今回の試乗レポートは「トヨタ WiLL Vi」。
2000年から2001年に渡って製造販売されていた、コンパクトな4ドアセダンです。
ベースとなるプラットフォームには、ヴィッツの車台が使われていますが、外観や内装など、目につく部分は「Vi」専用のパーツで作られています。
車体にトヨタのマークは付いておらず、「WiLL」ブランドとして販売されていました。このブランドは、家電から食品、旅行会社など幅広い会社が連携して展開していたブランドです。
ただし、その奇抜なデザインのせいで使い勝手が悪く、価格もヴィッツより割高であったため、売上成績自体は今ひとつでした。
外観
全長3760mmX全幅1660mmX全高1575mmのボディサイズを持ち、ホイールベースは2370mmとなります。
シトロエン2CVを彷彿とさせるようなスタインリング。ただし、本家2CVが機能性をとことんまで追求して形作られたスタイリングであるのに対して、この「Vi」のスタイリングはあくまでも見た目の面白さや奇抜さ、ちょっとおしゃれな感じに見せるためのデザインです。
フロント
大きく弧を描くようにスラント(傾斜)したノーズに、角型のヘッドライトが組み合わされ、優しい印象のフロントフェイスです。
サイド
ノーズとルーフ、トランクスペースには、それぞれ大きく弧を描くようなモチーフが連続的に繰り返されています。シトロエン2CVを彷彿とさせるような「プレスライン」がサイドパネルに施され、道具感溢れる面白い効果をこの車に与えています。
逆スラント(傾斜)したリアウィンドウを実現するため、リアスペースが極端に狭くなっています。このデザインを活かしたまま、さらにリアスペースを広く取ろうとすると、ホイールベースを長くするしかありませんが、そうすると今度はプラットフォームにまで手を入れる大掛かりな手術が必要です。少量生産を前提とするこの種の車では中々難しいはなしです。
リア
逆スラントしたリアウィンドウに尻下がりのヒップライン。古い車からインスパイアされた数々のモチーフが、車のあちこちに盛り込まれています。モダンでおしゃれ、ちょっとクラシックな印象を感じさせるリアエンドです。
内装
明るいベージュを基調としたおしゃれな内装デザイン。外観のプレスラインが室内でも施され、リズム感のある楽しい雰囲気です。
スタイリングを優先した設計のため、室内空間に広々としたゆとりはありません。屋根が少し低くいので、座高の高い成人男性では窮屈かもしれません。
サイドウィンドウ下端の形状が大きく曲がっており、車庫入れなどでまっすぐ後退する事が難しいです(ドライバーは無意識の内に、サイドウィンドウ下端と道路が並行になるように運転している)。
シート
フロントシートはたっぷりとした厚みを持つベンチシートが装備されます。やや体圧が集中しがちですが、中距離(30km)程度であれば問題ありません。
リアシートは極端に足元が窮屈です。座面の前後長が短く、シートバックも立ち気味で薄いため、短距離(10km)移動が限界です。
荷室
デザイン優先のパッケージングが災いして、荷室スペースは狭いです。といっても、家族4人で1泊2日旅行程度であれば十分可能です。
静粛性
クラス標準レベルの静粛性能。アクセルを踏み込むとエンジン透過音が高まります。
エンジンとミッション
1298ccの直列4気筒DOHCエンジンに、4速ATが組み合わされます。
エンジンは、88ps/6000rpmの最高出力と、12.5kgf・m/4400rpmの最大トルクを発揮します。
車両重量940kg。10モード/10・15モード燃費は、17.2km/lとなります。
エンジン
1.3Lのツインカムエンジンで前輪を駆動。車重がヴィッツよりも重いため、キビキビとした走りは期待できませんが、市街地を普通に流す程度であれば十分な動力性能です。
Viは、この1.3Lエンジンのみのモノグレードです。そのため、もっと燃費の良い車やパワーのある車が欲しい場合は、ヴィッツなど他の車から選ぶしかありません。
トランスミッション
ヴィッツと同じ、トルコン式のATを装備。パワーを必要とするシーンではエンジン回転を高めて制御するため、バイブレーションやノイズが大きくなります。
足回りとハンドリング
前輪にストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションが装備されます。
足回り
基本的な構造をヴィッツと共有しているため、適度に芯のある快適な乗り心地ちです。
ハンドリング
中庸なフィールのステアリング。ドライバーの操舵に対して素直にボディの向きを変えます。
小回り性能が高く、狭い路地でも簡単に切り返すことができます。
評価のまとめ
WiLLブランドから発売された、若い女性向きのおしゃれで個性的な車です。
ただ、その斬新なスタイリングを実現するため、小さなトランクスペースや狭い後部座席、効率の悪いパッケージングなどを我慢する事が求められます。
ベースとなるプラットフォームをヴィッツと共有するため、その走りや安定性はいたって普通で乗りやすいです。
「通勤や通学で使う足車を探しているが、ヴィッツやフィットでは面白くない。もっと個性を主張するような斬新でおしゃれなデザインの車が良い」という人にぴったりな車です。
「おしゃれな欧州車は沢山あるが、信頼性やディーラーのサービス網の広さを考えると、やはり国産車が良い」という人にもオススメです。
価格
新車当時の価格 | 1,300,000円