今回の【試乗評価】は「スズキ エスクード 2.4 XG(MT・3代目)」。
2005年にフルモデルチェンジした、小型クロスカントリーSUV(5ドア)です。
初代「スズキ・エスクード」が登場したのは1988年。当時、街乗りでもしっくりとハマるオシャレなコンパクトSUVが他に無かったため、バブル景気なんかもあって人気が高かったです。僕の友達にも乗っている人がいたし、街中でも結構走ってましたね。
そんなエスクードの人気を見た大手自動車会社経営陣は「その手があったか!」と次々にフォロワーを生み出します。日本車でいえば、「トヨタ・RAV4」とか「ホンダ・CR-V」など。ただし、フォロワーが普通の乗用車をベースにした「モノコックフレーム+独立懸架サス」なのに対して、エスクードは本格的なクロスカントリーSUVが採用する「ラダーフレーム+リア・リジッドサス」。ライバルには無い、強烈な個性と魅力がありました。
2代目は多少大型化されましたが、初代のコンセプトを受け継ぐキープコンセプトモデル。3代目ではさらに大型化され3ナンバーサイズになりました。といっても小型SUVならではの取り回しの良さは健在です。コンセプトは初代や2代目の良さをある程度継承しつつ、本格的ラダーフレームからモノコックフレームをベースに一部ラダーフレームを組み込んだ「ビルトインラダーフレーム」を採用。足回りは独立懸架サスになり、4WDシステムはパートタイム式からフルタイム式に。悪路走破性を維持しながら、オンロードでの乗りやすさにも配慮されいるわけです。
もちろん初代から継承するエスクードの美点、FRをベースにした縦置きエンジンや、理想的な前後重量配分、ローとハイの切り替えが付いた副変速機などは健在。街乗りもそつなくこなすおしゃれなコンパクトSUVで本格的な悪路走破性もある。しかも価格も手頃でランニングコストも安いとくれば、世界中で根強い人気を得ているのも当然です。
その後、2015年に4代目「エスクード」が登場。ただ、4代目は3代目と違って今流行の街乗りを重視した「クロスオーバーSUV」になっちゃいました。要は、「トヨタ・RAV4」や「ホンダ・CR-V」と同じ路線です。
コンセプトが大きく変わったことでユーザーを困惑させないようにと、3代目エスクードは「エスクード2.4」と名称を変え、そのまま2017年まで4代目と併売されていました。残念ながら2018年11月現在、3代目エスクードを購入することはできませんが、それだけ従来のエスクード路線に根強い人気があったということですね。
「スズキ エスクード 2.4 XG(MT・3代目)」の概要
全幅で1810mmと2代目(1780mm)よりも一回り大きくなってます。特に全長は4090mmから4300mmへと210mmも拡大されたんで、従来モデルよりもひとクラス上がったように見えます。エスクードは国内よりも海外市場での人気が高いんで、それに合わせてボディサイズも徐々に拡大されていった感じですかね。この辺の事情は「スバル・アウトバック」あたりと似ています。
プラットフォームなど
頑丈なラダーフレーム構造(1&2代目)から、モノコックボディをベースに一部ラダーフレームを組み込んだ「ビルトインラダーフレーム」に変更されてます。従来の優れた悪路走破性を維持しながら、軽量化や乗り心地の良さにも配慮したというところでしょう。
これに「2.4リッター直列4気筒エンジン」と「フルタイム4WD」を搭載。この他に「3.2リッターV6エンジン」もありました。2009年以降、その「3.2リッターV6エンジン」は廃止され、「2.4リッター直列4気筒」のみの一本となります。いわゆるモノグレード構成というやつです。
ライバルは
国内にめぼしいライバルは見当たりません。クラスや価格から考えれば「ホンダ・ヴェゼル」や「マツダ・CX-3」、「日産・ジューク」あたりですが、あちらはあくまでオンロード性能を重視したクロスオーバーSUVですから、直接的なライバルと言うにはちょっと無理があります。
マイナーチェンジ情報
2008年にマイナーチェンジ。内外装の小変更を実施してます。エンジンも改良され「2.0リッター直列4気筒エンジン」と「2.7リッターV6エンジン」の組み合わせから、「2.4リッター直列4気筒エンジン」と「3.2リッターV6エンジン」にアップデート。どちらのエンジンも改良され出力が向上しています。
さらに最上級グレード「3.2XS」には、自動ブレーキ「プリクラッシュセーフティシステム」と、ミリ波レーダーを使って先行車との間に適切な距離を維持しながら追従する「アクティブクルーズコントロール」がオプションで付けられるようになりました。
2012年マイナーチェンジ。内外装の大幅なアップデートを実施。
外観
ボディサイズ、全長4300mmX全幅1810mmX全高1695mm。ホイールベース、2640mm。
直線を基調にした力強いスタイリングと、二代目モデルよりも拡大されたボディサイズによって、ひとクラス上の風格があります。
フロント
