1997年に発売された初代「日産・エルグランド」は、それまでの常識を打ち破るモダンで上質な高級ミニバンとして颯爽と登場。バブル崩壊以降の不景気をふっとばす大ヒット作となってます。
このブームに触発されたトヨタは「お!これは思わぬ所に美味しい市場がありましたよ」とばかりに、エスティマをベースにした「アルファード」を開発。またたく間にエルグランドのシェアを奪って、今ではこのクラスでナンバーワンに成長しちゃいました。
因縁浅からぬ関係の二車ですが、今でもガチンコのライバル同士なのは変わりません。かつてはホンダからも「ホンダ・エリシオン」というLLクラスの高級ミニバンが出てましたが、ひとクラス下の「ホンダ・オデッセイ」と統合され実質的に半クラス下くらいに移行してます。
ということで、「トヨタ・アルファード」と「日産・エルグランド」を比較検討して購入に至る人は多いです。今回はそんな人たちに向けて、「トヨタ・アルファード」と「日産・エルグランド」の徹底比較をしていきます。
「トヨタ・アルファード」と「日産・エルグランド」の違い
「トヨタ・アルファード」と「日産・エルグランド」は、どちらも日本市場をメインターゲットにしたLLクラスの高級ミニバンです。後輪駆動から出発して、現在は乗り心地や室内空間を重視した前輪駆動となっている点も変わりません。
似たような成り立ちを持つ二車ですが、実際に乗ってみると車の基本となる設計コンセプトとかキャラクターといった部分は結構違ってます。
「トヨタ・アルファード」は、全高の高さやド派手なフロントマスクを活かした「押し出し感のあるスタイリング」と、広々とした室内が大きな特徴です。
これに対して「日産・エルグランド」は、「低床プラットフォーム」を活かした操縦安定性や乗り心地の良さ、走りの楽しさといったのが魅力になってます。
人気は「トヨタ・アルファード」の方が圧倒的ですが、「日産・エルグランド」は車好きに人気があります。という僕も、初代のころから「走りの楽しい高級ミニバン」というイメージで「エルグランド」の方が好きでした。
スタイリングの違い
ボディサイズをベーシックグレード同士で比べてみると、「トヨタ・アルファード 2.5X」が、全長4,945mmx全幅1,850mmx全高1,935mm。ホイールベース3,000mm。車両重量1,920kg。「日産・エルグランド 250XG」が、全長4,915mmx全幅1,850mmx全高1,805mm。ホイールベース3,000mm。車両重量1,920kg。
エルグランドの方が、全長が30mm短く、全高は130mm低い、全幅は全く同じです。ということで「日産・エルグランド」の方が、ロー&ワイドでスポーティな感じがします。これに対して「トヨタ・アルファード」は、全高の高さを活かした迫力ある外観になってます。俗に言う「押し出し感が強い」ってやつですね。
フロント周り
アルファードのフロント
エルグランドより高い全高にド派手なフロントグリル。こんな車がルームミラーに映ったら、思わず道を譲っちゃいます。最近では「マイルドヤンキー系」なんて言われ方もしますが、逆におとなしい人こそ、こういった車に乗った方がいいです。なんといっても、他の車が勝手に道を譲ってくれますからね。
エルグランドのフロント
低めのルーフに丹精なお顔が組み合わされて、アルファードに比べればおとなしい感じです。といってもエルグランドのグリルも結構大きめです。グリルに入れられた格子が水平で薄いので、あんまり派手は感じがしないんでしょうねえ。
サイドビュー
アルファードのサイド
Aピラー(一番前の柱)の根本がボディ先端ギリギリから伸びているんで、ノーズ(鼻先)とキャビン(居住スペース)が一体に見える「ワンモーションフォルム」になってます。そのせいでミニバンとしては生活感は希薄で、ゴージャスで近未来的な感じです。
エルグランドのサイド
エルグランドのサイドビューは、アルファードと違ってノーズとキャビンの形がハッキリと別れてます。オデッセイほどじゃ無いけど、ノーズが長いんでステーションワゴン的な趣もあります。上質さとか重厚感を感じさせながら、しっかりとスポーティな感じも表現してます。
リア周り
アルファードのリア
巨大で四角いリアエンドに、分厚いS字型リアコンビランプ。これまた分厚いシルバーメッキガーニッシュがコッテリと盛り付けられて、かなり力強いリアエンドになってます。
エルグランドのリア
これに対してエルグランドは、やっぱりちょっとおとなしめ。というか上品です。低いルーフに絞り込まれたキャビン。水平なラインで一体化された、リアコンビランプ(クリアレンズ)などなど。設計コンセプトをじわっと感じさせる、上品でスポーティな仕上がりです。
