そもそも初期のガソリンには、現在のガソリンと同じく、鉛は添加されていませんでした。
これが添加されるようになったのは、1921年にアメリカのGMの技術者により、「鉛を添加するとエンジンのアンチノック性能が向上する」という事が発見されたからです。
またこの添加された鉛は、バルブシートの摩耗を防ぐ潤滑剤としても機能する事が分かり、便利な添加剤として広く普及していきます。
これ以降、ほとんどのレシプロエンジン用のガソリンには、アンチノック性能向上のために鉛が添加されるようになったのです。
鉛の添加されたガソリンが燃焼すると、大気中に有害な鉛が放出され、人体に害を与えます。
また、鉛の添加されたガソリンは、エンジンの触媒の機能も低下させます。
しかし当時は、有鉛ガソリンのこういった情報は知られていませんでした。
アメリカで施行されたマスキー法
その後1960年代に入ると、アメリカでは大気汚染が徐々に社会問題化していきます。
自動車の排気ガスも、この問題の大きな原因だと考えられ始め、1966年には大気汚染の規制法が施行されます。
さらに、1970年にはこの規制法が大幅に強化され、新たな法律として施行される事になりました。
これが有名な通称「マスキー法」と呼ばれる法律です。
日本国内でも対汚染が深刻化
1960年代の日本国内では、大気汚染問題はまだ一部の工業地帯だけの問題でした。
しかし、その後1970年に鉛中毒事件が起きると、マスコミが大々的に報道をはじめ、日本国内でも大きな社会問題となりました。
まず、1975年にレギュラーガソリンに対する無鉛化の規制が施行され、その後1987年にはハイオクガソリンも無鉛化の規制が施行されました。
ガソリン小売り業者はこれに対応して、鉛にかわる含酸素系添加剤という添加剤を開発して、ガソリンに添加するようになります。
ガソリンの無鉛化
鉛の仕様が法律で規制されるようになると、自動車メーカーの側でも対応が求められるようになります。
新しく添加される「含酸素系添加剤」はガソリンのオクタン価をコントロールする為のものです。
そのため無鉛ガソリンを使うと、今までバルブシートの潤滑をしていた鉛が無くなり、バルブシートが摩耗してしまいます。
バルブシートが摩耗すると、頻繁にバルブクリアランスの調整をしなければならず、現実的ではありません。
その問題に最初に対応したのが、当時弱小メーカーだったホンダです。
高熱に耐える特殊な耐熱金属を使ってエンジンを開発し、1971年に発売した「ライフ」に搭載しました。
当時のホンダは2輪メーカーから、4輪メーカーへと転換を計っていた事もあり、先進的な技術を他社に先んじて開発することで、躍進のきっかけにしたいという思いがありました。