普通の乗用車に使われるタイヤには、ドライ路面用のサマータイヤと、雪道で威力を発揮するスタッドレスタイヤがあります。
これに対してF1GPで使われるタイヤには、グリップ性能が落ちるものの耐久性の高い「ハードタイヤ」。高いグリップ性能の替わりに耐久性能の落ちる「ソフトタイヤ」。雨天の時に使われる「レインタイヤ」の3種類のタイヤがあります。
F1のタイヤサプライヤーは1社独占態勢
現在、F1ではタイヤメーカー1社により独占的にタイヤが供給されていますが、これは、タイヤの開発競争を避け、F1ドライバーの安全性を確保するためという目的があります。
2007年からは、日本のブリジストンがタイヤのサプライヤーとして活躍していましたが、2011年からはブリジストンが撤退、代わってピレリ社によって独占的にタイヤが供給されています。
こう聞くと、その時代における最高の技術を持ったタイヤメーカーが、F1サプライヤーの栄冠を勝ち取ってタイヤを独占的に供給しているように感じられます。しかし、実際には中々タイヤを供給してくれるメーカーが見つからず、ブリジストンからピレリに切り替わるときも、手を挙げるメーカーがおらず結構難航していました。
「ソフトタイヤ」と「ハードタイヤ」の両方を使わなければならない
ピレリはF1チームに平等かつ安定した品質のタイヤを供給するため、何種類かのタイヤを各チームに対して同じように用意します。それぞれのF1チームは、この中から「ソフトタイヤ」と「ハードタイヤ」をそれぞれ1種類ずつ選択して使用します。
また、レース中はこの2種類のタイヤを両方使うという規定がありますので、「どこでどのタイヤを使うのか」というのもレースの展開を分ける見どころとなっています。
例えば、「前半にソフトタイヤで一気にペースを上げて、後半はハードタイヤで逃げ切る」とか、逆に、「前半はハードタイヤで耐え忍び、後半の勝負どころでソフトタイヤを使って一気に巻き返す」といった具合です。
このあたりは、そのサーキットの特性や気候、マシンとの相性やドライバーの個性など色々な要素が絡みますので、チーム監督の腕の見せ所ともなっています。
タイヤサプライヤー1社による独占供給には、ある意味理不尽な面もある
各チームに同じ品質のタイヤが供給されるといっても、その基準は上位チームに合わせられます。つまり、上位チームはピレリに対してある程度の注文を出すことができますが、下位チームは供給されたタイヤにマシンの方を合わせるしか無いのです。
このように「タイヤサプライヤー1社による独占供給」というシステムは、上位チームほどさらにレース展開が有利になるという、なんとも理不尽なシステムなんですね。
レインタイヤの選択がレースの勝敗を分けることも
レインタイヤについては、雨脚が強い時のための「エクストリームウェザー」と、小降り用でタイヤ表面に溝のついた「インターミディエイト」の2種類があります。
雨脚が強くなるにつれて、タイヤのグリップは失われていきますが、こんな時は、どのタイヤをどこで履き替えるのか、タイヤ選択を間違えると大きくタイムを落とす事になります。
もちろん、ウェットともなればレインタイヤに履き替えた方がタイヤのグリップ力はある程度回復します。しかし、タイヤを交換するためにはピット作業のための時間が必要ですので、「多少の雨であればそのままノーマルタイヤで走り続けた方が有利」と考えるチームもあります。このあたりのさじ加減は、チーム監督の判断と共に、ドライバーの技量によっても大きく左右されます。
元F1ドライバーの中嶋悟は、「雨の中島」と呼ばれるほどウェットを得意とするドライバーでした。1989年のオーストラリアGPでは雨の中走り続け、マシン性能で上回る上位マシンを次々とかもり、見事4位入賞の栄誉を獲得しています。この当時のレースをニュースで見ていた秋ろーは、走りの素晴らしさに身震いを覚えたほどです。
こんなドライバーがチームにいれば、レインタイヤへの交換を遅らせて一気に上位陣をゴボウ抜きにする事が可能です。