中国の消費者の間では「日本車はコストを削減するためにボディ外板が薄くつぶれやすいので、大きな事故の際はとても危険だ」という話がまことしやかに語られているそうです。
そのため、富裕層の間ではボディ外板の厚いドイツ車が好まれているという話まであります。
この話は半分正しく、半分間違っています。
ボディは硬いだけではダメ
事故で車がぶつかった際に乗員をその衝撃から守るには、ボディをただ硬く頑丈にするだけでは不十分です。ちょっと想像してみてください。頑丈な構造の金庫の中に入って2階から1階へ落下する時、いくら金庫が無傷であっても中の人間には大きなダメージが及びますね。
これと同じ様に、自動車の構造も闇雲に頑丈であればいいという訳ではありません。事故の衝撃を吸収してくれる別の構造が必要なのです。
しなやかに衝撃を吸収する「クラッシャブルゾーン」
そこで考え出されたのが「クラッシャブルゾーン」という発想のボディ構造です。
この「クラッシャブルゾーン」では、事故の際にボディに大きな衝撃が加わると、エンジンルームやトランクスペース、ドアの内部構造などは事故の大きな衝撃を吸収するために比較的簡単につぶれていきます。
逆に乗員が乗っているキャビンスペースは強固な構造で守られており、ちょっとやそっとの衝撃ではつぶれないように頑丈に設計されています。
この強固なキャビン構造の上で無くてはならないのが、強固なサイドシル、頑丈なAピラー、そこから連続するしっかりとしたルーフ構造です。
ボディの二重構造で乗員を守る
この二重構造のおかげで自動車は外からの衝撃をしなやかに吸収し、乗員の命をしっかりと守る事が出来るようになります。
つまり、最初の中国の件に話しを戻すと、「ボディ外板がつぶれやすい」という話は本当ですが、それによって「乗員に危険が及ぶ」というのは間違った情報という事になります。
ドイツ車も同様のボディ構造を持つ
これはドイツ車においても同様で、メルセデスベンツではさらにCピラーの結合部の強度を上げ、加えてAピラーの中にもう一つの内部ピラーを内蔵することでさらにキャビンの強度を上げるといった工夫が行われています。
ドイツ車と肩を並べる日本車の安全性能
だからといって「やっぱりドイツ車の方が安全なのか」と考えるのは性急すぎます。自動車の安全を測るテストとして世界的に有名なアメリカの「IIHS(道路安全保険協会)」の行う衝突テストでは、メルセデスベンツCクラスよりも日本車のホンダアコード、スズキキザシ、スバルレガシィの方が優秀な結果をたたき出した事があります。
これは「スモールオーバーラップ」といわれる新しい基準の衝突テストで、メーカーも事前にこのテストの概要を知ることが出来なかったため、多くのメーカーが低スコアの結果に終わりました。しかし日頃から安全技術をコツコツと積み上げていたホンダ、スズキ、スバルは、そもそも社内の独自基準を元にボディを設計していました。そのため基準が変更されても優秀な結果でテストをパスする事ができたのです。
もちろんこの後に発売された新しいメルセデスベンツCクラスは、同様のテストを優秀な成績でパスしています。ここで言いたいのは、「ドイツ車の方が安全性が高いとか」、「いやいや日本車のほうが安全だ」といったことではなく、日本車はすでにドイツ車と肩を並べるほどの高い安全性能を獲得しているという事です。