普段、あなたが乗っている乗用車のタイヤは、路面を高速で転がる事によって摩擦熱を発生させています。
一度、長時間ドライブの後に車のタイヤを触ってみてください。予想以上に熱くなっている事に驚くはずです。これが、タイヤが路面との摩擦で熱を発生させている証拠です。また、この時、タイヤ内の空気は熱で膨張して空気圧も高くなっています。
タイヤの空気圧を計る時は、「車を動かす前、タイヤが冷えている状態で計ってください」と言われるのはこのためです。
F1マシンのタイヤ表面は溶けている
これは、普通の車以上に高速で走行するF1マシンの場合も同じです。といってもF1の場合は、さらにタイヤが高温となるため、その熱でタイヤ表面が溶け出しています。
そんな状態でどうしてあれだけ素晴らしい走りが出来るのか、ちょっと不思議になりますね。
F1マシンはエンジンのパワーが桁違いなため、普通の硬いタイヤではグリップ力が足りずにスリップしてしまいます。そこで、表面が適度に溶けたタイヤを使うと、しっかりと路面にタイヤが粘着、エンジンパワーを余すことなく使って走ることができるのです。
タイヤには適度な柔らかさと硬さが必要
ただし、タイヤの表面が溶けているといっても、あまりに柔らかすぎるとタイヤがあっという間にすり減って、頻繁なタイヤ交換が必要となります。逆に、硬すぎると充分なグリップを得ることができません。
タイヤは通常、80度~100度付近で溶け始めます。これが、遅すぎても、逆に早すぎても、マシンを速く走らせることはできません。この辺りのさじ加減は、タイヤメーカーの腕の見せ所です。
タイヤの性能を最大限に引き出すための工夫
タイヤの性能を最大限に出し切るには、タイヤメーカーの工夫だけでは不十分です。メカニックやドライバーもタイヤのポテンシャルを最大限に引き出すため、あらゆる工夫を重ねています。
例えば、タイヤを使う前にはタイヤウォーマーと呼ばれる暖房装置でタイヤを包み、タイヤの温度を高く保ちます。
また、スタート前やペースカーが入った時は、マシンをクネクネと蛇行させて、なるべくタイヤに摩擦熱を与えるような走り方が行われることもあります。
レース終盤、路面に広がる小さな粒の正体とは?
レース終盤になると、路面に無数の小さな粒が見えるようになります。これは、高温で溶けたタイヤが路面にこびりついて粒状に固まったものです。
ほどよく溶けたコンディションの良いタイヤであっても、この粒に乗り上げてしまうと、この粒がタイヤ表面に付着してグリップを大きく損なうことになります。
そのため、レース終盤のドライバーは通常のライン取りに加えて、この粒に乗り上げないような走りも求められます。つまり、レース終盤の方がドライビングの難易度が大きく上がっているのです。
この辺りのことも頭に入れてレースを観戦していると、より複雑な視点からF1を楽しむことが出来ます。