今回の【試乗評価】は「新型ダイハツ タント カスタム RS トップエディションSA Ⅲ(3代目)」。
2013年にフルモデルチェンジした、軽自動車のスーパーハイト系ワゴン(5ドア)です。
昔の軽自動車は屋根が低く、とっても狭苦しい車でした。このイメージを変えたのが初代「ワゴンR」で、軽自動車の限られた枠を守りながら、ボディを高さ方向に拡大することによって、広々とした室内を実現していたんです。
この革新的なコンセプトを、さらに拡大したのが初代「ダイハツ・タント(2003年)」。それまで、1600mm台に抑えられていた全高を一気に1700mmまで拡大して、「ワゴンR」や「ムーブ」以上の広大な室内空間を作り上げていました。
市場での販売も好調で、その後、「スズキ・スペーシア」や「ホンダ・N-BOX」といったライバルが登場するキッカケにもなってます。
全高の高さは室内の広さだけじゃなくて、見た目にも堂々とした感じを与えます。軽自動車なんで諸費用や税金が安いってのも人気の秘密です。最近の軽自動車は作り込みがすごくて、質感だけならコンパクトカーに迫るもんがあります。ただし、その分、価格は高めで、グレードによってはコンパクトカー並みか、それ以上なんてことも珍しく無いです。
「新型ダイハツ タント カスタム RS トップエディションSA Ⅲ(3代目)」の概要
2007年に登場した「2代目ダイハツ・タント」は、そんな初代のコンセプトを受け継ぐキープコンセプトモデル。右側前後には普通のヒンジ式ドアを、左側にはセンターピラーをスライドドアに内蔵した、前ヒンジ、後ろスライドドアを採用していました。つまり、前ドアと後ろドアの間にある柱(ピラー)が無いんで、乗り降りが非常にしやすいんです。子どもや手荷物、ベビーカーなどの乗り入れが楽ということで、子育て世代のママに絶大な人気がありました。
そんな好調も長く続かないのが商売の難しいところで、ホンダからも同じジャンルの車「N-BOX」が登場。ここで「軽自動車販売台数1位」の座を奪われてしまいます。「N-BOX」はホンダならではのクラスレス感がありましたし、後出しの有利で完成度自体も高かったんで、まあ、この結果は仕方ないですね。
今回の「3代目ダイハツ・タント」は、そんな「N-BOX」からトップの座を奪い返すべく企画された、ダイハツ渾身の「スーパーハイト系ワゴン」です。
先代よりもさらに広々感と使い勝手の良さを向上させつつ、ミライースで導入された燃焼技術を投入。同時に軽量化や空気抵抗も良くして、NAエンジンのFF(前輪駆動)で「28.0km/l」の燃費を達成してます。
「タント・カスタム」とは
「タント・カスタム」は、ベースモデルの「タント」に、エアロバンパーやグリル(メッキ)をおごったメーカー純正のカスタマイズモデルです。押し出し感の強い外観や、後付で社外パーツを付けるよりは手軽で信頼性も高いということで、若い世代を中心に結構な人気があります。今や、ミニバンや軽自動車を中心にど定番となっているモデルバリエーションです。
ライバルは「軽スーパーハイト系ワゴン」
ライバルは「ホンダ・N-BOX」や「スズキ・スペーシア」などの、軽自動車「スーパーハイト系ワゴン」。
2015年にマイナーチェンジ
2015年にマイナーチェンジ。内外装の小変更とともに、先進安全技術「スマートアシスト」のアップデートを実施。赤外線レーザーだけで検知していたシステムを、単眼カメラとの併用式に変更してます。それに伴って、システムの名称も「スマートアシストⅡ」になりました。
2016年。先進安全技術がさらに進化して「スマートアシストⅢ」にバージョンアップ。2つのカメラと赤外線レーザーとの併用式になってます。「衝突回避支援ブレーキ(歩行者と車輌に対応)」や車線からのはみ出しを防ぐ「車線逸脱警報」、アクセルの踏み間違いを防ぐ「誤発進抑制制御(前後)」、「先行車発信お知らせ機能」、対向車を検知してハイビームを自動で切り替える「オートハイビーム」も付いてます。
外観
ボディサイズ、全長3395mmX全幅1475mmX全高1750mm。ホイールベース、2455mm。
軽自動車の規格を限界まで使い切った、道具感あふれるシンプルなスタイリング。大ヒットモデル、「初代ホンダ・N-BOX」を徹底的に研究して設計しているため、その外観もなんとなく似ています。
