欧州の自動車情報サイト「Automotive News Europe」によると、日産のカルロス・ゴーン会長が三菱自動車の会長に就任することになりました。
一連の燃費偽装問題で窮地に立たされている三菱自動車は、ルノー・日産アライアンスによる資金的な援助を受けるため正式に日産の子会社となります。
すでに数人の役員が日産自動車から三菱自動車に派遣され三菱の経営立て直しに当たっていますが、今回のカルロス・ゴーンの会長就任はその総仕上げともいうべき人事です。
前任者の益子会長は社長として留任
前任の益子会長は、カルロス・ゴーンの会長就任を受けて退任するとの噂も聞かれましたが、実際には社長職として三菱自動車に留まることになります。
ゴーン会長からすれば益子前会長の三菱商事人脈を生かしたいという思惑と、実際の陣頭指揮を執ってもらうという狙い、またもしもの時には責任を取らす事で自身の保全を図るという3段構えの戦略です。
ゴーン会長は引き続きルノーと日産の会長職も務めますので、社長職として事情を良く分かっている益子前会長にいてもらいたいという事もあるでしょう。
ただ、これまでの不祥事を引き起こした張本人が残留するという点については、後味の悪さとともに一抹の不安も残りますね。
このタイミングで発表された理由
日産自動車は三菱自動車の発行する全株式の内、34%を取得することで今回の役員人事を実行しています。これは日本の法律では拒否権が1/3の株式保有により与えられるからです。また、日産以外の株主の内、最大株主の三菱重工が20%の株式を保有しているので、それ以上の株式を保有することで安定した経営を行いたいという思惑もあります。
日産のメリット
日産自動車は商品の開発・製造を三菱自動車と共同で行うことで、部品の共有化や資材買い付けの効率化により大幅なコストダウンを行うことが可能になります。
また販売面においては、三菱自動車ブランドの得意とする東南アジアなど新興国において、強力なバックアップを得ることになります。
これらの相乗効果によりルノー・日産アライアンスは、490億円に上る大きな複合貯蓄を得る予定です。
三菱自動車のメリット
カルロス・ゴーン会長は、「三菱自動車は今回のアライアンスにより、他の自動車メーカーを超える大きなスケールメリットを得ることになり、また、抱えているいくつかの弱みを解消することになります」と述べています。
当然これは三菱自動車だけではなく日産自動車自身についても言えることです。ルノー・日産アライアンスは今回の三菱自動車買収で、トヨタやフォルクスワーゲンと肩を並べる「一千万台クラブ」を狙える位置にあります。ただのパートナーの窮地を救うだけの親切な人だと考えるのは危険でしょう。ゴーン会長が日産のCEOに就任したときと同様、大規模なリストラによる大なたが振るわれることは確実です。
軽自動車部門の行く末
また、日産自動車は2010年より三菱自動車と共同で軽自動車を開発・製造しています。今までは軽自動車の技術を保有する三菱自動車が主導的に開発・製造していましたが、これからは日産自動車が自分に一番都合の良いスタイルで開発できるようになります。
具体的には、日産系部品会社の活用や、日産の保有する組み立て工場の活用です。ただ、組み立て工場に関しては、現在の設備が使える内は三菱自動車の水島工場を活用するでしょう。次世代プラットフォームに刷新される時が転換点となるはずです。
三菱自動車の優れた技術
このアライアンスにおいて、三菱自動車は日産自動車の子会社という立場になりますが、プラグインハイブリッド関連では三菱自動車の保有している技術がルノー・日産アライアンスの標準技術となります。燃費偽装不祥事により図らずも三菱のプラグインハイブリッド技術が、日産の技術を大きくしのぐ事が証明されたと言えますね。
数々の不祥事を残した三菱自動車ですが、大手の1/10とも言われる研究資金の中で良くここまでのモノを開発したものです。
今回の燃費偽装問題で職を辞することとなった前任の川相社長は、少ない研究開発費をやりくりするため、会社に無断で残業しながら電気自動車を開発したそうですが、こういった人たちのたゆまぬ努力が今回の件で一瞬にして水泡に帰したと思うと複雑な思いです。
(参考:Automotive News Europe)