「トヨタ・プリウス」と「ホンダ・インサイト」は、どちらも日本を代表するハイブリッド専用車です。
今でこそハイブリッドカーといえば、軽自動車から高級車まで幅広くラインナップされる定番商品ですが、この両者が出始めの頃(1990年代後半)はこれ以外に選択肢が無く、そういった意味でも特別な車でした。
当時からライバル関係とみなされることが多いこの2車種ですが、厳密に車格やカテゴリーを比較すると、必ずしもガチンコのライバルとはいえない部分もあります。
というのも、「プリウス」は小型(ローミディアム)の「4ドアセダン(初代・1997年)」として登場し、その後、2代目(2003年)から現行の4代目(2015年)までは「5ドアハッチバック」を継続しているのに対して、インサイトはコンパクトな「2ドアクーペ(初代・1999年)」から始まって、フィットクラスの「5ドアハッチバック(2代目・2009年)」、現行型となるアッパーミドルクラスの「4ドアセダン(3代目・2018年)」へと頻繁にボディ形式と車格を変えてるからです。
ただし、プリウスの3代目とインサイトの2代目は、どちらもワンモーションフォルムの5ドアハッチバックだったため(車格は違うけど)、代替わりした今でも近いイメージがあります。
そんなこともあってハイブリッド専用車の購入を考えている人の中には、この2車種で迷っている人も多いでしょう。今回はそんな人に向けて、「プリウス」と「インサイト」の違いをそれぞれのメリット、デメリットをあげながら詳しく解説していきたいと思います。
「トヨタ・プリウス」と「ホンダ・インサイト」の違いで目立つのは「車格」と「ボディ形式」、「ハイブリッドシステム」
「トヨタ・プリウス」と「ホンダ・インサイト」の違いで目立つのは「車格」と「ボディ形式」、その他に「ハイブリッドシステム」自体の違いも大きいです。
「車格」の違いを比較
「車格」は「クラス」とも呼ばれますが、「トヨタ・プリウス」が「Cセグメント(ローミディアム)」に分類されるのに対して、「ホンダ・インサイト」はそれよりひとクラス上の「Dセグメント(アッパーミドル)」と呼ばれるクラスです。
車格がひとクラス上がれば、基本的にボディサイズも大きくなります。
ということで「プリウス」のボディサイズが、全長4,540mmX全幅1,760mmX全高1,470mm(ホイールベース2,700mm)なのに対して、「インサイト」は、全長4,675mmX全幅1,820mmX全高1,410mm(ホイールベース2,700mm)。
もちろん、より上位となるクラスの方が車の作り込みも丁寧だし、一台ごとに掛けられるコストも多いです。実際にインサイトの方が外観の上質感や内装の作り込み、走りの質感や動力性能などすべての面でプリウスを上回ってます。ただし、それにともなって価格もインサイトの方が高くなっちゃいますけど。
先代インサイト(2代目)は「プリウスよりも車格が下で価格も安い」という安売り戦略で一度大失敗してます。今回はそのあたりを考慮してひとクラス上の車としたんでしょうねえ。
「ボディ形式」の違いを比較
プリウスのボディ形式は「5ドアハッチバック」ですが、インサイトはオーソドックスな「4ドアセダン」です。
「5ドアハッチバック」の方がどちらかといえば大衆車的で、「4ドアセダン」はフォーマルな印象があります。どちらも人やモノをたくさん積める実用的なパッケージングですが、「5ドアハッチバック」の方がリアゲートが大きく開くし、高さ方向にも余裕が出やすいため実用性は高いです。
対する「4ドアセダン」は荷室と室内が完全に分かれているため、「ロードノイズなどの遮音がしやすい」とか「リア周りの剛性を高めやすい」といったメリットがあります。
今回の「インサイト(3代目)」はプリウスより上級の車として企画されているため、よりフォーマルな印象の強い「4ドアセダン」を選択したんだと思います。
「ハイブリッドシステム」の違いを比較
プリウスのハイブリッドシステムは、1.8リッター直列4気筒エンジンに電気モーターを組み合わせた「シリーズ・パラレル方式」です。対するインサイトのハイブリッドシステムは、1.5リッター直列4気筒エンジンに電気モーター2機を組み合わせた「シリーズ方式」を採用してます。