似ているといっても、それぞれのメーカーによって「クルマづくりに対する考え」に違いがあり、それがスタイリングにも微妙な違いとなって表れています。
「N-BOX」にはクラスレスな魅力があり、我慢して軽自動車に乗っているという感じがありません。対する「タント(ベースモデル)」は、日常的な生活感とか親しみやすさといったモノを感じさせます。
フロント
短く角ばったフロントノーズに、ゴージャスな専用メッキグリル。段差の付けられたシャープなヘッドライト。ダイナミックな専用フロントバンパーを装備。
のんびりとした表情を持つ「タント(ベースモデル)」に対して、「タントカスタム」には厳ついエアロパーツやメッキモールドが施され、ちょいワル風のカッコよさを演出しています。
サイド
ライバルとなる「N-BOX」は、エンジンルームを縦長にする事で、エンジンルームの前後長を短く抑制して「なるべく室内空間を長くする」というパッケージング手法。
その分、フロントフード(エンジン上のパネル)が高くなるため、それに合わせてショルダーライン(サイドウィンドウ下端)の位置も上がります。その結果、サイドウィンドウの面積は「タント」よりも狭くなりますが、これが「N-BOX」の個性な魅力を形作っているのも事実です。
対する「タント」は、従来通りのエンジンレイアウト。室内の前後長は若干短くなりますが、グラスエリアのもたらす開放感は「N-BOX」を上回ります。
タントの側面パネルには、キャラクターラインが深く刻まれますが、「N-BOX」はツルンとしたシンプルな面処理。さらに「N-BOX」は力強いフェンダー(タイヤ周辺のパネル)処理ですが、「タント」のフェンダーはいたってシンプルな形状です。
Aピラー(一番前の柱)の角度にも違いがあり、ほぼ垂直に切り立つ「N-BOX」に対して、「タント」は若干後継気味。これがタントの親しみやすさにも繋がっています。
このように、遠目ではよく似ているように見える二車ですが、近づいてディティールを観察すると結構大きな違いがあります。
リア
低いショルダーライン(サイドウィンドウ下端)に、巨大なリアエンド。クリアレンズタイプのリアコンビランプ。ゴージャスな雰囲気あふれるガーニッシュ(メッキ)。厳ついエアロパーツが組み合わされ、腰でGパンを履いているようなルーズなカッコよさを演出しています。
内装
プラスチッキーなダッシュボードとメタルフィニッシャー。シンプルなラインで構成された使い勝手の良い室内。タントカスタムには大理石調(マーブル)パネルと本革調シート、本革巻シフトに加えて本革巻ステアリングが設定され、ぱっと見の質感は結構高いです。
切り立ったAピラーと大きなグラスエリアによって見晴らしは良好。アップライトなポジションと相まって、運転のしにくさはありません。
センタークラスター最上段には、大型センターメーター。その直下にはナビゲーションなどを表示するワイド液晶ディスプレイ。エアコンは、手探りの操作もやりやすいダイヤル式です。
「運転席トリプルシートバックポケット」や「ショッピングフック」、「後席クォーターポケット&ボトルホルダー」など隠れた部分にも豊富な小物入れを装備しています。
センターピラーを排除して大きな開口部を実現
内装関係で一番の特徴は、助手席側に装備される「ミラクルオープンドア」でしょう。前後のドアにセンターピラー(ボディ中央の柱)を内蔵することで、見かけ上のセンターピラーを排除。1490mmにもおよぶ大きな開口部を得ています。子供の乗り降りや、大きな荷物を積む時に重宝しそうです。
運転手側にもパワースライドドアが装備されますが、前後ドアの間にはセンターピラーが残ります。
死角を最小限に抑制
スーパーハイト系ワゴンはショルダーラインが高くボディも大きいため、軽自動車にしては死角が大きいです。
ただし、タントには通常のミラーに加えて「リア・アンダーミラー」や「サイド・アンダーミラー」を装備。加えてAピラー(一番前の柱)も細い二本の柱に分割されますので、死角は最小限に抑制されます。
シート
フロントシートは、厚みのあるクッションを組み合わせたベンチシートタイプ。適度な柔軟性があり、中距離(30km)程度なら快適に移動できます。
