F1マシンのコクピット前方には、小さな透明のスクリーンが装備されています(装備されていないマシンも多い)。しかしその面積は非常に小さく、前方からの雨は直接ヘルメットに叩き付けられています。これでは、「大雨の時は、前方の視界が極端に遮られて危ない」と少し心配になりますね。
しかし、そんな心配は無用です。このバイザーには撥水剤がしっかりと塗りつけてあり、バイザーに付着した雨は、F1マシンの超高速によって次から次へと後ろに吹き飛ばされる仕組みになっているのです。
つまりF1マシンの場合は、ワイパーや大きな風防が無くてもしっかりとクリアな視界が確保できるのです。逆に大きな風防やワイパーを装備すれば、「空気抵抗が増える」というデメリットだけが生じます。
バイザーの内側に発生する曇り
ただ、そういった普通の雨よりも厄介なのが、バイザーの内側に発生する「曇り」です。これは直接、風で吹き飛ばしたり、手で拭き取る事も出来ないため対策が難しいのです。
これについても最近は強力な「撥水剤」や「曇り止め」が開発されており、バイザーの裏に曇りが生じる心配は無くなりました。
前方の視界がほどんど無くなる恐怖の「ウォータースクリーン」とは
このように、ドライバーやマシンに直接付着する水分については、技術の発達と共に充分な対策が取られるようになってきました。
これに対して、ドライバーの前方に立ち上る「ウォータースクリーン」と呼ばれる水の壁は、技術的な対策だけではどうしようもありません。
このウォータースクリーンは、前方を走る他のマシンによって巻き上げられた水飛沫が原因となって発生します。そのため、この現象が発生するとドライバーの視界は極端に遮られることになります。
これに対応するには、ドライバーの長年の経験と動物的な勘に頼るしかりません。たとえば、コーナーでは近くに見える木々の形やサーキット施設の場所を頼りに、どのタイミングでブレーキを踏んでシフトダウンするか、ステアリングを切りながら、どこからアクセルを踏み始めるのか、全て計算しながら運転するしかないのです。
雨のレースはドライバーのテクニックの差が如実に現れる
つまり、普段以上にドライバーのテクニックの差が現れやすいのも、このウォータースクリーンの現れたレースの特徴です。
FIの伝説的ドライバー、アイルトン・セナは、その中でも「ドライとウェットでほとんど速さが変わらない」と言われた天才的ドライバーです。
彼がまだ駆け出しの頃、他のライバルに対して性能が劣るマシンでF1に出場していました。当然ながら、ドライではマシンのパワーがそのまま現れ、どうしても他の強豪勢に追いつくことができません。しかし雨が降り出すと俄然勢いを取り戻し、並み居る強豪ドライバーをガンガンと抜きまくったという逸話が残っています。
このように、雨のレースはドライバーにとって非常高い技術を要すると共に、リスクの高い危険なレースでもあります。ただ、それを見ている我々ファンにとっては、いつも以上に面白いレースを観戦できるという一面もあります。