「シリーズ・パラレル方式」は、エンジンと電気モーターを複雑に組み合わせて駆動しますが、同時にエンジンは発電も行います。制御が複雑な分、全域で燃費の良い走りができるというメリットがあります。
「シリーズ方式」は、エンジンを発電のためだけに使って、タイヤを直接動かすのは電気モーターが担う仕組みです。インサイトの場合は、一部、高速巡航の時だけタイヤとエンジンが直接接続されますが、基本的にタイヤを駆動するのは電気モーターの仕事です。ハイブリッドカーというよりも、「発電機付き電気自動車」と言った方がイメージに近いかもしれません。
ということで、インサイトの「シリーズ方式」には電気モーターならではのスムーズさとかダイレクト感といったメリットがあります。
「外観デザイン」の違いを比較
これ以降は、「外観」や「内装」などその他の細々とした部分の違いについての比較です。さらに「プリウス」と「インサイト」の違いについて詳しく知りたい、という方は読み進めていってください。
「トヨタ・プリウス」の外観デザイン
プリウスの外観デザインは、「ワンモーションフォルム」を基本とするハイブリッドカーらしい近未来的なスタイリングです。
ワンモーションフォルムとは、ノーズ(鼻先)からルーフ(屋根)、リアエンド(ボディ後端)へと、一筆書きで描かれたような一体感のある形のことを言います。それまで、アニメとかSF映画、コンセプトモデルにしか使われてなかった手法なんで、プリウスが登場した時は本当にビックリしたもんです。
2018年にマイナーチェンジを実施。アグレッシブなスタイリングからプリウスらしい保守的なスタイリングへと変更されました。個人的には前期型のリア周りが大好きだったんですが、市場からの受けがあまり良くなかったらしいんでこればっかりは仕方ありません。
「ホンダ・インサイト」の外観デザイン
これに対して「インサイト」の外観デザインは、「シビックセダン」を基本とするオーソドックスな「4ドアセダン」になってます。
今回のインサイトは、「プリウスよりひとクラス上の上質なハイブリッドカー」がテーマなんで、あえてフォーマルな印象の強い「4ドアセダン」にしたんでしょう。
「シビックセダン」がベースといっても、ディティールやフロントマスク、リア周りはインサイト専用デザインです。そのせいでシビックとは全く違う、ひとクラス上の上質な車に見えます。
インサイトの主要マーケットは北米ですが、フロントグリルは日本使用専用デザイン。日本刀をイメージした太めのシグネチャーウィング(クロムメッキ)が特徴です。
「室内」の違いを比較
「トヨタ・プリウス」の室内
プリウスの内装デザインは、センターメーターとナビ用の大型ディスプレイを中心に組み立てられた近未来的なデザインになってます。インパネの質感はインサイトほど上質じゃありませんが、樹脂の質感を活かしたモダンでカッコいいデザインです。
マイナーチェンジでコネクテッド機能を強化
2018年のマイナーチェンジでコネクテッド機能が強化され、専用通信モジュール「DCM」が標準装備されました。それに伴って通信サービス「T-コネクトサービス」も無料で3年間付帯。ステアリングのスイッチを操作して呼びかけると、通信センターに在中するオペレータが応えてくれます。天気予報や渋滞情報、ナビゲーションの設定からお店の電話番号検索まで色々なサービスが提供される仕組みです。
さらに「お手洗いの陶磁器みたいだ」と不評を買っていた乳白色のセンタートレイも改修され、ピアノブラック調、もしくはブラック樹脂に変更されました。
視界は良好
若干先代よりも目線が低くなったものの、ボディの見切りが良く、ノーズ(鼻先)が短いので視界は良好です。ただし、アクセルペダルが若干左よりにレイアウトされているため、ちょっと違和感があります。ステアリングコラムも少々遠い感じです。
「トヨタ・プリウス」の荷室
駆動用バッテリーを小型化し、リアシートの下に移動したんで、荷室容量は502L(FF車)とこのクラスのガソリン車と変わりません。さらにリアシートを6:4で分割して倒せば、ステーションワゴンなみの広大な荷室空間が広がります。