リアシートは、やや平板な形状でクッションも薄め。背もたれの高さも足りませんが、子供の送り迎えなど近場の移動に使うなら十分でしょう。広々とした室内空間に加えて、ロングスラド(240mm)&リクライニング機構も装備され、大人二人で座っても窮屈感はありません。
荷室
リアシートを一番後ろまでスライドさせると、荷物を積むスペースはほとんどありません。ただし、リアシートを前にスライドさせたり、5:5で折りたたむことによって自由にスペースを拡大することができます。
静粛性
街中ではそれなりの静粛性を維持していますが、高速域では風切り音やロードノイズが高まります。
エンジンとミッション
658cc・直列3気筒DOHCターボエンジンに、CVT(無段変速機)が組み合わされます。
エンジン:最高出力64ps/6400rpm、最大トルク9.4kgf・m/3200rpm。
車両重量960kg。JC08モード燃費、26.0km/l。
エンジン
0.7リッターのツインカムターボで前輪を駆動(FF)。低速から力強いトルクを発生してスムーズに加速。体感上の力強さは1リッター自然吸気エンジン並です。街中を普通に流すくらいなら、必要十分以上の動力性能を持ちます。
エンジンノイズ、バイブレーションともによく抑えられており、静粛性は高い。急な坂道でもそれほどノイズを高めること無く、スムーズに駆け上がります。
トランスミッション
ベルトとプーリーによって無段階に変速するCVTを装備。スムーズで実用的なトランスミッションです。エンジンの美味しいところを引き出して、どの速度域からも柔軟に加速力を生み出します。
普通に街中を流す程度なら、エンジン回転だけが先行して高まる「ゴムバンドフィール」も最小限。違和感の無いシフトフィールです。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、165/55R15。
背の高いボディを安定させるため、乗り心地は少し硬め。路面の段差を拾いやすく、低速域ではゴツゴツと衝撃を車内に伝えますが不快なレベルではありません。適度に引き締まったしなやかな乗り味です。
高速域の安定性は意外に高く、比較的まっすぐな姿勢を維持して直進します。背が高いため、さすがに横風の影響は受けやすいです。
ハンドリング
背の高いボディを安定させるため、リアの接地性を高めてあります。その結果ステアリングの反応は鈍くなりますが、操舵に対する車体の動きは素直。速度を抑えて走れば自然な挙動で旋回します。
最小回転半径、4.7m。狭い場所を気にすることなく、簡単に切り返す事ができます。
その他
先進安全技術は、小型ステレオカメラを使った「スマートアシストⅢ」を搭載。衝突を事前に予測して回避、もしくは被害軽減をはかります。
【試乗評価】のまとめ
「新型 ダイハツ・タント カスタム RS トップエディション SA Ⅲ(3代目)」は、軽自動車の枠内で限界まで全高を高め、広々とした室内を実現したスーパーハイト系ワゴン。
トルクフルなターボエンジンにスムーズなCVTを組み合わせ、日常領域内では必要十分以上の軽快な走りをみせます。
背の高いボディを安定させるため、ハンドリングは鈍く乗り味も少々硬めですが、快適性は十分確保されており扱いづらさもありません。
ライバルの「N-BOX」を徹底的に研究して開発されているため、商品の総合力はそれなりに高いのですが、少々地味なイメージが原因となって「N-BOX」の後塵を拝しています。コスパや実用性を重視されがちな軽自動車でも、最終的にはイメージがモノを言うようです。
購入する時には、この微妙なライバル関係を利用してN-BOXと競合させてみてください。お得な価格提示を受ける可能性が高まります。
「子供の送り迎えに便利な軽自動車を探している」とか「たくさんの人や荷物の積めるセカンドカーが欲しい」といった人には最適な車となるでしょう。
ただし、室内の広いスーパーハイト系ワゴンといっても所詮は軽自動車です。長距離移動が多いという人には、ヴィッツやデミオなどのリッターカーをオススメします。
中古車市場では
2017年式「ダイハツ・タント カスタム RS トップエディション SA Ⅲ(3代目)」で150万円前後。2014年式「ダイハツ・タント カスタム RS トップエディション SA(3代目)」で100万円台前半(2018年6月現在)。
新車価格
1,749,600円(消費税込み)