実のところ、F1マシンはマシンのパワー1000馬力に対して、あまりにも車重が軽いため(2017年シーズンは728kg)、それだけではタイヤのグリップ力が足りず、路面をしっかりと捉えながら走ることができません。つまり、最大のパワーをタイヤに掛けると、タイヤがスリップして効率良く走ることが出来ないのです。
こんな時に必要とされるのが、「ダウンフォース」といわれる力です。ダウンフォースとは「下向きの力」という意味ですが、この力をF1マシンに加えることで、タイヤに下向きの力が働き十分なグリップ力が得られるというわけです。
ダウンフォースを生み出す「ウィング」
といっても、ただ普通にF1マシンを走らせているだけでは十分なダウンフォースは得られません。
このダウンフォースを効率よく発生させるため、空気の力を巧みに利用してF1マシンを地面へと押し付けてやる必要があります。
そのためにF1マシンに施されている工夫が、リアウィングとかフロントスポイラーといった空力パーツの取り付けや、ボディ自体に施された矩形のスタイリングです。
その中でも代表的なパーツがウィングですが、これはその名の通り飛行機のウィング技術をそのまま使ったパーツです。ただし、飛行機のウィングが空気の力を使って浮力(上向きの力)を得ているのに対して、F1マシンに装備されるウィングの場合は下向きの力、ダウンフォースを発生させています。
つまり簡単に言ってしまうと、飛行機のウィングをF1マシンに装備する場合は、上下逆向きに付けているというわけです。まさに逆転の発想。シンプルながら、目のつけどころが素晴らしいですね。なかなか常人ではこういったシンプルな発想の転換こそ、かえって難しかったりします。
ダウンフォースの力は2Gから3G
といっても、ダウンフォースが強ければそれど良いという単純なものではありません。
ダウンフォースが強ければ強いほど、コーナリングスピードは早くなりますが、逆に直線では抵抗が増えて最高速度が遅くなります。かといって、ダウンフォースを小さくしすぎると、タイヤのグリップが足りず、速い速度でコーナリングすることができません。つまり、ダウンフォースの調整によって、コーナリングスピードと直線スピードの妥協点を見つけてやる必要があるのです。
その中で、現在のF1マシンが見つけ出した妥協点は、ダウンフォースにして2Gから3Gの間となる事が多いです。
3Gといえば自重の3倍の力ですから、728kgのF1マシンの場合は、その3倍の2184kgの力で地面に押さえつけられていることになります。つまり理論上では、天井を逆さまになったまま走る事も可能なわけです。ただし、この3GというダウンフォースはF1マシンが最高速度を出している時の力です。加速や停止、燃料補給、エンジン不調の可能性を考えると怖くて実験する人はいないでしょう。
もし実際にやるとしたら、インディ500のような巨大なオーバルコースを天井にした巨大な建物が必要になりますね。地面からスタートして十分な加速の後、オーバルコースに入ればスタートは何とかなりそうですが、減速しながらオーバルコースを脱出する時がかなり難しそうです。