このパンダは1980年に登場した、フィアットのベストセラーカーです。当時、経営危機にあったフィアットを立ち直らせ、その後20年近くも売り上げに貢献し続けました。
開発は外部スタジオのジウジアーロ率いる「イタルデザイン」が手がけました。1986年にビックマイナーチェンジが行われており、それ以前を「セリエ1」、それ以降を「セリエ2」と呼びます。
外観
外観と内装共に、ジウジアーロの手により仕立てられています。当時、経営状態の厳しかったフィアットの為に、平板なガラスと平板な鋼板を使って安く製造できるようにデザインされています。
箱形のシンプルな外観は「2CV」をモチーフにしており、一部の車種には2CVと同じキャンバストップが装備されていました。
軽自動車よりちょっと大きいだけの、なんの変哲も無い箱型デザインのように見えますが、よく見ると全てのラインと面が綿密に計算され尽くした美しいデザインです。
内装
内装もシンプルで素朴です。全ての物が必要なところにデザインされており、無駄な要素はありません。
眼前に広がるダッシュボードは、横一列に伸びたシンプルな棚のような造形です。メーターもシンプルで大きく見やすい合理的なデザインです。
全く高級感の無い単純な造形ですが、軽自動車のように貧乏臭くなることもなく、なんともいえないおしゃれな雰囲気を持っています。
プラスチックの素材をそのまま生かした小粋な内装デザインで、「イミテーションのアルミや木目」、「ビニールなのに本革風のシート」というような惨めな必死さはみじんもありません。
エンジンとミッション
1.1LSOHCエンジンに、CVTが組み合わされています。
このエンジンは「ファイアエンジン」と呼ばれ、コストを安くするため部品点数を減らし、全自動化された工場で造られていました。
このエンジンはちょっと踏み込むと、ガーガーとうるさいのですが、この軽いボディをキビキビと快活に走らせます。
試乗車はCVTですが、このエンジンをマニュアルミッションで運転すると楽しいだろうなと思います。
部品点数が少なく頑丈ですので、意外と壊れにくいです。また構造が簡単なので、壊れた時でも簡単に修理することができます。古き良き時代の趣を残す味わい深いエンジンです。
足回りとハンドリング
前輪にマクファーソンストラット式サスペンション、後輪にトーションビーム式サスペンションが装備されています。
キビキビしたハンドリングは、小気味好く楽しいフィールを持ちます。
ステアリングにパワーアシストはつきませんが、ボディが軽いので問題はありません。
乗り心地はさすがにドタドタしますが、それさえもパンダ独特の味のように感じてしまいます。
これはボディのバランスが優れていて、多少の揺れでも常に姿勢がフラットに保たれているからでしょう。
評価のまとめ
小さく安い車にもかかわらず、「出来るだけ豪華にできるだけ高級に見せたい」といった日本の軽自動車的価値観とは真逆の発想です。
「お金が無いのがそんなに恥ずかしいか?」といった感じで、「お金を使わなくても楽しく過ごせるよ」と言われているような気がしてきます。
今はどの車を選んでもそれなりの完成度で、これといった大きな欠点はありません。そういう時代だからこそ、車造りにはこのフィアットパンダのような、その車にしかない魅力という物が大事なんだと思います。
主要諸元
全長X全幅X全高 | 3405mmX1510mmX1485mm