今回の【試乗評価】は「新型 トヨタ・エスティマ 2.4 アエラス(3代目/FF・7人乗り)」。
2006年にフルモデルチェンジした、Mクラスのミニバン(5ドア)です。登場からすでに12年以上が経過(2018年11月現在)しており、普通の日本車なら2回モデルチェンジしていてもおかしくないくらいモデルサイクルが長くなっちゃってます。昔のようにニューモデルを出すだけでガンガン売れるような時代じゃありませんから、モデルサイクルが長くなるのもある程度は仕方ないんですけどね。
1990年に登場した「初代エスティマ」は、ミッドシップに直列4気筒を傾けて搭載するという「アンダーフロア型ミッドシップ」を採用。特殊なレイアウトとカプセルのように個性的なスタイリングが話題となった革新的モデルです。その後、大きなV6エンジンが積めないということから2代目は普通のFFミニバンとなりましたが、初代の革新的なスタイリングだけはしっかりと継承していました。
3代目モデルも、その初代のスタイリングを受け継ぐキープコンセプトモデル。駆動方式は2代目と同じオーソドックスなFF(前輪駆動)です。全高を僅かに下げつつもホイールベースを拡大、ボディサイズ自体は先代同等を維持したおかげで、広い室内とスタイリッシュなボディを上手いこと両立しています。
試乗したのは2012年にマイナーチェンジしたの中期モデルです。2016年にビッグマイナーチェンジを受けた後期モデルについては「新型トヨタ エスティマ ハイブリッド」のページを御覧ください。
「新型 トヨタ・エスティマ 2.4 アエラス(3代目/FF・7人乗り)」の概要
3代目エスティマが、マイナーチェンジを経ながら長年に渡って作り続けられているのは、「フルモデルチェンジするほどの売上は期待できないが、かといって止めてしまうほど不人気でもない」という地味ながら確実なニーズがあるからです。
まあ、別の言葉で言えば「コストの掛からないマイナーチェンジで延命している」とも言えますが。
世間は「厳つい箱型ミニバン全盛」といってもいいくらい、このサイズ以上のミニバンは押し出しの強いデザインばかりです。ヴォクシーではちょっと物足りないけど、アルファードでは厳つすぎるし、何よりもボディサイズが手に余るなんて人には「エスティマ」くらいしか選択肢がありません。
あとは「ホンダ・オデッセイ」くらいかな?オデッセイもロールーフミニバンから脱却して、徐々に「厳つい系」に近づきつつありますけど。なんでも先代オデッセイが苦戦したのは、背の低さが大きな原因とか。顧客が走りよりも室内の広々感を求めるんですって。
プラットフォームなど
基本となるアーキテクチャーは、当時の3代目RAV4などにも使われていた「新MCプラットフォーム」。「新」といっても10年以上前のものですが。
これに2.4L直列4気筒エンジンとCVTが組み合わされます。この他に3.5LV型6気筒エンジン(6速AT)搭載車と、2.4L直列4気筒エンジンと電気モーターを組み合わせるハイブリッド仕様も。アエラス系ガソリン車が18インチなのに対して、ハイブリッド仕様は全車16インチタイヤが装着されるので乗り味が優しいです。
駆動方式は、ガソリン車がFFと4WDの2種。ハイブリッド仕様は4WDのみ。
ライバルは
このクラスのミニバンは厳つい箱型デザインが多いので、直接的なライバルは少ないです。国内では「ホンダ・オデッセイ」くらいでしょう。
2012年にマイナーチェンジを実施
登場から6年目となる2012年。モデルチェンジのタイミングでマイナーチェンジを実施。フロントグリルやバンパーなど、内外装の小変更と共に装備の充実。エアロパッケージ「アエラス」には標準で18インチタイヤが装着されました。
その後、2016年には内外装の大幅な変更を伴うビッグマイナーチェンジを再び行ってます。今回の試乗車はそのビッグマイナー前にあたる中期モデルです。
ビッグマイナー後の後期モデルについては、「新型 トヨタ エスティマ ハイブリッド【試乗評価】」のページを御覧ください。
外観
ボディサイズ、全長4815mmX全幅1820mmX全高1745mm。ホイールベース、2950mm。
初代エスティマは、たまご型のワンモーションフォルムを活かした、遠目から見てもすぐに「エスティマだ!」と分かるほど個性的な車でした。「天才たまご」なんて面白いキャッチコピーも使われていましたっけ。
ノーズからルーフ、リアエンドへとなめらかな曲線が連続していて、今見ても全然古さを感じさせないところがスゴイです。
