今回の【試乗評価】は「新型 メルセデスベンツ・C250 ステーションワゴン SPORTS(W205)」。
2014年にフルモデルチェンジした、Mクラスのステーションワゴン(5ドア)です。
先代の3代目Cクラスが登場したのが2007年なんで、今回のモデルチェンジは実に7年ぶりとなります。まあ、欧州車はモデルサイクルが長いんでこれくらいは普通です。途中でビッグマイナーチェンジと呼ばれる、モデルチェンジ並みの大幅な改良もありますしね。逆に、最近は(不景気のせいか)日本車の方が長い場合もあるくらいです(エスティマとかマークXとか)。
初代Cクラスが登場したのは、バブル経済がはじけてすぐの1993年。190クラスの後継車種として開発されとりました。メルセデス・ベンツとしては手頃な価格とコンパクトなボディが受けて、世界中で大ヒットとなったモデルでもあります。現在では「Cクラス」よりも小さな「Aクラス」があるんですが、「技術」、「販売量」、「イメージ」、「ステータス」なんかの総合力で見れば、メルセデス・ベンツを代表する重要なモデルなのは変わりません。今でも「メルセデス・ベンツ」と聞くと、こいつの顔を思い出すくらい、僕にとっても印象深いモデルです。
その「Cクラス」の中でも「ステーションワゴン」は、初代から「セダン」とともにラインナップされる伝統的な車種です(先代190クラスには無かった)。
ステーションワゴンといえば、かつて日本市場で一大ブームを巻き起こした車種でもありますが、今ではその熱も冷め、「トヨタ・カローラ フィールダー」とか「スバル・レヴォーグ」なんかが細々と生産されとるだけです。
実用性を重視するなら、ミニバンとかワンボックス。経済性なら軽自動車やコンパクトカー(流行りの軽ハイト系ワゴンなら、実用性と経済性の二重取りですもんね)。ちょっとスペシャリティな気分に浸りたいなら、SUV。といった感じで、ミニバンほどは荷物が積めなくて、スペシャリティ感も希薄。経済性も悪いとなれば、わざわざ「ステーションワゴン」を選ぶ人がいないのも仕方ないんです。
ところが、メルセデス・ベンツのお膝元、ドイツを始めとする欧州諸国ではちょっとばかり事情が違います。
欧州はそれぞれの国を効率よく連結するため、アウトバーンのような高速道路が発達してます。こういった平均速度の高い道をそこそこの荷物を積みながら安定して走るには、ステーションワゴンのような車種が打って付けなんです。かつて日本市場で巻き起こった「大ブーム」ってほどじゃありませんが、一定の需要が見込まれる定番商品として定着しております。
「新型 メルセデスベンツ・C250 ステーションワゴン SPORTS(W205・4代目)」の概要
今回の4代目「Cクラス」の開発コンセプトは、「アジリティ&インテリジェンス」。「アジリティ」とは「俊敏性」とか「敏捷性」といった意味を表す言葉ですが、確かに今回のCクラスは今までと違ってスポーティな感じが強いです。
先代よりもボディサイズを拡大させながら、アルミ材の割合を増やした「アルミニウムハイブリッドボディ」の採用で「-65kg」の軽量化を実現。同時にホイールベースも拡大して、走行安定性と居住空間の拡大も両立しとるんです。ステーションワゴンの場合は、荷室の大きさが目立ちますねえ。C180グレード以外に「エアサス」が装備されたのもの、大きな話題でした。
その中でも、「C250 Sports」は一番のスポーティバージョン(前期モデルの中で)で、パワフルな2リッター・ツインカムターボに大径19インチタイヤ、エアロパーツなんかがおごられとります。
新世代プラットフォーム「MRA」を採用
新世代プラットフォーム「MRA」の採用で、軽量化と高剛性ボディ、高い衝撃吸収性能を実現。C250の場合は、これに211馬力を発生する2.0リッター・ツインカムターボと、9速ATを搭載してました。
ライバルは
ライバルは、「BMW・3シリーズ ツーリング」や「アウディ・A4 アバント」なんかの、ドイツ製プレミアムステーションワゴンです。20年前なら、「メルセデス・ベンツ」と「BMW」の2強って感じだったんですが、最近はクオリティ、ブランドともに「アウディ」がグングン追い上げて、完全に肩を並べとりますね。
マイナーチェンジ情報
2018年にマイナーチェンジ。いわゆる「ビッグマイナーチェンジ」ってやつで、6500箇所以上に及ぶ大改良が行われております。
具体的には、内外装の小変更に加えて安全装備の充実。「C200アバンギャルド」の場合は、「2.0リッター・ツインカムターボ」から、新しい「1.5リッター・ツインカムターボ」になってます。これには新世代マイルドハイブリッドシステム「BSG」も付いて、至れり尽くせりって感じです。
このタイミングで、ディーゼルエンジン搭載車も再登場。Eクラスに搭載されるパワフルで静粛性の高いディーゼルエンジンを搭載しとります。
※今回の試乗グレード「C250スポーツ」は、2017年に廃止されました。
外観
ボディサイズ、全長4730mmX全幅1810mmX全高1450mm。ホイールベース、2840mm。
フロント
