世界で初めて開催されたカーレースは、1894年にフランス~ルーアン間で行われた、ガソリン車と蒸気自動車の出場する混合レースでした。
レースの内容は、一台ごとに時間をおいてスタートし、1日を通して全行程129kmを走りきる現在のラリーに似た形式のレースとなっています。
当初このレースはお金持ちの間で優雅な遊びとして企画され、「昼になれば中間地点でのんびり食事でも楽しみましょう」という穏やかな趣向のレースとなっていました。
蓋を開けてみれば、壮絶なレースが展開される事に
ところがレースが始まってみれば、最初の趣向は何処へやら、血で血を洗う壮絶なレースの様相を呈します。人種や時代を乗り越えて、人間というものはつくづく競争が好きなようです。
この後、中間地点での食事会をする者もなく、一日中ノンストップで走り続けたそうです。最終的には蒸気自動車に乗ってレースに参加していたド・ディオン伯爵が1位となり、世界初のレースで優勝した英雄としてその栄冠をものにしました。
所要時間は6時間、車の速度を計算すると20km/h程度となります。現代の感覚からするとなんだか遅すぎる気がじますが、体がむき出しになるボディに乗って、白煙を撒き散らしながらガタガタ道を走るのですから、ドライバーには大変な労力と精神力が必要だったに違いありません。
よく考えてみれば世界初のレースを征した者として、その名を末代まで末長く語り継がれる事になるのですから、「のんびりお食事会をやりながら」なんて悠長な事を考える人がいるはずもありませんね。
ド・ディオン伯爵は新しいガソリンエンジンの時代を予見していた
その後には、5メートル遅れでパナール号というガソリン車がゴールしています。当時、ガソリンエンジンは新興の新しい技術だったのですが、このレースを肌で体感したド・ディオン伯爵は、「蒸気自動車の時代は間もなく終わりを告げ、新しいガソリンエンジンの時代が来るだろう」と感想を述べたそうです。
この時代から100年以上が経過し、今まさに自動車技術は新しい時代を迎えようとしています。それが電気自動車になるのか燃料電池車になるのか今の段階ではわかりませんが、ちょうど自動車レースの世界でも電気自動車を使ったF1に代わる新しいモータースポーツ「フォーミュラE」が開催されています。
ド・ディオン伯爵なら、「ガソリンエンジンの時代は間もなく終わりを告げ、新しい電気自動車の時代が来るだろう」と感想を述べていたかもしれません。
ド・ディオン・アクスル(ド・ディオン式サスペンション)との繋がり
ちなみにこのド・ディオン伯爵は、かつてフランスに存在した自動車メーカーの「ド・ディオン・ブートン」の創業者でもあります。
現在市販車に広く使われているサスペンション形式「ド・ディオン・アクスル」は、この会社で開発された駆動輪用サスペンションが原型です。