬力を発生するスポーティグレードです。
ライバルは、同じ小型FFスポーツ・クーペの「アウディ・TT」。若干路線は異なりますが「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル」も、デザインコンシャスなクーペという意味では近いかもしれません。
2012年には、内外装の変更を伴うマイナーチェンジを実施。
※じっくりと読む時間の無い人は、文末の「【試乗評価】のまとめ」をどうぞ↓
「新型 プジョー・RCZ GT Line LHD(MT)」の外観
ボディサイズ、全長4295mmX全幅1845mmX全高1360mm。ホイールベース、2610mm。
フロント
独創的なスタイリングが目を引く「RCZ」ですが、フロントフェイスは意外にフツーな印象。「プジョー・308(初代)」などに近いライオン顔です。
サイド
ルーフにはふたつのコブが並んだようなデザイン「ダブル・バブル・ルーフ」や、Aピラー(一番前の柱)からルーフ、Cピラー(一番後ろの柱)が一体となって一本のアーチを形作る「アルミナムアーチ(アルミ製)」などを採用。個性的で楽しいデザインとなっています。
「ダブル・バブル・ルーフ」は、1950年代のザガートが使った手法で、小さなレーシングカーにヘルメットをかぶったまま乗るために工夫されたものです。つまりルーフの内側もコブに沿って凹んでいるわけですが、「RCZ」のルーフは格好良いスタイリングのためのためのものなので内側に凹みはありません。
1990年代に販売されていた「三菱GTO」には、リアタイヤの前にミッドシップエンジンのエアインテイクを模した飾りがついていました。カッコだけという意味では「RCZ」のコブと同じはずですが、GTOのダミーを馬鹿にする人はいてもRCZのコブを悪く言う人はいません。僕はどちらも格好いいと思うんですが、もう少し国産車にも優しい(というか公正な)評価をお願いしたいことろです。
リア
低くワイドに広がるリアエンドに、水滴型のリアコンビランプ。「ダブル・バブル・ルーフ」に合わせて大きく湾曲するリアウィンドウ。
リアウィンドウをここまで湾曲させるにはそれなりのコストが掛かるはずですが、それだけ「RCZ」がデザインを重視しているという証でしょう。
「2本出しエキゾースト・パイプ・フィニッシャー(クロムメッキ)」や、「アクティブリアスポイラー(車速に感応して2段階にせり上がる)」も装備。こういった装備は機能性もあるのですが、それよりも「付いているだけでなんだか嬉しい」とか、「特別感がある」といった効果の方が大きいかもしれませんね。
内装
※写真は「右ハンドル仕様」の内装。
しっとりとしたソフトバッドにピアノブラック調パネル、シルバーフィニッシャーを組み合わせたシンプルで清潔な室内。基本的なデザインはベースとなった「308」と共通です。
メーターナセルには、ゴージャスなシルバーモールドで縁取られた二眼メーター。中央には車輌情報などを表示するインフォメーションディスプレイ(オレンジ)が装備されます。
センタークラスター最上段には、時刻やガソリン残量などを表示するサブディスプレイ。その直下にはクラシックなアナログ時計を配置。中段には2DINサイズのオーディオスペース。下段にはエアコンを装備。ダイヤル式なので手探りでの操作もやりやすいです。
シフトノブは、先端に大きめのアルミを配置した使い勝手の良いデザイン。眺めているだけで触りたくなる不思議なデザインです。
Aピラーが太く傾斜も強いため、斜め前方の死角は大きめ。フロントノーズも見えにくいため、車両感覚は掴みづらいです。
全体のデザインはモダンなんですが、太めのメッキモールドと温かみのある液晶表示が組み合わされ、ちょっとだけクラシックな趣も感じさせます。
シート
分厚いクッションに上質なナッパレザーを組み合わせたセミバケットシート。外観と同様にシート形状も独創的ですが、意外に座り心地は良いです。まあ、腰の痛くなるプジョーっていうのも考えにくいので、このへんは安心できます。