グリルのど真ん中に輝く「スリーポインテッドスター」。ダイナミックな動きを表現するフロントバンパーや、大型LEDヘッドライト。「俺がベンツやでー!」と言わんばかりの押し出しの強いお顔になってます。
といっても下品な「マイルドヤンキー系」じゃなくて、威風堂々とした存在感とか上質感があるのは「流石にベンツ」といった感じです。
こういった「押し出し感」とか「威圧感」といったものは、単純に自己顕示欲を満たすだけじゃなくて、「他の車が道を譲ってくれる」とか、「無理な割り込みをされることが少なくなる」なんてメリットもあります。
サイド
FRレイアウトならではのロングノーズに、ビッグキャビン(居住スペース)。短く切り詰められたフロントオーバーハング(前輪からボディ先端までの長さ)。長いホイールベース(前輪と後輪の間)を組み合わせた伸びやかなサイドビュー。
サイドウィンドウが薄く、後ろに行く程なだらかに下降してるんで、ちょっとだけクーペみたいな感じもあります。
緩やかな曲線で描かれたキャラクターライン(ドアハンドルの下を前後に貫くプレスライン)と、前輪から吹き上がるように表現されたプレスラインの組み合わせも、エレガントで美しいです。Aクラスにも同じようなデザインが使われていますが、やっぱりCクラスの方がより大人っぽい感じになってますね。元気で若々しいAクラスに対して、こっちは「熟成された大人の渋み」を醸してます。
リア
緩やかに下降するルーフラインに、やや小さめのリアウィンドウ。リアコンビランプの位置が低いこともあって、ちょっとだけ尻下がりな感じになってます。このあたりが、エレガントに感じさせる秘訣でしょうか。全体の重厚な雰囲気とも、よくマッチしてます。
内装
今までのメルセデス・ベンツ流とは一線を画する、スポーティでエレガントな室内。内装の質感で定評のある「アウディA4」なんかに対抗するためでしょうねえ。しっとりとした樹脂に上質な本木目素材、シルバーパネルがたくみに配置されとります。
メーターナセル
ゴーグル型ベゼルの中にレイアウトされた、大型二眼メーター。フォントは小さめですが、表示にメリハリがあるんで視認性は良いです。その中央にレイアウトされる小型ディスプレイには、走行距離などの車輌情報が表示されてます。
マイナーチェンジ後の後期モデルなら、オプションで今流行りの「フルデジタル液晶ディスプレイ」も選択できるんです。が、このゴーグル型ベゼルには、やっぱりアナログメーターの方が似合ってると思います。
マイナーチェンジでなんでもかんでも「フルデジタル液晶にしちゃえ」って最近の風潮はちょっと苦手です。これはCクラスのことじゃ無いけど、嘘みたいに平板なデザインになってて、がっかりすることもありますから。
センタークラスター
センタークラスター(インパネ中央)最上段には、ナビゲーションなどを表示する「フローティングディスプレイ」。その直下には、エアコン吹出口。エアコンのコントロールユニット。アナログ式時計&オーディオコントロールなんかが続きます。アナログ時計は上級グレードに装備される「IWC製」じゃありませんが、車内のワンポイントになって高級感を演出しとります。
シート
フロントシートは、柔軟な本革と分厚いクッションを組み合わせたスポーティなシート。スポーティといってもサイドサポートの張り出しはそこそこで、タイトなホールド感より快適性を重視している感じです。シートに体重を掛けると、少し沈んだところでグッと身体を支える構造なんで、長距離移動でも疲れにくいと思います。
自然に手足を伸ばしたところにステアリングやペダル類があるし、目線の高さも適正でボディの見切りを付けやすい。とくれば当然だけど運転しやすいです。
リアシートも、フロントと同様に快適です。ホイールベースの拡大によって足元空間に余裕が生まれてるんで、大人二人で座ってもゆったりしてます。さらにステーションワゴンの場合は、ルーフがずっと後ろまで水平に伸びてるんで、頭上空間がかなり広いですねえ(セダンが狭いってわけじゃないけど)。
荷室
クーペっぽいキャビン形状は、サイドウィンドウを上手く使った錯覚なんで、実際の荷室はかなり広い(460リッター)です。セダンと違って高さ方向にも余裕があるんで、これなら荷物のかさばるキャンプ遊びもできます。
さらにリアシートを折りたためば、1480リッターの広大な荷室が広がります。こいつは、4:2:4で分割可倒できるから、片側のシートだけを倒して、「スノーボードや釣り道具なんかの長尺物を積む」なんてことも出来ちゃいます。
エンジンとトランスミッション
1991cc・直列4気筒DOHCターボエンジンに、トルコン式9速ATの組み合わせ。
エンジンは、最高出力211ps/5500rpm、最大トルク35.7kgf・m/1200-4000rpmを発揮。
車両重量1660kg。JC08モード燃費、14.0km/l。
エンジン
2.0リッターのツインカムターボで後輪を駆動(FR)。
このエンジンは、基本的に下位グレードの「C200」と同じだけど、セッティングや補機類の違いによって「211馬力」のパワーを生み出しとるんです。
