現在のF1マシンは、前後左右に様々なエアロパーツが装備され、マシン自体がウィングのような働きをしています。
これに対してF1レース黎明期のF1マシンは、単純な葉巻型のボディにタイヤとエンジンを取り付けて走るという、まったく空力特性の考慮されていないシンプルなボディスタイルでした。
この単純な構造のF1マシンに、世界で初めて空力パーツを取り付けたのが、あの伝統ある名門F1チーム、フェラーリの開発した「フェラーリ312」です。
レギュレーションの改正によって生まれた「フェラーリ312」
1966年。当時のF1レースは新しいレギュレーションが発表され、各チームはこれに合わせて新しいボディを開発する必要に迫られます。そのレギュレーションとは、自然吸気エンジンなら3.0Lまで、ターボエンジンの場合は1.5Lに抑えるというものです。
フェラーリはこのレギュレーションに対応して、いち早く新しいマシンを開発します。それがフェラーリ312です。
といってもこのフェラーリ312が開発された当初は、他のF1マシンと変わらない単純な葉巻型ボディを採用しており、ウィングなどの空力パーツは一切装備されていません。
コーナリングスピードを大幅に向上させる「センターウィング」の発明
1968年。モナコGPでロータス49Bがリアスポイラーを装備すると、次のベルギーGPでフェラーリは、312のエンジン上部に大きなセンターウィングを装備します。つまり、このシーズンの312こそが、F1GPで初めてウィングを装備したF1マシンという事になります。
このセンターウィングは、コーナリングスピードを大幅に向上させるという事が分かり、あっという間に他のチームにも拡がります。
センターウィングの欠点
ただし、このセンターウィングには大きな欠点がありました。ダウンフォースを最大限に発生させるためには、ボディから遠く離れた場所にウィングを設置する必要があるのですが、そうするとウィングを支える支柱がすぐに折れて、コース上にウィングが落ちやすくなるのです。
当然ながら、コース上にこういった異物が散乱していると、マシンやドライバーは大きな危険にさらされる事になります。そこでF1GPを管理するFIAは、一時このセンターウィングを禁止、一時的にF1マシンからウィングが消えることになります。
現在のF1マシンの基礎となる「グランドエフェクトカー」が開発される
「ダウンフォースによってコーナリングスピードが向上する」ということが分かると、どうしてもそれを使いたくなるのが人情というものです。そこでFIAの規制に違反しない新しい空力パーツを考案したのが、ロータスの創始者コーリン・チャップマンです。チャップマンはマシン全体でウィングのような働きをする「ローラス72」を開発、センターウィングを使わずに大きなダウンフォースを得ることに成功します。
このロータス72のボディデザインも、他のチームへと進化しながら拡がり、飛行機のウィングを上下反転させたようなF1マシン「グランドエフェクトカー」へと発展していきます。
それからしばらくすると、このグランドエフェクトカーも「コーナリングスピードが速すぎる」と問題になり、FIAによって再び規制されることになります。それでもF1の技術者たちはダウンフォースの追求を止めることはありませんでした。規制に合わせる形で徐々に進化が進み、現在のF1マシンに装備されるウィングや空力パーツへと進化していったのです。