「ホンダ・インサイト」の室内
インサイトの内装デザインは、外観と同じでオーソドックでフォーマル。水平基調のデザインをベースにした落ち着きのある仕立てです。プリウスと比較すると上質で、「大人の男性」といった印象があります。
全体のデザインはシビックセダンの内装をベースにしつつも、インサイト専用のディティールが施されてます。カクカクとしたメカニカルな感じのシビックセダンに対して、インサイトの内装は伸びやかなラインとかソフトパッド、本物のステッチによってシックな佇まいを表現してます。
セダンにしてはスポーティなポジション
ヒップポイントが低く、セダンにしてはスポーティなポジション。柔らかな曲線を基調にしたボディデザインや、プリウスと比較すると長めのフロントノーズによって車両感覚は掴みづらいです。といっても視界が適度に広くドライビングポジションの違和感も無いんで、慣れれば問題無いと思います。
Aピラー(フロントウィンドウの左右にある柱)の根本にドアミラーがあるため、斜め前方に死角ができてます。後席のサイドウィンドウ後端には小さな三角窓がありますが、斜め後方の死角も大きめで後ろが見づらいです。
シート
インサイトのフロントシートは、むっちりとした質感と適度なサイドサポートによって身体全体を緩やかに包み込む構造です。
リアシートは若干ルーフが低く、乗り降りの時は気を使います。頭上空間は必要最小限といった感じです。ただし、長めのホイールベースによって足元空間は広めになってます。リアシートの下に駆動用バッテリーを積んでますが、お尻の下には十分なクッションストロークがあるんで座りやすいです。
「ホンダ・インサイト」の荷室
インサイトもプリウスと同じで、駆動用バッテリーをリアシートの下に配置してます。そのせいで荷室スペースは519リッターと、同クラスのガソリン車と比較しても遜色の無いレベルです。
幅、奥行き、深さともに十分で、容量自体はプリウス以上。リアシートの背もたれを6:4で分割して倒せば、後席空間とつないで使えます。開口部が横に広く、トランクリッドの切り口も低いので、荷物の出し入れがやりやすいです。
パワートレーン
「プリウス」のパワートレーン
プリウスのパワートレーンは、1.8リッター直列4気筒DOHCエンジンに電気モーターを組み合わせた「シリーズ・パラレル方式」で、システム総合出力は122馬力です。
ガソリンエンジンに換算すると2.0リッター並みの動力性能があります。インサイトと比べると若干数値性能で劣りますが、車重が軽いので結構パワフルです。アクセルへの反応も機敏で、速度変化もスムーズ。インサイトと比較すると電気モーターならではのダイレクト感は希薄ですが、スムーズで自然な加速フィールが味わえます。
アクセルペダルを大きく踏み込むとエンジンノイズを高めますが、不快な音質じゃありません。普通に市街地を流す程度なら、かなり静かな車です。
燃費
燃費性能は、39.0km/l(JC08モード)と、インサイトを大きく上回ります。このあたりは軽い車重と「シリーズ・パラレル方式」のメリットが効いている感じです。
「インサイト」のパワートレーン
インサイトのパワートレーンは、1.5リッター直列4気筒DOHCエンジンに2つの電気モーターを組み合わせた「シリーズ方式」です。ガソリンエンジンに換算すると、2.5リッター並みのパワーがあります。
基本的には電気モーターだけで駆動しているため、ドライブフィールは電気自動車に近いです。加速フィールはスムーズで伸びやか、動力性能に対して車重が軽い(LXグレードで1370kg)ので、プリウスと比較してもパワフルだと思います。
アクセルを大きく踏み込むとホンダらしいスポーティな快音を響かせますが、実際にタイヤを駆動しているのは電気モーターなんで、エンジンは不足した電気を発電して駆動用バッテリーに供給してるだけです。
ブレーキの効きはプリウスより自然で、適度な踏みごたえの良さがあります。しかも反応がリニアなんで、車速をコントロールしやすいです。
燃費
燃費は、34.2km/l(JC08モード)とプリウスより悪くなってます。ただし、その分を自然な加速フィールだとか上質な走りのために使ってるんで、このあたりはプラマイゼロ。「お好みに合わせてお好きな方をどうぞ」って感じです。