インテリアを比較
全体の印象は
アルファード
アルファードの内装は、外観と違って意外にオーソドックス。直線を基調にしたガッチリ系のデザインです。といっても素材には厳選されたパーツが使われてるんで、全体としてはゴージャスな上質感があります。
エルグランドより目線が高くボディが角ばっているので、車両感覚がつかみやすいです。その反面、乗り降りは若干やり辛いですが、問題になるレベルじゃありません。こういうのは体格にもよるんで、気になる方はディーラーで直接確認してください。
エルグランド
エルグランドの内装は、なだらかな曲線を多用した有機的なデザイン。上質なインパネに木目調パネルを組み合わせてるんで、高級感はかなりのもんです。スカイラインやフーガなど、インフィニティ系の内装デザインともよく似てます。何よりも面白いのは、直線基調のアルファードと全く逆のイメージになっているところです。
エルグランドのシートポジションは、低床プラットフォームの影響でちょっと低め(ミニバンとしては)。乗り降りがしやすく、運転間隔もセダンに違いです。反面、インパネの上端やショルダーライン(サイドウィンドウ下端)が高いんで、ちょっと周囲は確認しにくいです。Aピラー根本の三角窓(斜め前方の死角を減らす効果がある)が小さく、ノーズ(鼻先)もアルファードよりは長いんで、取り回しはアルファードの方が楽です。まあ、慣れれば問題無いレベルですが。
シート
アルファード
一部上級グレードの助手席には、「オットマン(足枕)」と「ロングスライド機構」が付いてます。背もたれを少し倒せば、ちょっとしたビジネスクラスみたいです。フロント、セカンドともにたっぷりとしたシートが付きますが、どちらかといえば揺れと振動の少ないフロントの方が快適です。
アルファードのセカンドシートには、左右に独立したキャプテンシートと3人座りのベンチシートがあります。キャプテンシートはオットマン付きで、最上級グレードになるとシートサイズも若干大きくなります。シートの柔軟性なら普通のキャプテンシートの方が上なので、体重の重い人はあえて普通のキャプテンシートを選んだ方が良いかもしれません。これについては、自分でディーラーに出向いて直接確認してください(微妙な座り心地は人によるんで)。
サードシートは、Mクラスミニバンのような緊急用じゃなくて、十分実用に耐えるサイズ感があります。先代よりもストロークが増していて快適です。もちろん、フロントやセカンドシートよりは落ちますが。
エルグランド
低床プラットフォームのおかげでフロア(床)が低く、セダンよりは座面が高いんで、乗り降りがしやすいです。
フロントシートの表面には適度な柔軟性があって、芯には適度なコシがあります。程よい硬さで身体をしっかりとささえつつ、疲れをためにくいです。助手席にはオットマン(足枕)も装備されるんで、リラックスした姿勢でのんびりドライブできます。アルファードのような「ロングスライド機構」はありませんが、座り心地は快適です。
セカンドシートは、フロアと座面が近いんで、足を立て気味に座ると若干ひざ裏が浮き上がります。といっても、セカンドシートは足を前に投げ出して(オットマンもあるし)乗る場合が多いので、そんなに気になりません。
サードシートは、緊急用じゃなくて普通に常用できるシートです。シートクッションはフロントやセカンドシートのような「3層構造」じゃありませが、必要十分な柔軟性はあります。ただし、セカンドシート以上にフロアと座面が近いんで、ピシッとした姿勢で座るとひざ裏がシートから浮かびあがります。
荷室
アルファード
サードシートを出していると荷室は小さくなりますが、高さ方向に余裕があるのとサードシートの下にもそれなりの空間があるんで、積み方を工夫するだけで結構な荷物が積めます。もちろん、サードシートを使わない時は折りたたんで左右に跳ね上げれば、巨大な荷室スペースになります。床下収納もあって、使いやすいと思いました。
エルグランド
サードシートを一番後まで下げると、荷室が小さくなるのはアルファードと同じです。マイナーチェンジで荷室の床が下がったので、前より多くの荷物が積めます。
アルファードと違って、サードシートは前に倒して折りたたむタイプですが、左右の壁にシートが無いんでスッキリしてます。その分、室内高は低くなるので、高さはそこそこで横に拡がる荷物にはエルグランドの方が良いです。逆に高さがある荷物はアルファードの方が向いてます。
動力性能を比較
パワーユニットのバリエーションは、アルファードが「2.5リッター直列4気筒エンジン」と「3.5リッターV6エンジン」、「ハイブリッド」の3種。
