
昔のF1マシンのコックピットには、普通のクルマと同じように、クラッチペダルやマニュアルシフトのためのシフトノブが装備されていました。その他には、前後のサスペンションを調整するためのツマミやブレーキの効き具合を調整するツマミもあり、F1ドライバーは常に忙しくこれらの操作をしていたのです。
そのため、この時代のF1マシンのステアリングには、「タイヤの方向を変えてマシンの向きをコントロールする」といったシンプルな機能しかありません。
現代F1マシンのステアリングは、まるでゲーム・コントローラー
これに対して現在のF1マシンには、様々なスイッチが装備され、まるでゲーム・コントローラーのようなデザインになっています。
F1マシンの技術が進化するに従って、コックピットは徐々に小さくなりドライバーの身体ギリギリのスペースしかありません。また、クラッチやミッションなどのコントロールも電子制御され、スイッチひとつで操作ができるようになっています。
必然的にマシンをコントロールするためのこういったスイッチ類は、一番操作がしやすくて見やすい、僅かな余白として残されたステアリング上に集約されていったのです。
スイッチ類の機能をご紹介!
このステアリングには、ミッションを操作するためのシフトスイッチや、前後のブレーキの効きを調整したりサスペンションの硬さを調整するダイヤル、さらに混合気の濃さを調整してパワーと燃費のバランスをコントロールするスイッチまであります。
その他には、ピットと交信するためのスイッチや、ドライバーのヘルメットの中に用意されたストローから水分を補給するためのスイッチもあります。
また、ステアリングの中央には液晶ディスプレイが用意され、油圧や油温、水温を表示、ピットから送信されたラップタイムを見ることもできます。
さらに、こういったスイッチ類のコントロールを一気にリセットするためのスイッチや、トランスミッションをニュートラルにするスイッチ。ゼロ発進のためのスイッチ、全ての電子系統を一斉にシャットダウンして、エンジンを停止するためのスイッチも装備されます。
複雑なスイッチ操作は難しい
これらの複雑なスイッチ類を、レース中の過酷な状況下で完全にコントロールする為には、超人的な集中力が必要となります。人間離れしたF1パイロットといえども、簡単に行くものではありません。
現にF1ドライバーの中には、時にこのスイッチ類を間違って押してしまう人がいます。
ドリンクスイッチや交信のためのスイッチなら、間違って押したとしても大した問題にはなりません。しかし、全ての電子系統をシャットダウンするキルスイッチを押した場合は大変です。エンジンが停止してしまうだけではなく、再始動するためにかなりの時間を失ってしまいます。
まあ、こういった重要なスイッチは、なるべく間違わないように押しにくいところにレイアウトされています。といっても、ステアリング上にはスペースの余裕が無いため、ついうっかり間違って押してしまうという事が起こるのです。
キルスイッチに間違って触れてしまった、ナイジェル・マンセル
1991年のF1カナダグランプ。ナイジェル・マンセルは終始トップを走りながらも、後半周でゴールという所でエンジンがストップ。あえなくリタイヤとなった事があります。
当初は、ガス欠によるエンジンストップかと思われていましたが、チームのエンジニアがマシンを回収に来ると、エンジンは無事に再始動。「ナイジェル・マンセルが観客に手を振っている時に、間違ってキルスイッチに触れたのでは」と言われています。
この時の真相はついに解明されていませんが、チームはその後、トラブルを未然に防ぐため、キルスイッチを手に触れにくい場所に移しています。