同時に、アルミとスチールを組み合わせた「ハイブリッドボディ」によって「-65kg」の軽量化も実現。パワフルなエンジンに軽量ボディが組み合わされるんですから、トロいはずがありません。必要な仕事を着々とこなす実用的なパワーユニットに仕上がっとります。
しかも、フィーリングは静かでスムーズ。ラテン系のドラマチックな演出こそありませんが、低速から分厚いトルクを発生するんで運転しやすいです。
急な坂道に持ち込んでも、3リッター自然吸気エンジン並みのトルクを使ってグイグイと加速。1660kgのボディを軽々と押し上げます。
トランスミッション
トルコン式の9速ATを装備。
2017年の改良で、「7速AT」から「9速AT(9G-TRONIC)」へとアップグレードされてます。ダイレクト感あふれるフィールで、「さぞ、伝達効率が高いんだろうなあ」って感じです。しかもギアとギアの繋がりは超絶スムーズ。プレミアムブランドにふさわしい上質感がありますねえ。
エンジンのトルクが分厚いこともあって、エンジン回転を無闇に高めないのもいいです。低い回転を維持しながら、ポンポンとリズミカルに変速。さらに静粛性が増していくっていう好循環のループが生まれとります。
乗り心地とハンドリング
前輪に4リンク式サスペンション、後輪にはマルチリンク式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、前、225/40R19。後ろ、255/35R19。
標準でエアサスを装備。トランスミッションやステアリングアシスト、エンジン特性なんかと協調して制御される「アジリティコントロールシステム」も付いてます。
こいつは、自分の好みに合ったモードを選択することが可能で、「コンフォート」、「エコ」、「スポーツ」、「スポーツ+」の4モードがあるんです。初期型は足回りが硬めなんで、「コンフォートに入れておけば十分だなあ」と思いました。
フロントサスは、「ストラット」から高性能な「4リンクサス」へと進化。路面からの衝撃を正直に伝えがちで、硬めの乗り味になっとります。特に19インチを装着する「250スポーツ」は、中年のおっさんにはキツイです。
ただし、その後、何度かの改良やマイナーチェンジによって、柔軟性が向上。適度なスポーティさと穏やかさが同居した絶妙なセッティングになりました。特に凸凹の少ない良路では、フラットな姿勢を維持して滑るようにスイーっと進みます。よく言われることだけど、「外車を買うなら、中後期モデル以降」ってことなんですね。
ハンドリング
最小回転半径は、5.1m。
ステアリングアシストはほどよく軽め。しっとりとした上質感のあるフィールで、適度なロールを伴いながら、タイヤのグリップを高めて自然に旋回する感じです。
自然に旋回するフロントに対してリアの接地性は高く、安定してコーナーを曲がることができます。「ほどよいスポーツ感」と「穏やかさ」が上手くバランスした、扱いやすいセッティングです。
コーナリング中はずっと弱アンダー傾向を保って、ドライバーに安心感を与え続けます。どんな状況でもこんな調子なんで、「流石メルセデスベンツだわ、頼りになる」と思いました。
【試乗評価】のまとめ
「新型 メルセデスベンツ・C250 ステーションワゴン SPORTS(W205・4代目)」は、Mクラスのステーションワゴン(5ドア)です。
メルセデスベンツならではの迫力のある外観。しかも「下位モデルのAクラスよりは上質で、上位モデルのEクラスと比較するとコンパクトで扱いやすい」という絶妙なポジションにあります。日本の狭い道路に持ち込んでも、そんなに困ることは無いです。
コンパクトといっても、先代よりはボディサイズ、ホイールベースともに拡大されたんで、室内は広いし荷室にも余裕があります。内装の質感で一歩先を行く「アウディ・A4」に追いつこうと、内装の質感もグッと良くなっています。当然ながら、プレミアムクラスにふさわしい静粛性もあるんで、「良い車だなあ」って感じですね。
新世代アーキテクチャーの採用で軽量化されたボディと、トルクフルなターボエンジンが合わさって、全域で力強い走りになってます。「めくるめくような快感」なんてものは希薄ですが、とにかく与えられた仕事を真面目にこなす印象です。
当初、突っ張り感のあった足回りも徐々に改善され、メルセデスベンツらしいしっとりとした上質感を伴うようになりました。ハンドリングは、FRの持ち味を活かした素直な特性。「アジリティ」をテーマにしているだけあって、俊敏な感じもあります。
今回の「Cクラス ステーションワゴン」は、「家庭や仕事の都合で、人や荷物をたくさん積める車が探しているが、所帯じみたミニバンや商用車っぽいワンボックスや苦手」とか、「ステーションワゴンを買いたいが、上質感とかステイタスも大事にしたい」なんて人にピッタリな車だと思いました。
中古車市場では
2016年式「メルセデスベンツ・C250 ステーションワゴン SPORTS(W205・4代目)」で400万円前後(グレード最終モデル/2019年3月現在)。
新車価格
7,530,000円(消費税込み)