今回の【試乗評価】は「BMW 320i M Sport(F30・6代目)」。2011年から2019年にかけて製造販売されていた、Mクラスの4ドアセダンです。この他に5ドアハッチバックの「グランツーリスモ」と、ステーションワゴンの「ツーリング」があります。かつて「3シリーズ」にはスタイリッシュな「2ドアクーペ」もありましたが、今は「4シリーズクーペ」として完全な独立モデルになってます。
このクラスの中では「メルセデスベンツ・Cクラス」と並んで直球ど真ん中の王道モデル。ミドルサイズのボディに大人4人がしっかりと座れて、荷物もそこそこ積める。しかもスポーティな走りまで楽しめるんですから言うことありません。
初代3シリーズが出た時は今よりボディサイズが小さく、BMWのボトムラインを支えるエントリーモデルという立ち位置でした。ただし、その後により小さな「1シリーズ」や「2シリーズ」が発売され、同時に「3シリーズ」自体もちょっとずつ大きくなったんで、今では立派な中堅モデルって感じです。販売量、利益ともに大きく、経営の面から見ても超重要なモデルになりました。
しかもライバルは同じドイツ製プレミアムカーの「メルセデスベンツ・Cクラス」とか「アウディ・A4」などの強豪が勢揃い。こんな状況で手抜きはできませんから、BMWの技術と資源をたっぷりと注ぎ込んで渾身の車作りが行われてます。
「BMW 320i M Sport(F30・6代目)」の概要
初代「3シリーズ」は、キビキビとしたハンドリングと吹け上がりの良いエンジン、スポーティな外観を持った2ドアセダンでした。その半面、後席や荷室が狭いというデメリットもあったんですが。まあ、このあたりは魅力との「行って来い」なんで、それほど大きな問題じゃないです。
ただ、顧客からの要望としてメーカーには伝わっていたようで、その後、3シリーズはモデルチェンジの度に拡大されていきます。それに伴って、ホイールベース(前輪と後輪の間の距離)やトレッド(右輪と左輪の間の距離)も広がって、走りの安定性も随分高まりました。
当然ですが、安定性が高まれば、それと反比例して「軽快感」は薄まっちゃいます。最近はライバルたちもスポーティ路線に舵を切っているんで、相対的にBMWとの差は縮小気味です。
こういうのは自動車の進化としては正しいんでしょうが、少々寂しいもんがありますねえ。それでも、差が小さくなったというだけで、今でも一番スポーティなのは「3シリーズ」だと思います。
プラットフォームなど
基本となるプラットフォーム(車台)は、先代のアーキテクチャーをストレッチして流用。スチールモノコックフレームに、前輪、ダブルジョイントストラット式サス、後輪、5リンクサスが組み合わされてます。
BMWの伝統である優れた前後重量配分「50:50」をしっかりと踏襲しつつ、ホイールベースを50mm拡大。同時に、40kgの軽量化も実現したんです。
ライバルは
ライバルは、「メルセデスベンツ・Cクラス」や、「アウディ・A4」なんかのドイツ製プレミアム・4ドアセダンたち。
マイナーチェンジ情報
2015年にマイナーチェンジを実施。LEDヘッドライトやLEDフォグ、リアコンビランプ、フロントバンパーなどのデザインが変更されましたが、パッと見て分かるほどの大きな違いはありません。
その他には、センタークラスターにあるパネルの仕上げ変更(ブラックハイグロス処理)。新世代モジュラーエンジンの導入。ダンパーなど足回りの見直し。先進安全技術のアップデートなんかも行われました。それから、新たに「3リッター直列6気筒ターボ」を導入、新グレード「340i」として追加されてます。
外観
ボディサイズ、全長4645mmX全幅1800mmX全高1430mm。ホイールベース、2810mm。
日本の狭い立体駐車場にも入れるように、ドアノブを工夫して全幅を1800mmギリギリに抑えてます。これは日本仕様だけの特別な数値で、欧州向け標準モデルは1811mmと若干大きめ。つまり11mm狭くなっているわけです。
これは「BMW」が日本市場を大切に考えているってことの「現れ」なんですが、今後、日本市場が縮小していけば、こういう特別扱いもどうなるか分かりません。
フロント
低く身構えたフロントノーズと、シャープなLEDヘッドライトの組み合わせ。キドニーグリルを横に伸ばして、シャープなヘッドライトと繋げたことによって、キリッとした精悍さが強調されてる感じです。3シリーズにふさわしい「スポーティなフロントフェイス」といったところでしょうか。
サイド
ロングノーズ(長い鼻先)、ビッグキャビン(大きな居住スペース)、ショートデッキ(短いトランク)を持った美しいFRルック。
足元に、18インチ大径アロイホイールがはまって、全体をギュッと引き締めてます。しかも、前輪からボディ先端までの距離が極端に短い(ショート・フロント・オーバーハング)ので、人間で言うところの「八頭身美人」になってるんです。ほんとう惚れ惚れしちゃいます。
リア
ハイデッキ化されたリアエンドと、むっちり、ガッチリしたヒップライン。上級モデルの5シリーズを彷彿とさせる、存在感のあるリアコンビランプも付いてます。力強さと上質感、それから、BMWらしいスポーティな感じもあります。
「M Sport」グレードはカッコいい!
