今回の【試乗評価】は「3代目 マツダ MPV 23S」。
2006年から2016年まで10年に渡って販売されていたMクラスの5ドア・ミニバン。現在、販売、生産ともに停止されており、今後もMPV後継車種の開発計画はありません。
この3代目マツダMPVは、その完成度の高さとは裏腹に販売成績自体は今ひとつでした。
その後、MPVの製造販売を停止したマツダは、3列シート7人乗りのSUV「マツダ・CX-8」を発売します。
ミニバンは日本市場ではドル箱的存在ですが、その分、ライバルとの競争は熾烈を極めます。マツダはこの激戦区をあえて避け、多人数乗りのクロスオーバーSUVで代替。同時に上質でスポーティな企業イメージを訴求する戦略を取ったことになります。
このライバルの裏をかく戦略は成功すれば実りも大きいのですが、逆に失敗すればダメージがでかいです。個人的にはこの戦略が成功して、マツダにはちょっと上質でスポーティなプレミアムメーカーになってもらいたいと思っています。
※じっくり読む時間の無い人は、文末の「【試乗評価】のまとめ」をどうぞ↓
「3代目 マツダ MPV 23S」の概要
1988年に登場した「初代マツダMPV」は、FRをベースとするプラットフォームに普通のヒンジドアを装備した、クロスオーバーSUV的な成り立ちの車です。メインマーケットのアメリカで大ヒットを記録し、日本でもそこそこの台数を売り上げていました。
1999年にモデルチェンジした「2代目マツダMPV」は、初代のコンセプトを大きく転換。FFプラットフォームに両側スライドドアを装備する、普通のミニバンに生まれ変わっています。
2006年に登場した「3代目マツダMPV」は、その2代目のコンセプトをそのまま継承したキープコンセプトモデルです。
一回り拡大したボディに、低床&ロングホイールベースを実現。スポーティな走りと使い勝手の良さを両立しています。
搭載されるエンジンは、アテンザなどと同じ「2.3リッター自然吸気エンジン」と「2.3リッター直噴ターボエンジン」の2種。自然吸気エンジンには5速AT、ターボエンジンには6速ATが組み合わされます。
2008年にマイナーチェンジを実施。内外装のアップデートと共に足回りの再セッティング、および自然吸気エンジン用トランスミッションの変更が行われました。
外観
ボディサイズ、全長4860mmX全幅1850mmX全高1685mm。ホイールベース、2950mm。
低床プラットフォームを活かした、伸びやかでスポーティなスタイリング。
僕は初代オデッセイのようなロールーフミニバンが好きなんですが、このMPVにもオデッセイに負けないカッコよさがあります。
フロント
ローアンドワイドなフロントノーズに、特徴的な扇形ヘッドライト。品良くクロムメッキをあしらったフロントバンパー。
重厚感と硬質感。スポーティなカッコよさが上手くバランスしています。こんなに格好いいのに何で絶版となったのか不思議で仕方ありません。やはり販売力とかイメージの差でしょうか。
サイド
低いルーフとロングホイールベースを活かした、伸びやかでスポーティなサイドビュー。
ステーションワゴンとミニバンの中間のようなスタイリングで、なかなか格好いいと思います。
マツダは現在、ダイナミックな動きを表現した「魂動」というデザインフィロソフィーを展開していますが、このMPVには「魂動」とは一味違うカッコよさ、「硬質感」や「重厚感」が表現されています。
リア
小さく絞り込まれたリアウィンドウに、緩やかにラウンドするヒップライン。ワイドに広がるリアコンビランプ(クリアレンズ)。
ロールーフミニバンならではのスポーティなカッコよさと上質感は、現行型オデッセイと比較しても遜色はありません。
MPVは不人気で絶版となったモデルですが、その分、オデッセイなどと比較すると中古車価格はこなれています。この格好いいスタイリングとスポーティな走りを安く購入できるなら、なかなかコストパフォーマンスは高いと思います。
内装
プラスチッキーな樹脂にペタっとしたした質感のガーニッシュ(シルバー塗装)。シンプルでまとまりの良いデザインですが、「魂動デザイン」以前の古臭さがあります。設計が10年以上も前ですので、このあたりは仕方ありません。
センタークラスター最上段には、走行距離や時計を表示する薄型液晶ディスプレイ。その直下にはナビゲーションなどを表示する大型液晶ディスプレイ。
中断にあるエアコンユニットは、大きなダイヤル式で操作のしやすいデザインです。最下段にはインパネシフトを設置。センタートンネルがフロアにつながらないので、助手席への移動も簡単。
ラウンドしたフロントノーズと低いドライバーポジションによって、運転席からフロントノーズは見えません。それでもドライバーポジションが適正なので、比較的運転のしやすい車です。
シート
フロントシート周りの空間が大きく、シート自体の作りも大柄。容量のあるクッションには適度なコシが与えられ、表皮の柔軟性も申し分ありません。長さの適正な座面に大きな背もたれ、適正なサイドサポート。肩周りから腰、太ももの裏にかけて適正な圧力でしっとりと支えます。
僕が20代の頃、初代MPVの試乗にディーラーに行くと「硬いほうが疲れないんですよ」と営業マンに言われたことがあります。当時の日本車は、フカフカの柔らかいシートが全盛でしたので、「確かに硬いシートは気持ちいいなあ」と目からウロコだったことを思い出します。何が言いたいかというと、「当時からマツダは先進的なシートづくりをしていた」ってことです。
