「パワーショベル」とは、戦車にも使われる金属性の走行装置「無限軌道(クローラもしくはキャタピラー)」の上に、キャビン(キャブ)と呼ばれる運転席と、油圧シリンダーによって動く巨大なアームを装備した作業用重機のことです。
三菱重工が「ユンボ」の名称で広く製造販売していたため、そちらの名前で覚えている人も多いでしょう。僕も子供の頃は「あ!ユンボだ!」などと言って、その作業の様子を興味深く眺めていたもんです。
パワーショベルは、一般的な中型タイプで全長8m前後、全高3m程度のサイズがあります。これくらいのサイズでも、近くで見ると結構な迫力と重量感がありますが、世の中にはもっと大きなパワーショベルがあるんです。
それが「日立建機株式会社」の製造販売する世界最大級のパワーショベル「日立 EX8000」です。
世界最大級のパワーショベル「日立 EX8000」の大きさと価格
「日立 EX8000」は、無限軌道(キャタピラ)部分の全長が10.5mで車体の全長は12mくらい、車体幅10.87m、全高9.9m(運転席に座ると3階建てのビルと同じ高さ)です。車両重量はなんと811tに及びます。一般的な乗用車の重量が1.5t程度ですからこれは驚異的な重さです。また、ショベル部分にいたっては、最大で20m以上の高さまで伸ばすことができます。
車両価格も超弩級で、一台でなんと13億円。普通のプレハブ住宅なら40戸から50戸も買えてしまう額です。
パワーと燃費
この大きなボディを支えるパワーパック(動力)も普通じゃありません。1,971馬力のディーゼルエンジンを2基搭載しており、一日で14,900Lの経由を使い切ります。
もはやここまでの大きさがあると、乗り物とか車といった範疇を大きく超えており、「動く建物」といった方がふさわしいです。
これだけの大きな機械ですから、日本国内に活躍できるような場所はありません。オーストラリアやアメリカ、カナダ、モザンビークといった、巨大な露天掘り鉱山のある国に運ばれ、活躍することが多いです。
輸出するにもやたらと手間が掛かる
そういった海外の現場に「日立 EX8000」を輸送するには巨大な輸送船を使いますが、「日立 EX8000」をそのまま積めるほど大きな輸送船はありません。
そこで、輸送の際は一度小さな部品にバラして、現地で再び組み立てるという手法を使います。組み立てるといってもこれだけ巨大な重機です。完全な稼働状態にまで再び仕上げるには、どんなに早くても3週間は掛かります。組み立てた後もすぐに使うことはできず、試運転やテストなども必要で、とにかくやたらと手間が掛かります。
頼れる相棒、巨大ダンプトラック
パワーショベルで掘り出した土砂は、「ダンプ」と呼ばれる荷台付きの大型トラックで運び出します。
しかし、「日立 EX8000」のショベルはそんじょそこらのショベルと違って巨大です。掘り出す土砂の量も一回で40㎡と半端ありません。普通の10tトラックでは、一回でペシャンコになってしまうでしょう。
そこで「日立 EX8000」の対となるダンプトラックには、土砂の量に応じた巨大トラックが使われます。その荷台も巨大で、最大積載量はなんと300t。これは、日本の路上でよく見かける10tトラックと比較すると30台分に相当します。この巨大なダンプトラックの荷台も、「日立 EX8000」に掛かれば4回程度すくい上げるだけで満杯です。あまりに桁外れすぎてちょっと想像がつきませんが、とにかくスゴイ事だけは分かります。
パワーショベル1台に対して、ダンプトラック4、5台が1セット
「日立 EX8000」を業者が発注する場合、パワーショベル1台に対してダンプトラック4、5台が1セットで発注される事が多いです。これは、パワーショベルの仕事量に対して、一番効率よく土砂を運び出すための計算が元になっています。
また、運転席には24時間快適な連続稼働(オペレーターは交代勤務)が行えるよう、電子レンジや冷蔵庫などを設置するスペースも確保されています。運転席というより、ちょっとした事務所といった感じです。
巨大パワーショベルの泣き所
そんな無敵を誇る巨大パワーショベルにも、唯一の泣き所というかデメリットがあります。それは、その巨大すぎるボディが災いして、最高時速が2.0km/h程度しか出せないのです。といっても「日立 EX8000」は、土砂をすくって巨大トラックに積み込むのが仕事です。一度作業する場所に設置されたらそうそう動かすことはありませんから、猛スピードで走り回るなんて能力は不要でしょう。
逆にビルみたいに巨大な重機がガンガン走りまわっていたら怖すぎるし、第一危険です。まあ、正直そんな「日立 EX8000」を見てみたい気はしますが。