今回の【試乗評価】は「新型 VW ザ・ビートル デザイン」。
2011年に登場した(日本市場への導入は2012年から)、3ドア・ハッチバックです。
1998年に登場した「初代 ニュー・ビートル」は、戦前に設計された「フォルクスワーゲン・タイプ1(通称ビートル)」をモチーフにしながらも、円弧を基本とするモダンなデザインが与えられたデザインコンシャスな車です。
今回登場した「新型 VW ザ・ビートル」は、モデル名を「ニュー・ビートル」から「ザ・ビートル」へと変更。パッと見の印象は先代「ニュー・ビートル」とあまり変わりませんが、より「フォルクスワーゲン・タイプ1」に近いスタイリングが与えられ、合理性を重視した使い勝手の良い車に仕上げられています。
ビートルの名を持つものの、駆動方式は「タイプ1」のリアエンジン・リアドライブ(RR)方式ではなく、オーソドックスなフロントエンジン・フロントドライブ(FF)方式を採用。
基本となるプラットフォーム(基本骨格)は、ゴルフⅥと同じ「Aプラットフォーム」。リアサスには「VW・ジェッタ」の4リンクサスを装備。これに1.2Lダウンサイジングターボと、デュアルクラッチ式トランスミッション7速DSGを組み合わせています。
2016年にマイナーチェンジを実施。内外装の変更および、安全装備の充実、スマホとの連携機能を強化した「インフォテインメントシステム」
の全車標準装備が実施されています。
※じっくりと読む時間の無い人は、文末の「【試乗評価】のまとめ」をどうぞ。
「新型 VW ザ・ビートル デザイン」の外観
ボディサイズ、全長4285mmX全幅1815mmX全高1495mm。ホイールベース、2535mm。
広くなった全幅と低められた全高によって、ロー&ワイドな印象を強めています。
選ぶことの出来るボディカラーは全部で8色。特に目を引くのが、明るいグリーンやブルー、イエローといったビートルのイメージにピッタリと合う鮮やかなカラーです。
フロント
円弧を基本とするモダンなデザインから一転して、低く身構えたワイド感あふれるフロントフェイスに。全体のディティールにもシャープな処理が加わり、よりスポーティで引き締まった印象です。どことなくポルシェ911の面影も見え隠れしています。
先代ニュービートルに感じられた「ほのぼのとした可愛らしさ」は薄まり、新型ザ・ビートルは、スポーティで都会的な印象です。
サイド
先代ニュービートルの美点は、「3つの円弧を組み合わせたような単純化された美しさ」にありますが、新型ザ・ビートルには、長いフロントノーズに立ち気味のAピラー。なだらかに引き伸ばされたルーフラインが与えられ、スポーティでスタイリッシュな美しさを表現しています。
リア
なだらかに傾斜するリアエンドに、丸みのあるワイドフェンダー。横方向に拡がるD字型リアコンビランプが組み合わされ、スポーティで力強い後ろ姿を構成。まるでスポーティクーペのようです。
「新型ザ・ビートル」のデザインはスタイリッシュでかっこいいのですが、デザインの面白さや新奇性、オリジナリティといった意味では「先代ニュー・ビートル」の方に魅力を感じてしまいます。まあ、これは僕の個人的な趣味の問題でもありますが。
内装
ボディ同色パネルをあしらった、ポップで楽しい室内。VWらしく作りは精密で質感が高く、兄弟車ゴルフと比べても遜色はありません。
Aピラー(一番前の柱)が近くしっかりと立ち上がっているため、斜め前方の死角も最小限。見切りの良いボディと相まって、車両感覚が掴みやすいです。
メーターナセルには、大きな速度計を中心に備えた三眼メーター。ほどよいポップさを表現しながらも、基本は実用性重視。クッキリしたフォント(文字)で視認性が高いです。
センタークラスター最上段には、インフォテイメントシステム「Composition Media」を全車標準装備。6.33インチ・ワイド液晶モニターを使って、スマホとの連携やオーディオ、ラジオ、MP3/WMA再生などを行います。
中段にはエアコンのコントロールユニット。大きなダイヤルが3つ装備され、手探りでの操作もやりやすいです。
シート
フロントシートは、大柄なシートフレームにストロークのたっぷりとしたクッション、柔軟な表皮を組み合わせます。クッションには適度なコシがあり、長時間座っていても身体が不自然に沈み込むことはありません。ほどよいサイドサポートでフィット感も上々。「コンフォート・シート」と自ら名付けるだけのことはあり、座り心地は絶品です。
リアシートは、ルーフラインの延長と落ち込んだ座面形状によって、ほどよい頭上空間を確保。足元にも十分なスペースがあり、大人二人で座っても窮屈感はありません。
荷室