セカンドシート周りにも十分な空間を確保。オプションで「スーパーリラックスシート」を選ぶと、大きな前後スライド量とオットマン(足枕)が装備されます。通常は左右に独立したキャプテンシートですが、横方向にスライドさせると合体して3人掛けのベンチシートとなります。ただし、シートのサイズが大きくなるわけではないので、3人座ると窮屈です。座り心地は快適で、長距離ドライブも苦になりません。
サードシートは小ぶりで形も平板。頭上、足元空間も狭く、多少の窮屈感を伴います。ただし、クッション自体の質感は良く、表皮にも十分なしなやかさがあります。中距離(30km)程度なら問題ありません。緊急用シート以上、フルサイズシート未満といったところでしょうか。
荷室
ボディサイズの割に荷室容量は小さめ。ただし、高さ方向に余裕があるため、積み方を工夫すれば4人家族で1泊旅行くらいは可能です。
さらにリアシートの背もたれを6:4で分割して倒せば、フラットで大きな荷室が出現。床下には大きなサブトランクもあります。
静粛性
静かなエンジンと回転を低く抑えるトランスミッションのおかげで、静粛性は高いです。
エンジンとミッション
2260cc・直列4気筒DOHCエンジンに、5速ATが組み合わされます。
エンジンは最高出力163ps/6500rpm、最大トルク20.7kgf・m/3500rpm。
車両重量1760kg。JC08モード燃費、11.0km/l。
エンジン
アテンザにも搭載される、2.3リッターのツインカムエンジンで前輪を駆動(FF)。低い回転からフラットなトルクを発生するトルキーなエンジン。車両重量は1.76tと結構な重さがありますが、街中でスムーズに走るくらいならこの自然吸気エンジンで不足はありません。
エンジンフィールも素晴らしく、アクセルを踏み込むと鋭いレスポンスで軽快に吹け上がります。加えて街中ではノイズ、バイブレーションともにしっかりと抑え込まれているのですから言うことありませんね。
トランスミッション
トルコン式の5速AT(MTモード付き)を装備。
モデルチェンジ当初、4速だったトランスミッションは、マイナーチェンジを期に5速ATにアップデート。シフトショックが少なく、スムーズでダイレクトな変速フィールが気持ち良いです。多段化によって巡航時のエンジン回転も低く抑えられ、燃費や静粛性が向上しています。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはマルチリンク式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、215/65R16。
重厚感の中にもしっかりとした芯のある快適な乗り心地。ターボ版はこれよりもさらにスポーティな味付けですが、快適性とハンドリングのバランスが取れているのは自然吸気版です。
マイナーチェンジによって、ボディ剛性とサスペンションの取り付け剛性が向上。引き締まった印象を強めています。
目地段差では多少ゴツゴツと路面の衝撃を拾いますが、不快な鋭さは伴いません。
高速域での安定性も高く、フラットな姿勢を維持して直進。一体感が高く疲れにくいです。
ハンドリング
大柄なミニバンとしては、自然なハンドリング。ドライバーの操舵に正確に反応して、イメージしたラインを拡大させにくいです。
ロールーフ&低床設計によって、コーナリング中も安定した姿勢を維持。多少のロールを伴いながら、しっかりと外側のタイヤをグリップさせます。いわゆる粘り腰のセッティングです。
ロールを伴うといっても、姿勢変化が穏やかで予測しやすいため一体感は高く不安を感じさせにくいです。
最小回転半径は、5.7m。日本の道路事情を考えると5.5m以内に抑えたいところですが、ホイールベースの長さを考えるとまずまずのレベルでしょう。
先進安全技術
衝突を予測して回避もしくは被害権限をはかる「プリクラッシュブレーキ」、先行車との間に適切な距離を保ちながら設定した速度で追従する「レーダークルーズコントロール」をオプションで設定。
【試乗評価】のまとめ
「3代目 マツダ MPV 23S」は、2006年から2016年まで製造販売されていたMクラスのミニバン(5ドア)です。
スポーティな走りとミニバンとしての使い勝手を両立するため、低い全高と一回り大きなボディを採用しています。
そのおかげでハンドリングは素直でコーナーでの姿勢も安定。室内には広々とした居住空間が広がります。何よりもロールーフとロングホイールベースを活かしたスタイリングは超格好いいです。クラスと良い、走りを重視したコンセプトと良い、個人的には「4代目までのオデッセイに近いコンセプトだなあ」と感じました。
1.7t以上の重量級ボディに少々非力な2.3リッター自然吸気エンジンが組み合わされますが、街中で普通に流すだけなら不足は無いでしょう。「いや俺はもっとガンガン飛ばしたいんだ」という走り屋上がりの人には、よりスポーティな「ターボ版」がオススメです。
乗り心地も重厚感あふれるしなやかなフィールで、ボディ剛性の強化によってスッキリとした印象を強めています。
「家族が増えたので多人数乗りのMクラスミニバンを探しているが、スポーティな走りや格好いいスタイリングも捨てられない」なんて人に最適な車だと思います。
中古車市場では
2015年式「3代目 マツダ MPV 23S」で150万円前後(2018年8月現在)。
新車価格
2,824,200円(消費税込み)