今回の【試乗評価】は「新型 トヨタ・スペイド G」。
2012年に登場した、コンパクトクラスのハイト系ワゴン(4ドア)です。
この車の魅力は、コンパクトカーならではの取り回しの良さとコストパフォーマンスの高さ、ミニバンならではの広い室内を両立しているところにあります。要は、日本市場で人気の高い車種の良いとこ取りをしているわけです。最近はこの手の車を称して「プチミニバン」とか「ミニミニバン」なんて呼んだりします。
「新型 トヨタ・スペイド G」の概要
メインターゲットは、30代~40代の子育て世代。同時に発売された「ポルテ(2代目)」とは兄弟車の関係で、基本的な構造を始めとして、グレード構成や装備内容、価格なんかも殆ど同じです。
といっても全部がまるっと同じというわけじゃありません。それぞれのイメージに合わせて、フロント周りを中心にちょっとだけ印象が変えてあるんです。ふわっとした優しい表情を持つ「ポルテ」に対して、「スペイド」は直線を基調にしたシャープなデザインになってます。
ちょっと前に生産終了した「ラオム」の後継車という役割もあって、ラオムと同じ「ネッツ店」や「カローラ店」で販売されます。対する兄弟車の「ポルテ」は「トヨタ店」と「トヨペット店」の扱いですから、そういう意味では「ヴォクシー」と「ノア」の関係とそっくりです。
最大の特徴は「大型スライドドア」
「スペイド」最大の特徴は、助手席側に装備された大きなスライドドアです。普通のミニバンなら助手席の横にヒンジドア、後部座席用にスライドドアとなるところですが、スペイドの助手席側にはこの大きなスライドドア1枚しかありません。要するに助手席に乗り込む人も、後席に乗り込む人も同じスライドドアを使うわけです。
そのおかげで助手席と後席の間に邪魔なピラー(柱)がありません。開口部が大きく、大きな荷物の積み下ろしがしやすいなあと思いました。ただし、後席に人が乗り込むには、フロントシートをスライドさせたり背もたれを倒したりしないといけないんで、その分、ちょっとだけ面倒ではあります。
これに対して運転席側のドアは、普通のヒンジ式ドア2枚の構成。路肩に停車したとき、運転席側は車道側になります。そういうわけで、後ろからドアの開け締めが確認しやすいヒンジ式の方が安全なんです。
まあ、もちろん、片側だけ1枚のスライドドアになっている一番の理由は、コストダウンです。ただし、使い勝手の良さとか安全性に関しても、限られた条件の中で上手いことやってるなあと感じました。
小さなボディに広々とした室内
その他の特徴としては、ボディが小さいわりに室内が広く使い勝手が良いってのがあります。なにしろ、スペイドの全幅は1.695m弱(5ナンバーサイズぎり)で、全長に関しては4mもありませんから(3.995m)。ただし、これに全高1.690mもあるハイトボディと四角いキャビンを組み合わせて、結構広々とした室内に仕立ててます。
運転を苦手とする人は大きく見切りの悪いボディを嫌いますが、スペイドならこんな人達でも運転しやすいと思います。しかも室内が広く使い勝手が良いんですから、まさにこれこそ「一粒で二度美味しい」ってやつです。
プラットフォームなど
基本となるプラットフォーム(車台)は、「ヴィッツ」や「アクア」、「シエンタ」なんかにも使われてるFFコンパクトカー専用「トヨタBプラットフォーム」です。
ライバルは
ライバルは、「スズキ・ソリオ」や「日産・キューブ」なんかのミニミニバンです。この中で「スペイド」には、「助手席側に大きなスライドドアが一枚だけ付く(運転手側は通常のヒンジドア二枚)」という特徴があります。これに対してライバルたちは、普通の5ドアハッチバックです。
マイナーチェンジ情報
2015年に一部改良を実施。1.3リッターモデルが廃止され、1.5リッターモデルのみとなりました。同時に特別仕様車「F”Queen”」が登場してます。
2017年に一部改良を実施。スマートエントリー&スタートシステム、盗難防止システム、電動格納ドアミラーをセットした「スマートエントリーパッケージ」を全車に標準装備。外装色として「フレッシュグリーンマイカメタリック」と「ブルーメタリック」を追加してます。
