1979年2月。記録的な暖冬となった北海道でのエピソードです。
北九州市在住のM(27歳)は、北海道で一旗上げてやろうと、5万円を握りしめて意気揚々と札幌へとやってきました。
北海道の寒さに震え上がるM
といってもこのM、北海道で何かをやるという具体的なプランは全くありません。札幌をウロウロしている内にやがて日が沈み始め、札幌市内の気温もぐっと下がり始めます。
暖冬といっても、そこは真冬の北海道、北九州出身の男にこの寒さを堪えることなどできません。辺りを見回していると、ちょうどそこへタクシーが通りかかります。
急いでタクシーを呼び止め、Mはそそくさと車内に乗り込みます。といってもこの男、どこに行ってほしいという具体的なプランはありません。
このまま温かいタクシーに留まりたい一心で、「函館まで」と適当な行き先を告げてしまいます。
函館へと向かうタクシー
札幌を出発したタクシーは、室蘭を経由して海岸沿いを南へと向かい、やがて4時間後に函館へと到着します。
時間は午後の12時をちょうどを回ったくらい。札幌でタクシーに乗り込んだ時よりも、さらに辺りは冷えこんでいます。
「ここでタクシーを降りると、またあの寒い中をウロウロと歩き回ることになるのか・・・」と案じたMは、タクシーの運転手に、「すまん!財布を家に忘れた。悪いが、札幌まで戻ってくれないか」と再び札幌行を告げます。
お金を受け取らないまま、ここでお客を降ろしてもどうにもなりません。タクシーの運転手は、渋々いま来た道を札幌へと戻り始めます。
なんと再び札幌へ
4時間後、午前4時となった札幌にタクシーは到着。当然ながらMはこんな寒空の中、タクシーから降りるつもりはありません。ああだこうだと奇妙な理由を付けて、札幌市内をグルグルと走らせ続けます。
除々に不審に思い始めるタクシー運転手ですが、ここで喧嘩をしても始まらないと、しばらくMの指示に従い続けます。
辺りが白み始める頃、急にMは札幌市内の交番にタクシーを横付けさせ、そのまま警察に「タクシーをタダ乗りしていた」といって自首してしまいました。
これに驚いたのは、昨日の夜から、さんざん北海道中を走り回らされたタクシー運転手です。といっても、最後は薄々ながらなんだかおかしいなあと気づいていたそうですが。
「とにかく疲れました」という一言を残して、交番を後にしたそうです。
「最後に交番に駆け込むくらいなら、最初から交番に助けを求めれば良いのに」と普通の人なら思います。まあ、計画性が無いからこそ、「冬の北海道に5万円で乗り込んできた」とも言えますが・・・。