現在の携帯電話事情から考えるとちょっと信じられませんが、1990年前後の日本では、自動車電話の価格が非常に高く、高級車とセットで設置されるようなステータスシンボルとなっていました。その価格なんと、新規加入料80,000円に加えて保証料200,000円、これに基本使用料30,000円+通話料金6.5秒に10円というすさまじい料金設定です。
自動車電話はお金持ちの持ち物
当然、このような高級品を持てるのは一部のお金持ちや、企業の重役クラスが中心となりますので、いくらかっこいいからといっても簡単に庶民が持てるものではりません。
ただ、本当のお金持ちしか持てないとなると、ますますステータスシンボルとしての価値は高まり、どんどん庶民は憧れを強める事になります。
今で言うと、メルセデスベンツのEクラスとか、Sクラスあたりのステータス感はあったと思います。
イミテーションの自動車電話
そんな時、この庶民の強い渇望に目をつけた鹿児島県のカーグッズ制作会社が、イミテーションの自動車電話を発売します。
といっても、実際に車内に自動車電話があるわけではなく、車のトランクに「自動車電話のアンテナに似せたプラスチック製の棒」が設置されるだけです。
つまり、トランクにただの黒いプラスチック棒を設置するだけで、他の人からはあたかも自動車電話が設置してあるように見える訳です。しかもこの黒い棒には静電気を空気中に放電するという機能まで付けられていました。
黒い棒が売れに売れまくる!
このただの黒い棒が発売されると、今まで自動車電話に強く憧れていた庶民の間で大人気となり、このカーグッズ制作会社は増産しても増産しても追いつけないほどの大繁盛となりました。
しかし、この後、1995年くらいになると現在のガラケーの走りのような小型で低価格な携帯電話が発売されるようになり、このイミテーション自動車電話アンテナも急激に販売量を落としていきました。
まあ、本物が低価格で手に入るようになれば、イミテーションに何の価値も無くなるのも当然ですが。
アメリカ版のイミテーション自動車電話
このイミテーションの自動車電話、日本人だけの趣味かと思えばさにあらず、当時のアメリカでも大きなブームとなっていました。
ただしアメリカ版イミテーション自動車電話は、アンテナだけではなく、携帯電話本体にステッカーまでセットされた本格的なもので、価格は15ドル程度というリーズナブルなものでした。
このアメリカ版イミテーション自動車電話は、日本以上に大ヒットとなり、1年間で40万台以上を売り上げたといいますから驚きです。
アンテナだけなら、「ああそれはジョークグッズだよ」と笑ってすますしかありませんが、自動車電話本体まで用意してあるとなると、どこでカミングアウトするか、その人のセンスや器量が問われるような気がします。
ひょっとしたら友達を乗せた時も最後まで、「これは本物の自動車電話だぜ」という顔をしていたのかもしれませんね。