事故により損害を負った場合、被害者は加害者に対して「保険金を請求する権利」と「損害賠償を請求する権利」を持ちます。
ただ、犯罪に「時効」があるようにこれらの請求権にも時効が存在します。加害者がのらりくらりと損害賠償の支払いを引き延ばしている場合は、いつの間に時効を迎えて損害賠償を受け取る権利を失う事になります。
目次
- 損害賠償請求権の時効
- 保険金請求権の時効
- 加害者が時効による権利の消滅を主張(時効の援用)しない時
- 時効の中断
損害賠償請求権の時効
事故により損害を負わされた場合、被害者は加害者に対して損害賠償を請求する権利を持ちます。これを「損害賠償請求権」といいます。
損害賠償請求権は、事故の加害者とその損害を、被害者や法定代理人が知った時から発生する権利です。ただ、その後3年の間、加害者に対して請求権を行使しないでいると、「時効」により権利を失うことになります。
被害者が未成年の場合はその両親が法定代理人となりますので、両親が事故の加害者と損害を知った時から「損害賠償請求権」が発生します。
ただ、ひき逃げの場合は加害者が誰か分かりませんので、時効は停止されたままとなり、その後、加害者の確定が行われた時点から3年後が時効となります。
また、損害賠償の内容が確定してから支払いが行われるまでに遅延が発生する場合、1年の遅れに対して5分の遅延損害金が発生します。この遅延損害金に対しても3年の時効がありますので、請求権を行使しないでいると権利が消滅してしまいます。
通常の時効は損害や加害者を知ってから3年後が時効となりますが、被害者の傷害が後遺症を伴う場合、その症状が固定された時点から3年後が時効となります。
また、当初は何も後遺症はなかったのに、その後、時間を置いて後遺症を発症した場合は、その症状が固定された時点から3年後が時効となります。
保険金請求権の時効
自動車事故の場合、被害者は民法に定められた「損害賠償請求権」の他に、自賠責保険や加害者が加入している任意保険に対する「保険金請求権」を持ちます。
この保険金請求権は損害賠償請求権と異なり、時効期間は事故の発生から「2年」となります。つまり被害者が自賠責保険を使って保険金を請求する場合は、必ず事故発生から2年以内に行わなければならないのです。
また、任意保険には加害者が保険金を請求する「加害者請求権」がありますが、これは加害者が被害者に損害賠償を支払った時点を起点に、2年後に時効が成立することになります。
加害者が時効による権利の消滅を主張(時効の援用)しない時
損害賠償請求権には3年の時効がありますが、加害者が時効による権利の消滅を主張(時効の援用)しない限り、損害賠償請求権は存在し続けることになります。
例えば、加害者が損害賠償請求権の時効を知らず、被害者と示談を成立させた場合、被害者はこの示談による損害賠償を受け取ることができます。示談後に時効を主張しても示談の内容が覆ることはありません。
ただこの権利にも有効期限があり、「時効の中断」や「時効の援用」が行われず20年を経過すれば消滅することになります。
時効の中断
被害者が加害者に対して損害賠償請求権を行使して、民事裁判を起こせば時効は中断されます。仮処分や仮差し押さえを申請した場合も同様です。
いきなり裁判手続きは敷居が高いという場合は、「内容証明郵便」を使い加害者に「催告書」を送ることで時効を中断することができます。
「催告」とは被害者側が見積もった損害額を、加害者に請求する法的な手続きのことです。この催告を行うことで6か月の間、時効は中断されます。
内容証明を送っても加害者から何の反応もない場合は、再び時効の中断を延長するため6か月以内に民事裁判などの法定手続きを行う必要があります。
また、加害者が自分の「賠償責任」を認めた時にも時効は中断されます。同様に加害者が損害賠償の利息や一時金を支払った時も、自分の「賠償責任」を認めたことになるので時効は中断されます。
加害者が何らかの理由をつけて損害金の支払いを先延ばしにしたいという申し出があれば、このような一時金の受け取りなどを行い、時効の中断を延長する手続きを取っておくことが必要です。