3シリーズ・セダンは、ベーシックなグレードでも十分にかっこいいんですが、「M Sport」グレードを選択することで、スポーティな専用エアロや18インチ大径アロイホイール、車高の低くなるスポーツサスなんかが装備され、さらに精悍に、もっとかっこよくなります。なもんで、予算に余裕があって多少乗り心地が硬くなても良いなら、「M Sport」グレードがおすすめです。
4シリーズ・グランクーペと比べると
20代くらいの時は、エレガントでカッコいい「3シリーズ・クーペ」が好きだったんですが、最近はなぜか「3シリーズ・セダン」のほうが気になります。エレガントな美しさと、セダンの機能性が上手く両立しているところが「ツボ」なんです。
今回の6代目「3シリーズ・セダン」には、クーペのカッコよさをセダンに持ち込んだ「4シリーズ・グランクーペ」という兄弟車もあります。
こいつは、4ドア・クーペ(実際は5ドア・ハッチバック)でありながら、屋根が低くてクーペみたいなシルエットを持ってます。ということで確かにカッコいいんですが、セダン好きとしてはどうしてもどっちつかずな感じがいなめません。これなら、ある程度の機能性を割り切ってカッコよさに振った「4シリーズ・クーペ」か、実用性とカッコよさの塩梅が絶妙な「3シリーズ・セダン」の方がスッキリして良いです。
といっても、「2ドアクーペに乗りたいけど、家族を乗せることも多いからなあ」なんて人もいるんで、勝手なことを言っちゃあいけませんね。
内装
ガッシリとした質感の樹脂に木目調加飾パネル、清潔感のあるメタリックパーツが組み合わされたスポーティな室内。
MSportを選べばアルカンターラシートとなりますので、いくらか質感が上がります。それでも不満な場合は、オプションの本革シートを注文してください。さらに大人っぽい雰囲気となります。アウディA4やメルセデスベンツCクラスの室内を見慣れると、「もう一工夫欲しい」というのが正直なところです。
メーターナセルには、精密なグラフィックで表現された二眼メーターを装備。まさに精密機械のための計器といった印象で、かえってワクワク感を感じます。
センターコンソール最上段には、フローティングタイプの「ワイド液晶ディスプレイ」。目線の移動が少なく、疲労軽減効果が期待できます。その直下には、エアコン吹き出し口。エアコンは手探りでの操作も可能なダイヤル式。
シート
フロントシートは包まれ感の強いスポーティな形状。着座位置が低いため、ミニバンやコンパクトカーに乗り慣れた人には嫌がられるかもしれません。柔軟な表皮にコシのあるクッションが組み合わされ、身体が少し沈んだところでがっちりと支えます。長時間ドライブでも疲れを溜めにくい快適なシートです。
リアシートはややクッションが薄くなるものの、表皮には十分な柔軟性があります。適正な姿勢を保って座れば、長距離でも疲れにくいです。ただし、少しお尻が落ち込みやすいため、気になる人はディーラーでの事前確認をオススメします。
モデルチェンジを重ねる毎にホイールベースが延長され、それに合わせて後席空間もドンドン広くなっています。足下、頭上空間ともに広々とした余裕があり、大人二人で座っても窮屈感はありません。
静粛性
たっぷりと遮音材と吸音材が施され、高級プレミアムセダンにふさわしい静粛性を実現。
荷室
トランクスペースは、Mクラスセダンとして標準的なレベル。4人家族であれば、2泊3日旅行も可能です。
エンジンとミッション
1998cc直列4気筒DOHCターボエンジンに、8速ATが組み合わされます。
最高出力184ps/5000rpm、最大トルク29.6kgf・m/1350-4250rpmを発揮。
車輌重量、1560kg。JC08モード燃費、15.4km/l。
エンジン
2.0リッター・ツインカムターボで後輪を駆動(FR)。低速からぶ厚いトルクを発生するパワフルなエンジン。出足もスムーズで軽快、1.5tあまりのボディを滑るように押し出します。
最新型といってもしょせんは4気筒エンジン。BMW伝家の宝刀「シルキー6」のようになめらかで上質なフィールはありません。といっても、それは6気筒エンジンと比較した場合。ダウンサイジングターボを使って低速域からフラットなトルクを発生する、スポーティなエンジンに仕上がっています。
中高速域では必要十分以上のパワーを発揮。市街地など日常領域で使用するなら、パワーと燃費性能のバランスしたこの2.0Lエンジンで不足はありません。
