複雑な機械を組み合わせ、繊細なセッティングによって大きなパワーをひねり出すF1マシンは、ちょっとしたことですぐに壊れてしまう可能性があります。
また、いくらマシンのコンディションを上手く仕上げたからといって、突発的なクラッシュが起きてしまえばどうしようもありません。
そのため、レースにあったってはどんなことが起きても対応できるように、複数のメカニックとチームスタッフによって万全の体制が整えられているのです。
というわけで、全マシンが何のトラブルも無くそのままフィニッシュするという事は稀で、2016年現在までにそういったケースは5回しか起きていません。
近代的な現在のF1レースでは、たまに全車完走することがある
現在のF1マシンはコンピューターと無線通信によって、常にマシンの状況をモニタリングできるようなシステムが構築されています。
マシンに何か不調の兆候があれば、早めに対処することで大きなトラブルを未然に避けることができるのです。
このように近年のF1マシンは最新のIT技術と機械技術によって高度に管理されているため、全車完走というケースが数年に一度くらいの頻度で起こります。
例えば2016年であれば日本GPと中国GP、2011年にはヨーロッパGP、2005年のイタリアGPで全車完走の偉業が達成されています。
F1史上初めての全マシンが完走したレース
これに対して20世紀のF1GPでは、このように全車が完走するレースはほとんどありません。ただし、1961年の5月22日に行われた「オランダグランプリ」は別です。
この当時、今以上にF1マシンのトラブルが多く、途中でリタイアするマシンが出ることは何ら特別なことではありませんでした。
このレースに参加したのは、フェラーリ、ロータス、ポルシェという名門チームを筆頭に15台です。
レースの内容は常にフェラーリがリードを保ちながら、そのままフィニッシュするという単調なものでしたが、その他のマシンもトラブルに見舞われることなく全車無事に完走しています。
このオランダグランプリがすごいのは、「全車が完走した」というだけではなく、トラブルによって一時的にピットストップしたマシンさえ一台も無かったという点です。
これを持ってこの1961年に行われたオランダグランプリは、「史上初めて全マシンが完走したF1GP」という輝かしい栄冠を勝ち取ったのです。
全車完走と言っても、チームごとに周回数が異なる
ただし、全マシンが完走していると言っても、当時のF1GPのルールによってチームごとの周回数が異なります。
1位から8位までのチームは75周を走りきり、9位、10位のチームは74周、11位から13位までのチームは73周を完走しています。14位、15位という下位クラスのチームは、72周を完走しています。
当時、ピットクルーとしてピットに詰めていた人たちにしてみれば、いつまでたっても一台のマシンもピットインしてこないわけですから、暇で暇で仕方がなかったかもしれませんね。
逆に終盤に差し掛かると、「あれ、ひょっとしてこのレースは史上稀に見る珍しいレースに成るかも」と気づいて、手に汗握りながら見守っていた人もいたでしょう。