乗り心地とハンドリング
「プリウス」の乗り心地とハンドリング
モデルチェンジのタイミングで、リアサスを簡素なトーションビーム式から、コストの掛かるダブルウィッシュボーン式へと変更してます。基本骨格は最新の「TNGA」プラットフォームです。
乗り心地
空気圧の高いエコタイヤを装着しているため、低速ではやや硬い感じもありますが不快なレベルじゃありません。速度を上げると車体の動きが安定して、さらにフラットな乗り味となります。
2018年のマイナーチェンジでちょっとだけ乗り心地が良くなりました。目地段差からの衝撃も割と上手にさばきますが、インサイトほどの上質感はありません。
17インチタイヤ装着車と15インチ装着車を比較すると、15インチの方がしなやかで乗り心地が良いです。スポーティ路線なら17インチ、乗り心地重視なら15インチって感じです。
ハンドリング
「TNGA」プラットフォームのおかげで重心が低く安定してます。重心の低さはボーッと乗っていても分かるレベルで、スポーティな「86」とか「BRZ」よりもハッキリしてます。そのおかげでハンドリングは素直で正確。コーナリング中の姿勢変化も少なめです。
初期型はかなりキビキビしたセッティングだったんですが、度重なる改良でこの辺は安定する方向に改められました。特にリアの落ち着きが向上して、その分、ハンドリングも穏やかになってます。ステアリングの手応えはいわゆる「しっかり系」で、直進安定性が高いです。
「プリウス」の乗り心地とハンドリング
フロントに、マクファーソン・ストラット式サスペンション。リアに、マルチリンク式サスペンションを使ってます。プラットフォームに特別な名称はありませんが、シビックセダン(10代目)にも使われているモジュラータイプの最新アーキテクチャーです。
乗り心地
プリウスと比較すると柔らかめの乗り心地。目地段差など、路面からの小さな衝撃は柔軟なサスの動きで吸収してくれます。
低速では多少ゴツゴツする瞬間があるものの、速度を上げてやればすぐにフラットで柔軟な乗り味に戻ります。不快な突き上げ感とか嫌な雑味はスッキリと遮断。しっかりとした芯を確保しつつも、上質感とかしなやかさを感じさせる乗り心地なんです。
ハンドリング
ハンドリングはプリウスよりさらに正確で、ボディ追従性も高め。素直な反応でよく曲がってくれます。といってもキビキビした感じじゃなくて、軽快感は車重の軽いシビックセダンの方が上でしょうねえ。大きなボディを感じさせない、程よい軽快感があります。
乗り心地を重視したセッティングなんで、コーナリング中はそれなりにボディを傾けちゃいます。といっても、姿勢変化が穏やかで予測しやすいため不安な感じにはなりません。リアの追従性が高く、安定した姿勢を維持しやすいんです。
「プリウス」と「インサイト」の価格を比較
最後に、主要な「FFグレード」に絞って「プリウス」と「インサイト」の価格を比較してみます。
「プリウス」の価格
2018年のマイナーチェンジで、若干価格も値上がりしてます(Eグレードで、2,429,018円から2,518,560円へと「9万円弱」の値上がり)。
ただし、先進安全技術パッケージの「Toyota Sefety Sense」とか通信モジュールの「DCM」が標準装備されたんで、実質的には若干の値下がりです。
グレード | 価格 |
---|---|
E | 2,518,560円 |
S | 2,565,000円 |
A | 2,842,560円 |
Aプレミアム | 3,175,200円 |
「インサイト」の価格
価格は「プリウス」と比較するとだいぶお高いです。ただし、「インサイト」は「プリウス」より車格がひとつ上です。プリウスには無い上質感とかしなやかな乗り味。先進的なハイブリッドシステムによるパワフルな走り。ナビゲーションやETC車載器など、必要なオプションが始めから装備されていることを考えると、逆に少し割安かなあと思います。
グレード | 価格 |
---|---|
LX | 3,261,600円 |
EX | 3,499,200円 |