アイドリングは、若干バイブレーションとノイズを高めますが、一旦走り出してしまえばノイズの少ないスムーズなエンジンです。
320iよりもさらに強力な低速トルクが欲しい場合は、ディーゼルエンジンを搭載した320dがオススメ。アイドリング時はこの320i以上のノイズとバイブレーションを発生しますが、速度を上げるにしたがってスムーズで上質なフィールを取り戻します。
トランスミッション
トルコン式の8速ATを装備。トルクフルなエンジンを活かして、スムーズかつダイレクトな変速を行います。早め早めの変速でエンジン回転を高めにくいため、バイブレーションやノイズも少ないです。
3シリーズセダンにはこの他にマニュアルトランスミッションの設定もあります。短期的なビジネスを考えるなら一見無駄な装備ですが、BMWは「駆け抜ける喜び」を表現するためあえてこの設定を残しています。走りを楽しみたいと考えている人にこそ、積極的に薦めたいトランスミッションです。
乗り心地とハンドリング
前輪にダブルジョイントストラット式サスペンション、後輪には5リンク式サスペンションが装備されます。
乗り心地
適度に引き締まったスポーティな乗り味。よく動くサスによって、しっとりとした上質感も表現されています。
目地段差や橋脚ジョイントではコツコツと路面の衝撃を拾いがちですが、がっしりとしたボディと高性能なスポーツサスによって、不快な衝撃はしっかりと遮断。硬いランフラットタイヤを装着しているとは思えないしなやかさがあります。
ハンドリング
FRらしい素直で自然なハンドリング。操舵フィールにはプレミアムカーにふさわしい重厚感や滑らかさがあります。古い3シリーズ(E36)のような軽快感は薄まりましたが、大味で退屈なんて事は無く、乗り心地とハンドリングが高次元でバランスしています。
僅かな操舵にも正確に反応して、狙ったラインを外しにくい。リアの接地性が高いためコーナリング中も安定感が高く、安心してドライブを楽しむことができます。
その他
先進安全技術には、予防安全技術として「衝突回避・被害軽減ブレーキ」や車線逸脱を検知してドライバーに注意を促す「レーン・ディパーチャー・ウォーニング(車線逸脱警告システム)」、「前車接近警告機能(自動ブレーキ付き)」といった技術を。
運転支援技術として前車との距離を一定に保って低速で追従する「アクティブ・クルーズ・コントロール(ストップ&ゴー機能付き)」や、斜め後の死角から接近してくる車を検知して、車線変更時に注意を促す「レーン・チェンジ・ウォーニング(車線維持機能付き)」、「アクティブLEDヘッドライト」といった技術を装備しています。
その他には、「SOSコール」及び「BMWテレサービス」などの通信サービスも便利。
その中でも「BMWテレサービス」は、ブレーキパッドやエンジンオイル、バッテリーなど定期的な交換を必要とするパーツの消耗具合を車が自動的に検知して、正規ディーラーへ情報を送信。スムーズで確実なメンテナンスをサポートする近未来的なサービスです。
試乗評価のまとめ
「新型 BMW 320i M Sport」は、FRならではの素直で自然なハンドリグ。適度に引き締まった上質な乗り心地。トルキーなツインカムターボを持つプレミアム・スポーティセダン。
合理性に裏打ちされた美しいボディと、プレミアムカーでありながら「量販グレードからマニュアルトランスミッションが選べる」というのも大きな魅力です。
走行性能と乗り心地のバランスも素晴らしく、FRならではのスポーティなハンドリングはライバルたちを寄せ付けません。
もちろん、各自動車メーカーによってそれぞれ味付けの方向性が違うので、どれが優れているというものではありませんが、その中でこの3シリーズ・セダンには走りの楽しさに特化した大きな魅力があります。
内装についてはアウディとメルセデスベンツの質感向上が目覚ましく、この3シリーズは一歩遅れをとっている感がいなめません。
しかし、BMWは「駆け抜ける喜び」をテーマに掲げるスポーティなメーカー。小さな欠点を潰すよりも、官能的なエンジンと走行性能を磨き上げ、さらに魅力を高めていくという方向性は間違っていません。
中古車市場では
「BMW 320i M Sport」の場合、2017年式で、300万円台後半。マイナーチェンジ前の2014年式で、250万円前後となります(2018年4月現在)。
新車価格
5,660,000円(税込み)
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