1990年代の後半くらいから除々に普及し始め、現在ではほとんどのクルマに装備されるようになった「ABS」ですが、このシステムの効果と使い方を正確に知っている人は少ないです。
そこで今回は、このABSについて詳しく解説してみたいと思います。
ABSの働き
ABSの装備されていない車でフルブレーキングを行うと、タイヤがロックして車は路面の上を滑りながら進むことになります。いわゆるスリップとかスピンといった、車のコントロールを失った状態におちいる訳です。
ステアリングはタイヤが転がることによって、方向転換をすることができます。つまり、タイヤがロックしてしまうと、いくらステアリングを切っても車の向きを変えることはできないのです。
こんな時、ABSが車に装備されていれば、タイヤがロックする前にABSが異常を検知して、ブレーキのオンオフを高速で切り替え、タイヤのロックを防ぐことができます。つまり、車のコントロールを保ったままフルブレーキングを行うことができるのです。
これなら、市街地を走行している時に急に子供が飛び出してきても、フルブレーキングを行いながら、ステアリング操作によって子供を安全に避ける事ができます。
ただし、ABSの効果を最大限に発揮させるためには、「どんな時でも確実にフルブレーキングを行う」という事が重要になります。
フルブレーキングについては、以下の記事で詳しく解説していますので、よろしかったら御覧ください↓
参考:普段から、パニック(緊急)ブレーキを練習しておこう!【運転のコツ】
プロレーサーの神業
プロのレーサーは、こんな神業のような操作を日常的に行うことができます。ブレーキを強く踏み込んだところでタイヤがロックしそうになれば、僅かにブレーキペダルを戻しタイヤのロックを防ぐわけです。これをABSと同じように高速で繰り返しているのですから、驚いてしまいますね。
プロのレーサーの場合はこんな高度な技術があるため、サーキットのような高速コーナーでも、自信をもってギリギリのタイミングでブレーキ操作を行うことができます。ただし、素人が憧れだけでこういった事を真似するととんでもない事になります。スポーツドライビングを楽しみたいのなら、そのための専用スクールに入って基礎からしっかりと学んでください。それが面倒というのなら、テレビやゲーム、漫画などで仮想体験をする程度にとどめておくのが無難です。
ABSは必ずしも制動距離を短くするわけではない
雨や雪で路面の摩擦力が極端に低下している時ほど、ABSをありがたいと感じる時はありません。
例えば、乾燥した路面であれば自信を持ってブレーキングをすることのできるような低速域でも、路面が濡れているだけでタイヤは簡単にロックしてしまいます。
こんな時にABSが装備されていれば、車のコントロールを保ったままブレーキングを行うことができます。ただし、ABSが付いているといっても制動距離が短くなる訳ではありません。平坦な直進路であれば、タイヤをロックさせながらブレーキングしたほうが、かえって短い距離で止まれることもあるのです。
ABSによるブレーキングを行う場合は、このあたりの特性も十分に認識しておいてください。でなければ、ブレーキングが間に合わず衝突なんて事も十分に考えられます。
ABSを安全な場所で体験してみよう!
ABSの特性を十分に身体に覚え込ますには、知識だけでは不十分です。大きな空き地や誰もいない平坦な道、車のいない駐車場などを見つけて、一度積雪時のフルブレーキングを試しておきましょう。ただし速度は10km程度で十分です。あまり派手にスピードを出すとかえってトラブルの危険性が増します。安全のために練習するつもりが事故で大怪我、なんて事になれば笑い話ではすみません。
フルブレーキング時にABSが作動すると、グ、グ、グと小さな振動がブレーキペダルに連続的に伝わります。これは、ABSがブレーキをコントロールしている振動です。一度この振動を体験しておけば、もしもの時に慌てることはありません。安心してパニックブレーキを行うことができるでしょう。
また、積雪時に車体がどのような動きをするのか、どれくらいの距離で停止することができるのか、実際に体験する事で愛車の特性を正確に掴むこともできます。