今回の【試乗評価】は「BMW 3シリーズ 320d Luxury(F30・6代目)」。2012年から2019年まで製造販売されていた、Mクラスの4ドアセダンです。この他に「ツーリング」と呼ばれるステーションワゴン(5ドア)もあります。
1975年に登場した初代3シリーズは、今の3シリーズと比べるとだいぶ小さくて、プレミアム感も今ひとつ。その代わり、小さなボディによるスポーティな身のこなしが魅力でした。それから40年以上が過ぎ、3シリーズも随分大きく立派になったもんです。
「320d」は、そんな「6代目3シリーズ」にラインナップされるグレードで、パワーユニットには新世代「クリーンディーゼル」を使ってます。
ディーゼルエンジンと聞くと、昔は「燃費は良いけど、ちょっとうるさいよね」って感じでしたが、新しい3シリーズに搭載される「クリーンディーゼル」は違います。ディーゼルエンジンならではの燃料の安さや優れた燃費性能、トルクフルな走りといったものは残しながら、ガソリンエンジンに近い静粛性や臭いの少なさ、排ガスのクリーン化まで実現してるんです。
僕も、初めて「3シリーズにディーゼルが搭載される」と聞いた時は、「スポーティな3シリーズにディーゼルは合わないよなあ」と思いましたが、今では3シリーズを代表するグレードに成長してます。その比率はセダンで過半数、ツーリングに至っては大多数を占めるんですから、「3シリーズにディーゼルは合わない」なんて考える方が少数派ですね。
ガソリンエンジンを搭載する「BMW 320i M Sport(F30・6代目)」については、下のリンクからどうぞ↓
「BMW・3シリーズ 320d Luxury(F30・6代目)」の概要
「320d」は、6代目となった「3シリーズ・セダン」のクリーンディーゼルエンジン搭載車。この他に、スタンダードな「ガソリンエンジン」や、パワフルな走りと優れた燃費性能を両立した「ハイブリッド」もあります。
クリーンディーゼルエンジン搭載車は、ドイツ本国向けグレードとして「316d」と「318d」、「320d」の3グレードがあります。搭載されるエンジンはすべて「2.0リッター直列4気筒DOHCディーゼルターボ」で、グレード名に含まれる数字は排気量じゃなくて動力性能の大きさを表してます。要は、セッティングや補機類の違いだけで動力性能を変化させているんです。このうち日本市場に導入されてるのは、「320d」の一種のみ。320dのトルクフルな走りを考えると、「318d」とかでも十分使えそうな気がします。
「Luxury」グレードは、装備を充実させた豪華仕様です。その他に、標準的装備のみの「スタンダード」、スポーティな内外装を与えられた「Sport」、BMW謹製のスポーツ部門「BMW M」が手がけた専用エアロや足回りを装備する「M Sport」があります。
プラットフォームなど
基本となるプラットフォーム(車台)は、先代のアーキテクチャーを少しだけ拡大して流用。これに、前、ダブル・ジョイント・スプリング・ストラット式サス、後、5リンク式サスを組み合わせてます。
ライバルは
ライバルは、「メルセデスベンツ・Cクラス」や「アウディ・A4」などのプレミアムなMクラス・セダン。その中で「BMW・3シリーズ」は、スポーティな乗り味に特徴があります。といっても他のライバルもスポーティ路線に寄せてきているし、3シリーズ自身も安定化傾向を強めているので、かつてのような強い個性というのは無いです。
マイナーチェンジ情報
2015年にマイナーチェンジ。内外装の小変更と足回りの見直し、同時に直列6気筒エンジンを搭載する新グレード「340i」が追加されました。
2016年に一部改良。「320d」に搭載されていた従来型クリーンディーゼルを、モジュラー思想で設計された新型クリーンディーゼルに換装してます。スムーズで緻密な制御を行う8速ATとの相性も抜群で、最高出力で190ps(+6ps)、最大トルクで40.8kgf・m(+2kgf・m)、JC08モード燃費においては21.4km/l(+2.1km/l)と、全ての数値が良くなってます。
外観
ボディサイズ、全長4645mmX全幅1800mmX全高1440mm。ホイールベース、2810mm。
フロント
低く身構えたフロントノーズに、デザインの変更されたLEDヘッドライト。薄くワイドなキドニー・グリル。グリルとヘッドライトが一直線にレイアウトされた、精悍なフロントフェイスです。
「Luxury」グレードには、直線基調のデザインに上質なクロムメッキパーツをあしらった「専用フロントバンパー」が装備されます。
サイド
疾走感を感じさせる前傾姿勢のフォーム。FRレイアウトを生かした、ロングノーズ&ビッグキャビンのスタイリングが美しいです。このノーズの長さを見ると、設計段階からすでに「直6化」想定されていたのが分かります。
リア
傾斜の強いリアウィンドウ。ハイデッキ化されたヒップライン。大地を踏みしめるように拡がるリアフェンダー。今にも走り出しそうな力強い後ろ姿です。
内装
がっしりとした素材感の樹脂に木目パネル、メタリックパーツを組み合わせた上質な室内。使い勝手の良い合理的なレイアウトで、ドライバーオリエンテッド(運転手優先)なBMWの伝統がしっかりと継承されています。
メーターナセルには大型二眼メーターを装備。視認性の高いくっきりとしたグラフィックで、長距離ドライブでも疲れにくいです。
センタークラスター最上段には、ナビ情報などを表示するフローティング・ディスプレイをレイアウト。エアコンは手探りでの操作がやりやすいダイヤル式。
「Luxury」グレードにはツートンの内装色がありますが、明るいベージュとブラックの組み合わせは開放感が高く、「Luxury」の上質な正解感にピッタリです。