マイナーチェンジでフロントバンパーやグリルが変更され、よりダイナミックなデザインになりました。ただし、前期モデルが持っていた「キリッとしたまとまりの良さ」みたいなのは薄まっちゃいましたけど。
サイド
主に直線を使ってスタイリングされているんで、力強さとか端正といった印象が強いです。前後ピラー(柱)も立ち気味なので、より四角な感じがしますね。これは、室内の広さとか運転のしやすさといった実際の使い勝手にも良い影響を与えてます。
2008年のマイナーチェンジでサイドミラーにウィンカーが内蔵されました。このはアイディアはメルセデスベンツ発祥ですが、今では広く普及してBMWにも採用されてます。ここまで来ると「パクリ」というよりは、「普遍化した」と言ったほうが正確かもしれません。
2012年のマイナーチェンジでは、新デザインの17インチアルミホイールを採用。
リア
シンプルな面と直線で構成された、重厚感あふれるリアエンド。
マイナーチェンジでスペアタイヤが廃止され、バックドア中央にはナンバープレート(メッキガーニッシュ付き)が配置されます。最近のSUVにはスペアタイヤが無いのが主流ですから、それにならったんでしょう。
スポーティで快活な前期モデルに対して、後期モデルはランドクルーザー然とした上質感を醸しちゃってます。スペアタイヤの有る無しだけで、大きく印象が変わるもんなんですねえ。
内装
プラスチックの質感を活かしたシンプルな室内。センタークラスターを縁取る二本のシルバーモールドがちょっと古くさい感じですが、元々が奇をてらったデザインじゃないんでそれほど気になりません。
メーターナセルには、シルバーリングで縁取られた三眼メーター。センタークラスター最上段にあったインフォメーションディスプレイが、中央メーター下段に移動してます。今流行のフルカラータイプじゃありませんが、平均燃費が直感的な棒グラフで表示されるんで見やすいです。
ボディが直線基調で角ばっているのと、目線が高くドライビングポジションが適正なので、車両感覚は掴みやすいと思います。
センタークラスター
センタークラスター最上段には大きなエアコン吹出口が2つ。最近のトレンドだとここにフローティングディスプレイが付くんですが、これはこれで後席に快適な空気が送りやすいし、ドライバーの手に直接冷えた空気が当たらないので使いやすいです。
その直下の一等地にはハザードスイッチを設置。インパネの表面からちょっとだけスイッチ浮き上がっているので、とっさの場合でも直感的に押せます。
エアコンは手探りの操作もしやすいダイヤル式。サイズが大きいのでグローブをしていても大丈夫でしょう。周辺のスイッチやディスプレイも同じような「円」をモチーフにしているので、見た目のまとまりとかスッキリ感がありますね。
シート
マイナーチェンジで、縦と斜めのストライプを組み合わせたシート表皮(黒)になりました。前期モデルよりもちょっとだけ上質な感じがします。
フロントシートはやや小ぶりながら、クッションが厚く適切な反発力もあるんで座りやすいです。適度なサイドサポートによって、腰の高い位置からお尻、太ももの裏にかけてしっかりと支えてます。
リアシートは、平板なデザインでクッションも薄め。ただし、足元や頭上空間には十分なスペースがあります。ボディサイズやホイールベースの拡大が効いてますねえ。ちょっと座面がフラットすぎてお尻が落ち着きませんが、中距離(30km)程度までなら問題なく移動できそうです。
荷室
荷室は、このサイズのSUVとしては十分なサイズがあります。形がスクウェアで高さ方向に余裕があるため、積み方を工夫すれば結構な荷物が積めそうです。
リアシートの背もたれを4:6で分割して倒せば、さらに大きな荷物も積めます。
静粛性
エンジンにバランサーシャフトが採用され、ぐっと静かになりました。風切り音やロードノイズも小さいので、SUVというよりはちょっとしたセダンみたいです。もちろん、V6エンジン(V6は2009年で生産中止)の方が静かですが、価格差を考えれば無理をして買うほどじゃありません。
エンジンとトランスミッション
2393cc・直列4気筒DOHCエンジンに、5MTを搭載。
エンジンは、最高出力166ps/6000rpm、最大トルク22.9kgf・m/4000rpmを発揮。
車両重量1600kg。JC08モード燃費、10.6km/l。
エンジン
2.4リッターのツインカムエンジンで4輪を駆動(フルタイム4WD)。マイナーチェンジで排気量が400cc程拡大されてます。
普通のモノコックボディよりも重い「ビルトインラダーフレーム」を採用してますが、低速からしっかりとトルクが立ち上がるためモッサリ感はありません。1.6tちょうどの重量級ボディを過不足無く加速させます。坂道でもフルスロットルにする必要はありません。余裕を残したまま力強く駆け上がります。どの回転域からも必要なトルクが瞬時に立ち上がるので扱いやすいです。