「トヨタ・スペイド G」の外観
ボディサイズ:全長3995mmX全幅1695mmX全高1690mm。ホイールベース:2600mm。
先代ラウムよりも全高が30mm近く低くなり、空力性能と安定性が向上。といっても床面が低いため室内の高さは十分、乗り降りもしやすいです。オーソドックスなハイト系ワゴンのフォルムと、使い勝手の良さを両立しています。
フロント
ふわっとした優しい表情を持つポルテに対して、スペイドのフロントフェイスは精悍そのもの。直線基調のグリルに、シャープなヘッドライトが男性的でカッコいいです。
実はこの二台の車、兄弟車という事もあって外観上の違いはフロント周りだけ。優しいラインで構成されたポルテがベースになっているため、スペイドのリア周りやサイドにも僅かに柔らかな印象が残ります。
サイド
サイドビューはベースとなったポルテとほとんど同じ。短いフロントノーズに、大きなボディ。鋭いキャラクターラインが深く刻まれ、どっしりとした重厚感を強調しています。
先代ラウムは、助手席側スライドドアと運転手側ヒンジドアにリアハッチを組み合わせた「3ドア・ハッチバック」。これに対して新型スペイドは、運転席側後部にもヒンジドアを追加した、左右非対称の「4ドア・ハッチバック」。一枚ドアが増えたことによって、後席へのアクセスがしやすくなっています。
リア
コンパクトなボディを最大限に活かして大きな室内を確保するため、必然的にリアエンドはスクウェア(四角)な形状。角型リアコンビランプが組み合わされ、力強い印象です。
兄弟車ポルテとの違いは、リアコンビランプ内のリフレクター(反射板)形状や、リアバンパー周りのディティールのみ。実はこのリアコンビランプ、よく見るとレンズの中に「♠」マークがあしらわれています。ちょっとした事ですが、デザイナーの遊び心が感じられて楽しい気持ちになりました。
「トヨタ・スペイド G」の内装
プラスチッキーな樹脂をそのまま組み合わせた、素材感あふれる簡素な室内。
センタークラスター最上段には、丸くコロンとしたフォルムのセンターメーター。その下にはナビゲーションモニターが設置され、重要な情報は視線をそれほど移動しなくてもしっかりと確認できます。エアコンは手探りでの操作も簡単な、ダイヤル式。シフトノブはインパネ中央にレイアウトされ、足元には広々とした空間が残ります。
ドアミラーがAピラー(一番前の柱)の根本から後にずらされているため、斜め前方の死角は最小限。ただし、助手席側には大きなスライドドアが装備されるため、この手法は使えません。ドライバーの目線に対してややサイドウィンドウ下端が高いため、小柄な人は下方向の死角が増える可能性があります。
新型スペイド最大の特徴は、なんといっても助手席側に設置された「大型電動スライドドア」でしょう。「狭い場所や路上での乗り降りがしやすい」とか「開口部が広いので大きか荷物の積み込みが楽」といったメリットがある反面、後席に乗るには助手席をたたむ必要があるので少々面倒です。
シート
フロントシートには、ストロークのたっぷりとしたクッションを装備。やや腰回りのホールド感が強いものの、肩まわりから腰、太ももの裏にかけて身体をしっかりと支えます。サイドサポートも適切で疲れにくい構造です。
助手席側スライドドアから後席にアクセスするには、助手席の背もたれを一度折りたたむ必要があります。背もたれの裏にはプラスチック製のトレーが設置されており、畳んだままで簡易テーブルとして使うことも出来ます。
リアシートはやや平板な形状ですが、サイズ感自体は十分。足元および頭上空間にも広大なスペースが確保され、大人二人で座っても窮屈感はありません。
荷室
荷室は前後長が短くミニマムな印象。といっても、高さ方向の余裕や深さがあるため、家族4人で1泊旅行くらいならなんとかなりそうです。
静粛性
重いボディに高回転型エンジンが組み合わされるため、アクセルを踏み込むとエンジンノイズを高めやすいです。