同クラスのハッチバックやセダンと比較すると、やや幅方向が狭い。といっても高さと奥行きがあるため、荷室容量自体は十分(310L)。家族4人であれば、2泊3日旅行も可能です。
50:50で背もたれを倒せば、さらに大きな荷室(905L)となります。
リアハッチゲートの開口部が大きいので、かさばる荷物の積み下ろしも簡単です。
静粛性
アクセルを踏み込むとややエンジン音を高めるものの、巡航や低速走行時はいたって静か。
エンジンとミッション
1197cc・直列4気筒SOHCターボエンジンに、7速AT(DSG)が組み合わされます。
最高出力105ps/5000rpm、最大トルク17.8kgf・m/1500-4100rpm。
車両重量1300kg。JC08モード燃費、17.6km/l。
エンジン
ポロやゴルフにも搭載される、1.2リッター・ターボエンジンで前輪を駆動(FF)。トルキーなエンジン特性で、キビキビとした軽快な走りをみせます。
急な坂道では持てるパワーを使い切ってグイグイと加速。アクセルに対する反応も機敏で、速度をコントロールしやすいです。
アクセルを踏み増せば、ダウンサイジングターボとは思えない鋭い吹け上がりを披露。ただし、回転の上昇に比べてパワーの盛り上がりは今ひとつ。このあたりは、低速トルクを重視したダウンサイジングターボなので致し方ありません。
トランスミッション
マニュアルトランスミッションをベースにしながらも、2つのクラッチ系統によってスムーズな変速を実現した「7速DSG」を装備。
1速のギア比が低く、低速域では出足の力強さやスムーズな走りを。逆に7速側はギア比が高く、効率の良い高速巡航を支えるセッティングです。
トルキーなエンジン特性を活かして、なるべく低いエンジン回転を維持。細やかな変速制御で、スムーズで効率の良い走りを実現しています。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪には4リンク式サスペンションを装備。前後ともにスタビライザーで強化。
乗り心地
装着タイヤは、215/55R17。
柔らかすぎず硬すぎない、バランスの取れた重厚感あふれるしなやかな乗り味。荒れた路面では多少バタつく事もありますが、路面からの衝撃を柔軟に吸収して、不快な衝撃を車内に伝えません。
高速域での安定性も高く、4つのタイヤが柔軟にストロークしてボディをフラットに維持。しっとりと路面を捉えながら、真っ直ぐに進みます。
ハンドリング
程よい軽快感を伴う自然なハンドリング。スポーツカーのような鋭さはありませんが、ドライバーの操舵に正確に反応して、イメージしたラインを外しません。
コーナリング中は穏やかなロールを許容するものの、動きや素直で自然なためバランスの良い一体感を維持し続けます。
最小回転半径は、5.0mとボディサイズの割に小さめ。狭い路地でも簡単に切り返すことができます。
先進安全技術
斜め後方から接近する車を検知して知らせる「ブラインドスポットディテクション(後方検知機能)」や、ドライバーの疲労を検知して知らせる「ドライバー疲労検知システム」、後退時、死角から接近する車を検知して警告する「リヤトラフィックアラート(衝突軽減ブレーキ機能付き)」などを装備。
ただし、前方の車や歩行者を検知して衝突を防止する「プリクラッシュブレーキ」は装備されません。
【試乗評価】のまとめ
「新型 VW ザ・ビートル デザイン」は、先代のモダンなデザインから一転して、より「フォルクスワーゲン・タイプ1(通称ビートル)」のスタイリングに近づけた3ドア・ハッチバック。
「ゴルフⅥ」のプラットフォームとパワートレーンを使いながら、どことなく穏やかなビートルの世界観をしっかりと確立しています。
1.2Lダウンサイジングターボは、低速からフラットなトルクの立ち上がる設定。組み合わされる7速DSGの制御も素晴らしく、ダイレクトな気持ちよさを残しながらも、緻密な制御でスムーズな変速を行います。
ルーフ形状はなだらかに延長され、後席にも必要十分なスペースを確保しています。荷室容量の大きさも程よく、家族4人で2泊3日程度であれば問題ないです。
足回りのバランスも良く、重厚感あふれるしなやかな乗り味。ステアリングは素直で小気味良く、ビートルの世界観と相まって楽しく運転できます。
「おしゃれで楽しい車を探しているが、しっかりとした基本性能も大切」と考えている人には最適な車でしょう。また、「若い頃、フォルクスワーゲン・タイプ1に乗っていた、もしくは憧れていた」なんて人には唯一無二の魅力的な車となります。
中古車市場では
2017年式「VW ザ・ビートル デザイン」で250万円前後。2014年式なら150万円前後(2018年7月現在)。
新車価格
2,780,000円(消費税込み)