リアシートは狭く、シート自体も平板で小ぶり。カタログ上は「2+2」ですが、実質的には二人乗りでしょう。子供を座らせるのも躊躇するレベル。リアシートは荷物置き場として使った方が無難でしょう。
荷室
底が浅く上下方向の余裕はありませんが、幅と奥行きがあるので積み方次第でかなりの荷物が積めます。カップルなら2泊3日旅行も余裕です。さらにリアシートの背もたれを倒せば、ステーションワゴンのような使い方もできます。
静粛性
アクセルを踏み込めば、抜けるような快音を響かせます。
エンジンとミッション
1598cc・直列4気筒DOHCターボエンジンに、6速MTが組み合わされます。
エンジン:最高出力200ps/5800rpm、最大トルク28.0kgf・m/1700rpm。
車両重量1350kg。JC08モード燃費、13.2km/l。
エンジン
1.6リッターのツインカムターボで、前輪を駆動(FF)。低速から分厚いトルクを発生してグイグイと加速。アクセル操作に対するレスポンスも素晴らしく、少しアクセルを踏み込むだけで必要なトルクがすぐに立ち上がります。
トルクの谷間や過剰な力強さの演出も無く、大排気量自然吸気エンジンのようなフィールです。高回転域まで引っ張れば、抜けるような快音を響かせます。
トランスミッション
6速マニュアルギアボックスを装備。ダイレクトでスムーズな変速フィール。変速時の手応えも素晴らしく、滑らかな感触が気持ちいいです。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションを装備。
フロント トルセンLSD 大パワーを効率よく路面に伝える 破綻させない
乗り心地
装着タイヤは、235/40R19。
右ハンドル仕様をベースに、スプリングとスタビライザーを強化。といってもガチガチに固められている訳ではなく、あくまでもしなやかな快適性を残します。僕は首や腰が痛くなりやすいので、これくらいの塩梅がちょうど良いです。
目地段差や橋脚ジョイントでは、路面からの衝撃を一発で収束。スッキリとした収まりの良さで、不快な後味を残しません。
ハンドリング
アグレッシブな外観とは裏腹に、しなやかなロール感を伴う自然なハンドリングです。操舵に対する反応も素直で、イメージしたラインを外しません。
リアの接地性も高く、コーナリング中も安定した姿勢を維持。コーナーの連続するワイディングでは、スイスイとミズスマシのように走り抜けます。
最小回転半径は5.4mと、標準的なレベル。
【試乗評価】のまとめ
「新型 プジョー RCZ GT Line LHD(MT)」は、「プジョー・308(初代)」をベースにスポーティで格好いいボディをかぶせたデザイン優先のスペシャリティカー。
快適性を重視した「右ハンドル仕様」に対して、「左ハンドル仕様」はちょっとだけスポーティな仕立て。「6速マニュアル・トランスミッション」や、200馬力を発生する「1.6リッターツインカムターボエンジン」。足回りには専用スプリングや、強化されたスタビライザーなどが装備されます。
ただし、「左ハンドル仕様」は交差点での右折待ちや、追い越しで前方の見通しが悪く、けっこう使いづらい一面もあります。高速道路ではETCゲートを使えば問題ありませんが、普段使う駐車場が左ハンドルに対応していない場合は面倒くさいです。
このあたりの選択は、あなたが何を重視して「RCZ」を購入するのかによります。「RCZの格好いいスタイリングは好きだけど、街乗りで不便を強いられるのは嫌だ。乗り心地も快適な方が良い」というなら「右ハンドル仕様」だし、「多少の不便があっても、スポーティな外観に見合ったスポーティなフィールも楽しみたい」というのなら「左ハンドル仕様」がオススメです。
僕なら、多少の不便を強いられてもスポーティな「左ハンドル仕様」を選びます。。。と言いたいところですが、最近は体調が悪いので快適な「右ハンドル仕様」かな。
中古車市場では
2015年式「プジョー・RCZ GT Line LHD(MT)」で300万円前後(2018年7月現在)。
新車価格
4,660,000円(消費税込み)