今回の3代目エスティマは、駆動方式こそオーソドックスな「FF」となりましたが、基本スタイルはその初代の先進性をそのまま受け継いでいます。
フロント
たまご型フォルムを活かした丸みのあるフロントノーズに、シャープに切れ上がるヘッドライト。個人的には初代のユーモラスなお目々の方がエスティマらしいと思いますが、凛々しさとさ精悍さでは断然3代目です。
マイナーチェンジで、ヘッドライト上端とグリルの上辺を連結させるデザインから、逆に中期型ではヘッドライト下端とグリルの下端を連結させるデザインへと変更してます。
ほんのちょっとした変更ですが、これだけで深海魚っぽいフロントフェイスから人間的で凛々しい表情へと変わりましたね。デザインの奥深さを感じちゃいます。
サイド
リアに行くほど僅かに絞り込まれる、軽快かつスポーティなデザイン。他に類を見ない独創性は初代エスティマを彷彿とさせます。
すべてのピラー(柱)がブラックアウト(黒色に塗装)されるんで、ルーフが浮いているように見えてます。いわゆる「フローティングルーフ」ってやつです。こんなデザイン要素の数々がワンモーションフォルムと絡み合って近来的な感じを演出してるんですねえ。
リア
フロントから連続的に回り込むグラスエリア下端が、リアコンビランプ上端とツライチで連結され、安定感のあるリア周りを形作ってます。むっちりとしたリア周りの面処理も「重厚感あふれる」って感じでいいですねえ。
内装
インパネからドアにかけて緩やかに回り込むライン。明るいベージュと上質な木目のコンビネーション。シンプルで居心地の良い室内です。設計がかなり古いにも関わらず、現在でも通じるモダンな上質感があります。というか、個人的には最近のトヨタ車よりこっちの方が好きかも。
薄く横長にデザインされたセンターメーターが、エスティマの「近未来感」を強調してますね。センターメーターはコストを抑える代わりに視線移動が若干多くなるという欠点を抱えますが、エスティマのセンターメーターは大丈夫。視線を落とした自然な位置にあります。
卵型フォルムのせいで、運転席からノーズがまったく見えないです。といっても視線がそこそこ高くノーズ自体も短いので、慣れてしまえば車両感覚は掴みやすいと思います。
シート
フロントシートは、十分な厚みのあるクッションと柔軟な表皮を組み合わせたフカフカシート。短距離の移動なら快適なんですが、あまり長く乗っていると腰が痛くなりそうです。まあ、移動距離の短い日本で使うならこういったセッティングも悪くありません。
7人乗り仕様のセカンドシートは、左右に独立したキャプテンシートです。乗った時の安定感や室内の広々感を重視するなら、断然こっちでしょうねえ。超ロングスライド機構や足を休ませるためのオットマン(足枕)も付くんで、気分はちょっとしたビジネスクラスって感じです。ゆったりとした気持ちでくつろげます。
サードシートは、友達や知人を「ちょっと駅まで乗せていく」なんて緊急時に活躍するシートです。クッションが薄く形も平板ですが、座面に十分な高さがあるんで体操座りみたいな窮屈な姿勢にはなりません。使用用途を考えれば十分でしょう。
荷室
サードシートを出したままでも横幅や高さ方向に余裕があり、加えて床下にラゲッジボックスもあるんで、積み方を工夫すれば結構な荷物が積めます。家族4人なら1泊旅行くらい行けるでしょう。カーゴネットを留めるためのフックや12V電源もあるんで、なにかと便利です。
もちろんサードシートを収納すればさらに広くなりますが、床下にシートが格納されるため床下収納は使えません。
静粛性
マイナーチェンジのおかげで、高回転域でのがさつなエンジン音が若干マイルドになったような気がします。高速巡航時はさらにエンジン回転が低くなるんで、その分、静かさも増す感じです。
エンジンとトランスミッション
2362cc・直列4気筒DOHCエンジンに、CVT(無段階変速機)を搭載。
エンジンは、最高出力170ps/6000rpm、最大トルク22.8kgf・m/4000rpmを発揮。
車両重量1770kg。JC08モード燃費、11.4km/l。
エンジン
2.4Lのツインカムエンジンで前輪を駆動(FF)。1770kgと結構な重量級ボディですが、スムーズに加速するだけの十分なパワーはあります。もちろん、キビキビとした走りとか有り余るパワーを使って豪快に加速するなんてことはできませんが。そんな走りを求める人には、2.4Lよりパワフルで上質な3.5LのV6エンジンをどうぞ。