エルグランドは「2.5リッター直列4気筒エンジン」と「3.5リッターV6エンジン」の2種。エルグランドに「ハイブリッド」はありません。
この中で、2.5リッターエンジン同士を比較すると、
アルファード
アルファードの2.5リッターエンジンは、最高出力:182ps/6000rpm。最大トルク:24.0kgm/4100rpm。トランスミッション:8速AT。というスペック。
車重が2t弱(2.5Xで1920kg)もあるのに、低速では意外にトルクがあって乗りやすいです。このあたりは8速ATの絶妙なセッティングも効いてます。エンジンのおいしいところを使いながら、ポンポンとリズミカルに変速していきます。といっても、流石に急な上り坂や高速からの追い越しでは、多少ノイズを高めちゃいますけど。
エルグランド
これに対してエルグランドは、最高出力:170ps/5600rpm。最大トルク:25.0kgm/3900rpm。トランスミッション:CVT(6速マニュアルモード付き)。
車重はアルファードより10kg軽い1910kg(250XG)。さらに最大トルクがアルファードより1.0kgm大きくて、最大トルクの発生回転数も低いんで結構扱いやすいです。高回転まで回すとノイジーなのはアルファードと同じですが、トルクのおかげでそこまで回す機会はほとんどありません。
CVTを使って燃費を限界まで高めるとCVT独特の変なクセが出やすいんですが、エルグランドは大丈夫です。アクセルを踏む量に合わせて、車速も自然に上昇していくようになってます。
ハンドリングを比較
アルファード
アルファードの足回りは、フロント:マクファーソン・ストラット式サス。リア:ダブルウィッシュボーン式サスの構成。
エルグランドと比べると穏やかなハンドリングで、操舵に対する反応は素直です。柔らかい足回りと背の高さのせいもあって、コーナーではボディを傾けやすいんですが、姿勢変化が穏やかで一定なので、「おっとっと」なんて肝を冷やすことはありません。「走りが楽しい」ってほどじゃないけど、動き自体が自然なんで疲れにくいです。
エルグランド
エルグランドの足回りは、フロント:マクファーソン・ストラット式サス(アルミ製リンク)。リア:マルチリンク式サス(バウンドスプリング内蔵ショック)の構成。
エルグランドはアルファードより車高が低く、2.5リッターは鼻先も軽いんで、セダンに近い感覚で運転できます。リアの接地性とのバランスも良くて、操舵に合わせて自然にノーズが向きを変えます。ステアリングに対する反応がリニアなんで、狙ったラインを外しにくいです。
コーナリング中の傾きが少なく、姿勢変化も穏やか。タイヤがしっかりと路面を捉え続けるんで、安心してアクセルをステアリングを握れます。LLクラスのミニバンにしてはキビキビとした走りなんで、運転が楽しいです。
乗り心地を比較
アルファード
アルファードの足回りは、ストロークが大きくソフトな乗り心地です(2.5X)。といっても古いクラウンのようなフカフカ系じゃなくて、しっかりとした芯があります。これに対して18インチタイヤを装着する上級グレードは、しなやかな中にも重厚感がある乗り味です。
目地段差やギャップを通過すると、サスがしなやかにストロークして小さな衝撃を柔軟に吸収。乗員に鋭い衝撃を伝えません。
高速域での安定性も高く、ビシッとした姿勢で真っ直ぐに進みます。ステアリングに軽く手を添えておけばいいんで、ロングドライブも疲れないです。快適すぎて眠くなりやすいんで、1時間ごとに休憩は必須ですね。
エルグランド
アルファードの足回りは、適度に引き締まったスポーティな乗り味。低速では多少硬さを感じますが、速度を上げるとゴツゴツとした感じが取れてスムーズになります。動きも安定してフラットさを増すんで、長距離ドライブでも疲れにくいです。
18インチタイヤを装着する上級グレードはもう少し硬い感じですが、不快なレベルじゃありません。目地段差では小さな衝撃を上手に吸収して、しなやかに走ります。
車高の低さは高速安定性にも効いていて、多少の轍なんてものともせずにズバーっと突き進みます。車の動きが安定しているので、高速でのレーンチェンジも安心なんです。
エルグランドは車内の広さや荷室の広さより、走りや快適性を重視した設計で、快適な走りの中にも運転する楽しさがあると思いました。
これに対してアルファードは、見た目の威圧感や積載性、快適な乗り心地を追求しています。このあたりが二車を選ぶ時の「肝」です。しっかりと頭に入っていれば、「どちらにしたらいいのかな?」なんて悩むことは無いでしょう。