よくBMWの内装はプレミアムカーにしては質感が低いと言われますが、実際はそうでもありません。ゴツゴツとした素材感の樹脂と、上質な木目パネルやメタリックパーツが組み合わされ、かえって力強い信頼感を感じさせます。
さらに「Luxury」グレードには本革シートが標準で装備されますから、上質な雰囲気は3シリーズの中で一番です。
シート
フロントシートは、柔軟性のある表皮にコシのあるクッションを組み合わせた快適なシート。座面の長さも適切で、大腿部を面の力でしっかりと支えます。肩まわりから腰に掛けてのサポートも充分で、腰だけに体圧が集中する事はありません。
リアシートはやや平板な形状で、ストロークも前席よりは少なめ。ただし表皮には適切な柔軟性があり、快適性は上々。足元、頭上空間にはゆったりとしたスペースが確保され、大人二人で座っても窮屈感はありません。
荷室
Mクラスセダンにふさわしい広々とした荷室。ややリアサスの張り出しが大きいものの、形がスクウェア(四角)で奥行きや高さがあるため使い勝手が良いです。開口部が広くトランクリッドが大きく開くため、荷物の出し入れも楽々。リアバンパーの下に足先を入れると、自動でトランクリッドを開閉する「トランク・リッド・スマート・オープン機能」も装備。荷物で両手が塞がっている時に便利な機能です。
静粛性
マイナーチェンジによって静粛性能が向上しています。アイドリング時は若干ノイズを感じさせますが、一旦走り出せばほとんど気になりません。厚いガラスと遮音材によってプレミアムセダンにふさわしい高い静粛性能を与えられています。
エンジンとミッション
1995cc・直列4気筒DOHCディーゼル・ターボエンジンに、8速ATが組み合わされます。
エンジンは、最高出力190ps/4000rpm、最大トルク40.8kgf・m/1750-2500rpmを発揮。
車両重量1550kg。JC08モード燃費は、21.4km/l。
エンジン
2.0Lのディーゼルターボで後輪を駆動(FR)。
低速からぶ厚いトルクを発生するパワフルなエンジン。アクセルを軽く踏むだけで充分なパワーを発生するため、低中速域を多用する市街地では扱いやすいです。出足もスムーズで1.5t余りの重量級ボディを軽やかに押し出します。
急な坂道や合流ポイントでも力不足を感じることはありません。流れをリードしてグイグイと加速していきます。ただし、このディーゼルエンジンは低速トルクを重視したセッティングです。高回転域まで回しても燃費が悪化するだけで大した伸びは期待できません。
アイドリングストップが装備され燃費性能を向上させていますが、エンジンの再始動では「ブルッ」と振動を感じさせます。ディーゼルエンジンとしては充分静かな部類ですが、マツダのディーゼルエンジンほどではありません。
トランスミッション
トルコン式の8速ATを装備。ぶ厚い低速トルクを活かして最適なギアを選択。低い回転を保ってスムーズに加速していきます。ロックアップ領域が広く、ダイレクトな走行フィールが気持ち良いです。
乗り心地とハンドリング
前輪にダブルジョイント・スプリング・ストラット式サスペンション、後輪には5リンク式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは225/50R17。
重厚感を伴ったしなやかな乗り味。重いディーゼルエンジンをフロントミッドシップに搭載しているため、ガソリン車より若干乗り心地が良いです。
硬いボディによく動くサスが組み付けられ、路面からの衝撃は「まろやか」に緩和されます。不快な振動を車内に伝えません。
高速域での安定性も高く、フラットな姿勢を維持してヒタヒタと走り抜けます。運転による疲れを感じにくいです。
ハンドリング
パワーステアリングは若干重め。ドライバーの操舵に正確に反応して、スッと鼻先をコーナーの出口に向けます。イメージしたラインを外しにくい、まさにオンザレール感覚のハンドリング。雑味の無い素直なステアリングフィールが気持ちいいです。
最小回転半径、5.4m。
その他
最新の先進安全技術を標準装備。
予防安全技術として、「衝突回避・被害軽減ブレーキ」や「レーン・ディパーチャー・ウォーニング(車線逸脱警告システム)」、斜め後方の死角から接近する車を検知して警告する「レーン・チェンジ・ウォーニング」といった技術を。
レーンディパーチャーウォーニング(車線逸脱警告システム) 車線逸脱を警告
レーン・チェンジ・ウォーニング 斜め後方 ステアリングアシスト 警告
前車接近警告機能 前車の接近を警告 ブレーキ操作をアシスト
衝突回避・被害軽減ブレーキ 衝突を予測して回避 被害軽減 自動ブレーキ
運転支援技術として、一定の車間を維持して前車に追従する「アクティブ・クルーズ・コントロール(ストップ&ゴー機能付き)」や、ステアリングの動きに合わせてヘッドライトの照射角を調整する「アダプティブLEDヘッドライト」を装備しています。
【試乗評価】のまとめ
「BMW 320d Luxury(F30・6代目)」は、しなやかな足回りにパワフルなクリーンディーゼルを組み合わせたMクラスの4ドアセダン。引き締まった乗り味を持つ「M Sport」とはまた違った上質感や走りの楽しさがあります。
エレガントなスタイリングを維持しながらも、室内容量は広々。大人4人でゆったりと座れるスペースを確保しています。荷室容量も大きく、仕事から週末のドライブまで柔軟な活躍が期待できます。
「燃費とパワーを両立させた高級セダンが欲しい」とか、「使い勝手の良さを維持しながらも、カッコ良さや走りの楽しさも諦めきれない」といった人に最適な一台です。
中古車市場では
2017年式「BMW 320d Luxury」で300万円前後。2015年式で150万円〜250万円(2020年3月現在)。
新車価格
6,020,000円(消費税込み)