アクセルを踏み込んだ時に多少がさつなエンジンサウンドを放つものの、日常領域で大きな不足の無い実用的エンジンです。ただ、燃費がカタログ値で「11.4km/l」と低く、最新型ミニバンと比較すると少々物足りません。ストップ&ゴーの多い街中なら「10km/l」を切っちゃうでしょうね。
トランスミッション
金属ベルトとプーリーによって無断階に変速するCVTを装備。エンジン特性に合わせた賢い制御でスムーズに加速します。小排気量エンジンをトランスミッションの制御でそれなりに加速させるのはトヨタならでわってところです。CVTの不自然なフィール(※)もよく抑えられています。
(※)エンジン回転ばかりが先行して車速の上がらない「ラバーバンドフィール」のこと。
乗り心地とハンドリング
前輪にマクファーソン・ストラット式サスペンション、後輪にはトーションビーム式サスペンションを装備。
乗り心地
装着タイヤは、225/50R18。
18インチタイヤ装着車は適度に引き締まったしなやかな印象。大きなうねりではフワフワとした動きをみせますが、逆に荒れた路面では周期の早い衝撃をいなしきれず若干ゴツゴツとした感じがあります。マイナーチェンジで多少マイルドになりましたが、もうちょっと柔軟な方が良いという人には16インチタイヤを装着する「X」や17インチを装着する上級グレード「G」がオススメです。
高速域での直進安定性はまずまず。ですが、ロングホイールベースから期待するほどのものはありません。
ハンドリング
アエラスは18インチを装着してるんで、ハンドリングは結構スポーティです。素直な動きで正確なラインを描きます。といっても重量級ミニバンですから、軽快な楽しさみたいなもんはありませんが。
ロールも上手く抑え込まれてて、「上屋がグラついて運転しづらい」なんてことはありません。コーナーの続くワインディングもテンポよく走り抜けてくれます。こういったのが後々の疲労軽減に繋がるんですよねえ。地味なポイントだけど。
最小回転半径は、5.9m。と結構デカイです。狭い路地では取り回しに苦労しそう。エアロを装着しないベーシックな「X」とか上級グレード「G」のほうが小回り性能が高い(5.7m)んで、特にエアロが必要ないならベースグレードの方が良いかもしれません。タイヤも「X」が16インチで「G」が17インチとなるんで、乗り心地が良いのも嬉しいポイントです。
先進安全技術
先進安全技術は、全車の接近を検知してドライバーに警告、もしくは自動減速する「プリクラッシュ・セーフティシステム」をオプションで用意。
ビッグマイナー後の後期モデルには最新の「Toyota Safety Sense」が標準装備されるんで、安全性を重視するなら多少無理をしても後期モデルを買うしかありません。
この他に運転支援技術として、前車との間に適切な距離を保って追従する「レーダー・クルーズコントロール」があります。こっちもオプション装備ですが、設定した速度で定速走行する普通の「クルーズコントロール」は標準です。
【試乗評価】のまとめ
「新型 トヨタ・エスティマ 2.4 アエラス(3代目/FF・7人乗り)」は、初代エスティマの革新的なスタイリングを受け継ぐ中型ミニバン(5ドア)です。
最近流行りの箱型ミニバンに比べると背が低く、その分室内空間や荷室も制限されますが、狭苦しさを感じるほどではありません。室内の伸びやかなデザインなんかもあって、逆に開放感を感じるくらいです。
1.7tあまりの重量級ボディに2.4リッター自然吸気エンジンですから、爆発的なパワーはありませんが、街で普通に流す分には十分。よく出来たCVTの補助でスムーズに加速します。
18インチタイヤ装着車は多少ゴツゴツした印象があるんで、なるべく柔軟な乗り味の方が良いという人には、16インチを装着する「X」や17インチタイヤを装着する「G」がオススメです。
ハンドリングは素直で正確。乗りやすいですが、面白さを感じるようなもんじゃありません。
この中期モデルの後。2016年にビッグマイナーチェンジが行われてます。近未来的な外観にピッタリと合う、サイボーグチックなフロントマスクを得て一段と魅力的になりました。
エンジンや足回りにも手が加えられ、ぐっと近代的な乗り味になってます。加えて先進安全技術「Toyota Safety Sense」も標準で装備されるんで、「中期型のスタイルが好き」とか「なるべく安くエスティマを買いたい」といった特別な事情が無い限り、最新の後期型を買ったほうが無難でしょう。
中古車市場では
2016年式「トヨタ・エスティマ 2.4 アエラス(3代目/FF・7人乗り)」で250万円前後。2013年式で200万円前後(2018年11月現在)。
新車価格
3,145,745円(消費税込み)