アメリカは国土が広大で公共交通機関がそれほど発達していないため、世界有数の自動車大国となっています。
一部の都市居住者は別にして、多くのアメリカ国民は自動車を所有していないと、普通の生活もままならないほどです。そのため、一年に売れる自動車も日本と比較すると膨大な数にのぼります。
新車がどんどん売れるという事は、その裏で膨大な数の古い車が廃車になっているという事でもあります。
この廃車を正規のルートを使って合法的に処分してもらえるのなら、それほど大きな問題とはなりませんが、中には処分費用を浮かせるため、または単に面倒くさいという理由から、違法に放置するユーザーや業者が跡を絶ちません。
シカゴ市の事例
例えばアメリカの都市シカゴでは、1988年に5万台以上の放置車両を記録しています。
困った当時のシカゴ市長は、「処分場まで車を持ってきてくれれば、一台につき25ドルをプレゼントする」という大胆なアイディアを実行します。
廃車を持っていくだけで25ドルがタダで手に入るのですから、先を争って廃車が集まるはずという目論見です。
ところが蓋を開けてみるとこの試みは見事に外れ、ほとんど効果がありませんでした。多くのユーザーは、25ドルよりもわざわざ手続きを踏んで処分場まで持っていく手間を惜しんだという訳です。
加えてアメリカでは、中古車の個人売買が盛んです。友人、知人間で中古車を売買する時、わざわざ所有者名義を書き換える人が少なく、それにともなって正規の処分を難しくしているという問題もありました。
市長が思いついた苦肉の策とは?
困り果てたシカゴ市長は、個人や業者から直接処分場に持ち込んでもらう事を諦め、民間のレッカー業者に委託するアイディアを思いつきます。
市は廃車の処理で年間200万ドルの経費を使っていました。これを民間に委託する事で、経費を大幅に削減しようという試みです。
具体的には6ヶ月の期間を区切り、レッカー業者が路上で見つけた廃車を処分場まで運びます。そこで一台に付き25ドルを市に対して支払いますが、廃車を処分して儲けたお金は全部業者の懐に入れていいというものです。
この市長が頭を振り絞って考えた苦肉の策ですが、「市に対して25ドル支払う」というのがどうも引っかかります。元々ユーザーに対しては25ドルを支払っていたのですから、せめて業者には無料としてあげても良かったのではないでしょうか?
実際このアイディアは大した効果を上げることができず、シカゴ市の廃車問題はその後も一向に改善しなかったという事です。
廃車と言っても、日本の廃車とは程度が違う
ちなみにこの廃車、日本でよく見かけるような、ちょっと整備すれば走りそうな程度のものではありません。
アメリカでそんな程度の良い中古車が路上に放置されていれば、あっという間に車ごと持ち去られるか、バラバラにされて目ぼしい部品を片っ端から持って行かれる事になります。
アメリカで路上に放置されている廃車は、まさしくボロボロの自走不能車。使い倒してクタクタとなったゴミクズのような車の事なのです。