加えてエンジンの回転バランスを整える「バランサーシャフト」を追加。スムーズネスと静粛性が向上して、より上質な回転フィールとなりました。もちろん、4気筒ならではの軽快感もしっかりと残っているので、よどみなく高回転域まで気持ちよく吹け上がります。
トランスミッション
5速マニュアルトランスミッションを装備。SUVのMTと聞くと大味なフィールで気持ちよさとは無縁な感じがしますが、エスクードのはちょっと違います。
スムーズなシフトフィールで適度な剛性感もあるんで、軽く操作するだけでスコスコと気持ちよくシフトゲートに吸い込まれるんです。まあ、スポーツカーのようにショートストロークというわけにはいきませんが、シフトフィールの気持ちよさだけなら負けてません。
4速ATと違ってエンジンのトルクを有効に使えるんで、体感上のキビキビ感とか力強さもMTのほうが上回ります。エスクードはハンドリングが素直ですから、意外とスポーティな走りも楽しめちゃいます。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはマルチリンク式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、225/65R17。
元々エスクードは、FRレイアウトをベースにした「縦置きエンジン」に「独立懸架サスペンション」という素性の良いボディ構造なんで乗り心地が良いんですが、マイナーチェンジでさらに良くなってます。適度に引き締まったフィールを残しながらも、しなやかで上質な感じになりました。
SUVとしてはハーシュネス対策も上手く、段差の衝撃もしっかりと遮断。「さらに乗用車的な乗り心地になったなあ」という感想です。
高速域での直進安定性も高く、フラットな姿勢でまっすぐに進みます。SUV特有のユサユサとした揺れも最小限です。
ハンドリング
エンジンを縦置きにしたFRレイアウトと強固なビルトインラダーフレーム、優れた前後重量配分(前50:後50)のおかげでハンドリングは素直そのもの。さらに鼻先には軽量コンパクトな「2.4L直列4気筒エンジン」がマウントされてるんで、キビキビとした軽快感もあります。エスクードのようにハンドリングの楽しめるSUVはそうそうありません。
ボディの拡大によるワイドトレッド化と、優れた前後重量バランスによってコーナリング中の安定性も高いです。前後の接地性が高くコーナリング中も姿勢を乱しません。乗り心地とハンドリングのバランスが絶妙なんですよねえ。
コーナリング中はロールをある程度許容するセッティングですが、ダンパーが縮んだところでしっかりと踏ん張るため不安定な感じはありません。4つのタイヤがしっかりと路面を捉え続けます。
最小回転半径は、5.5m。ボディサイズを考えれば、可もなく不可もなくといったところでしょう。
先進安全技術
途中で廃止された最上級グレード「3.2XS」には、ミリ波レーダーを使った「アクティブクルーズコントロールシステム」と自動ブレーキ「プリクラッシュセーフティシステム」がオプションで用意されてましたが、残念ながら「2.4XG」にそういうのはありません。
【試乗評価】のまとめ
「スズキ エスクード 2.4 XG(MT・3代目)」は、本格的な悪路走破性を持つ小型SUV(5ドア)です。
デビューから10年以上(2018年11月現在)が経過しているため、多少なりとも設計の古さが見え隠れしますが、素性の良いボディ構造のおかげで気になるほどじゃありません。
強固なビルトインラダーフレームに、エンジンを縦置きにしたFRレイアウト。理想的な前後重量バランス、快適な乗り味をもたらす独立懸架サスなどによって、悪路走破性の高さとオンロードでの素直なハンドリング、快適な乗り心地がうまいことバランスしてるからでしょう。
2015年にモデルチェンジした「4代目エスクード」が、オンロード性能を重視した普通のクロスオーバーSUVとなったため、3代目はそのまま2017年まで併売されてました。本格的な悪路走破性とオンロードの快適な乗り心地を両立する小型SUVは「3代目」の他に無かったですし、そんな車を望むユーザーが根強く残っていたからです。
といっても新しい「4代目」が悪い車だというわけじゃありませんよ。普通のクロスオーバーSUVを望む声が多いからこそ、4代目がああいったコンセプトになったわけですから。
「オンロードの乗り心地とハンドリング、悪路走破性の高さを併せ持つコンパクトなSUVが欲しい」という人には「3代目エスクード」を。
逆に「本格的な悪路走破性はいらない、カジュアルなカッコよさとオンロードの走りが良ければそれで十分」という人には新しい「4代目エスクード」をオススメします。
中古車市場では
2017年式「スズキ エスクード 2.4 XG(MT・3代目)」で180万円前後。2014年式で160万円前後(2018年11月現在)。新型(4代目)のコンセプトがガラッと変わってしまったので、かつてのエスクードが好きだった人からの人気が高く、年式による値落ちが少ないです。
新車価格
2,181,600円(消費税込み)