エンジンとミッション
1496cc・直列4気筒DOHCエンジンに、CVT(無段変速機)が組み合わされます。
エンジンは、最高出力109ps/6000rpm、最大トルク13.9kgf・m/4400rpmを発揮。
車両重量1170kg。JC08モード燃費、22.2km/l。
エンジン
1.5Lのツインカムエンジンで前輪を駆動(FF)。重いボディにやや高回転型のエンジンが組み合わされ、出足はややもっさりとした印象。といっても、CVTの制御が優れているため、低速域から中速域に掛けては必要十分のパワーを絞り出します。
高回転域まで回してやれば、さらに力強さを増してキビキビとした軽快な走りをみせます。アクセルを踏み込むとガサツなエンジンノイズを高めますが、巡航時は比較的静かでスムーズな走りに終始します。
全域でそれなりの粘り強さを発揮する、扱いやすいエンジンです。
トランスミッション
ベルトとプーリーによって無段階に変速するCVTを装備。高回転型エンジンの特性をしっかりと使い切って変速する賢いトランスミッション。普通に街中を流すだけなら、CVTならではの違和感も最小限です。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、175/65R15。
若干低められた全高に硬めのサスが組み合わされ、不快なロールも最小限に抑制。コーナーの続くワインディングでも安定した姿勢を保ちます。
低速域ではコツコツと路面の段差を拾いがちですが、速度を上げることによってしっとりとサスが動き出し、重厚感を伴ったしなやかな乗り味となります。高速域での安定感も高く、比較的安定した姿勢でまっすぐに直進。わだちにハンドルを取られて進路を乱すことも少ないです。
ハンドリング
背の高いハイト系ワゴンとしては違和感の少ない自然なハンドリング。適度な重厚感を伴って、ドライバーの意図したラインを素直に描きます。
リアの接地性が高いため、コーナリング中も姿勢を乱しにくい。ハンドリングとのバランスが良く、うねりのあるコーナーでも安心して走ることができます。
最小回転半径は5.0mと小さめ。狭い路地での切り返しも簡単です。
その他
先進安全技術は「Toyota Safety Sense C」を搭載。
このパッケージには予防安全技術として、衝突を予測して回避もしくは被害軽減をはかる「プリクラッシュセーフティシステム」や、車線からのはみ出しを検知してドライバーに注意を促す「レーンディパーチャーアラート」といった機能を。
運転支援技術として、自動的にハイビームを切り替える「オートマチックハイビーム」や、先行車の発進をお知らせする「先行車発進告知機能」などを装備しています。
【試乗評価】のまとめ
「トヨタ・スペイド G」は、今流行りのコンパクトなハイト系ワゴンに、特徴的な「片側電動スライドドア」を装備した4ドア・ハッチバック。
「片側スライドドア」という特殊なレイアウトを実現するため、助手席側を中心に念入りなボディ補強を実施。コンパクトカーとしては非常に重い車重となってしまいました。
といっても、ボディが不安定になることはありません。引き締まったサスセッティングと重い車重によって、かえってバイブレーションの少ない重厚感あふれるしっとりとした乗り味をもたらしています。
パワートレーンも13.Lが落とされ1.5Lのみに統一。良く出来たトランスミッションと相まって、必要十分な力強さを備えました。
左側スライドドアから後席へのアクセスが少々面倒ですが、使い方を工夫することによってそれ以上の利便性を発揮します。
「広々感のある車を探しているが、ミニバンでは大きすぎて取り回しに不安がある」とか、「子どもの送り迎えにピッタリなコンパクトカーを探している」といった人に最適なコンパクトカーです。
中古車市場では
2017年式「トヨタ・スペイド G」で170万円前後。2013年式で100万円前後(2018年5月現在)。
価格
価格 | 1,977,480円(消費税込み)